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黒澤明の完璧主義というのは誤解を生んでいる。

映画とは所詮虚構の世界だ。事実を完璧に撮影したとしてもドキュメンタリーでない限り、そこには創作が生まれる。たとえドキュメンタリーであっても製作者はじめスタッフのメッセージや意図をしのばせることは容易く、捻じ曲げられた事実を見せることすら造作もない。

結局、提示される映像は全て噓ならば最初から作り事を見せられるほうが安心できる。

作り事を本当らしく見せるためには噓の周囲を本物で作り上げる必要がある。その嘘を本当にする手段としてのこだわりやテクニックがただならず、その嘘自体が極端な表現であっても、力技に近い説得力を持たせてしまうのが黒澤だった。

いい意味で天下の大噓つき黒澤といえなくもないだろう。

 

彼の「赤ひげ」は、その映像テクニックの集大成といってもいい作品だ。

しかし貧困者の医療を扱う作品のため、どうしてもトーンが暗くなってしまい、ストーリー自体もステレオタイプで深みが感じられない映画でもあった。

人物描写においては二木てるみの演じたおとよを除いて薄っぺらな感じで、他の役者も演技的にはあまり光る点はなく三船敏郎を含め、せいぜい及第点と言ったところだろう。

実際、中学時代に学校から鑑賞しに行った時、なんと長たらしく暗い映画なんだろうと、すっかり黒澤明が苦手になってしまった時期があった。

 

その後ある程度ではあるが映画を観ることが増え、いささか映像表現の知識も増えた段階で再見すると、驚くべき映像テクニックの連続であることに気づいた。

とはいえストーリーや役者に関しては初見の域を出ることはなかった。

そしてこの「赤ひげ」が黒澤明の最後の傑作となった。

 

この映画は撮影テクニックの教科書的な作品で、映像関係にかかわる人間は大いに研究するべき価値があるものの、一般のストーリー重視の観客が観たとすると良い映画かもしれないが、「市民ケーン」同様あまり面白いとは言えない映画であることも確かだ。