ジョージが選んだ20世紀 | dvconのブログ

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映画を観る時はなるべく事前情報を入れないようにしている。最低限の基礎知識だけで作品に向かうようにするのが私の映画鑑賞スタイルだ。

とはいえ、情報を避けていても、作品に対してある種の期待感を持ってしまうのは止むを得ない。それが外れたときに満足するかガッカリするかが映画鑑賞の醍醐味といえるのかもしれない。

肉マンだと思って食べたらアンマンだったという…ってのは前も書いたか…

前回のジュリー・アンドリュースつながりでこんな事があった。

映画を観始めた初期の頃、ミュージカルスターのジュリー・アンドリュース主演「南太平洋」のジェームズ・ミッチェナー原作という事前情報だけで、楽しいミュージカルだとばかり思いこんでいた「ハワイ」という、いかにも明るく楽しそうな作品名の映画があった。

パンフも晴れ渡った青空をバックに帆船が帆を広げ、ジュリーのアップが写って、否が応でも明るいミュージカルを連想した。

さて映画が始まり繰り広げられたのは、ハワイに赴任した宣教師夫妻の苦労話だった。しかも3時間もの艱難辛苦超大作。

 

観終わって別の形でも満足できたならまだしも、なんともやりきれない気分となった。

確かにアップのジュリーに笑顔は無かったし、やたら大仰な文章が書かれていた。

事前知識を入れなかった報いなのだが、これほどの大ハズレは滅多にない。

とはいえ、やはり基本的に何も知らずに作品には向かいたいというスタイルは未だ続けている。

「ハワイ」の監督はジョージ・ロイ・ヒル。「明日に向って撃て!」以降で人気監督となる以前の新人時代の大作だった。ハリウッドでは腕試しと言うのか、新人にいきなり大作映画の演出を任せることが時としてあるようだ。

とはいえ作家の映画スタイルに、かなり方向性の違いがあったのは否めない。ロイ・ヒルはまだ自分の世界を確立する前でもあり、包丁を握ったばかりの板前が、いきなり巨大マグロをサバいて解体ショーをしろと言われた気分だろうか。

 

ロイ・ヒルが自分スタイルを確立したのは「明日に向って撃て!」からで、無法者ブッチとサンダンスの夢見る逃避行とでもいうか、時代との齟齬を感じつつ、自分たちの居場所を求める男たちの顛末が描かれている。

同じポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが出演する「スティング」は娯楽映画の傑作で、最後にあらゆるパーツがピタリと当てはまる展開には快感すら覚える。

そして「華麗なるヒコーキ野郎」では上記2作に続いてレッドフォードとの3度目の作品で、複葉機乗りの男が追い続ける夢の世界が楽しくも切なく描かれた。

いずれも20世紀初頭を舞台とした、過去を慈しむような3作品が公開された1970年代が、作品数のあまり多くないロイ・ヒルの黄金期だったといえるだろう。

他には「スローターハウス5」「ガープの世界」といったアメリカンホラ話のような作品があったり、「リトルロマンス」ではロイ・ヒルがなんで思春期物映画を作るのかなと思っていると、その二人に付き合わされるローレンス・オリビエが楽しく、そのなかで「伝説は自分たちが作り上げる物」というセリフにロイ・ヒルらしさを見ることができる。

 

結局、過去のロマンを追う男を描いたロイ・ヒル自身、作品で過去に浸っていられたころが、最も自分らしい映画を残せた時代だったのだろう。

その20世紀が終わりを告げると、21世紀を否定するかのように彼は旅立っていった。