里山や湿原、滝、川など地域の自然をフィールドに年間10回実施している釣りキチ三平の里自然体験塾が7月に1000名を突破した。
釣りキチ三平の里自然体験塾とは、横手市の社会教育施設である釣りキチ三平の里自然体験学習館が主催している親子や子どもを対象とした自然体験活動のことである。
釣りキチ三平とは、漫画家の矢口高雄さんが描かれたキャラクターであり、矢口さんは体験学習館近くの自宅で生まれ、周辺の地域で育った。
周辺は、奥山を背景に田んぼや川などが残る豊かな自然に囲まれている。
釣りキチ三平という少年も漫画に描かれた自然を土台に遊び駆け回る。体験学習館はかつての矢口少年の母校でもある小学校が閉校となりその施設を宿泊も食事もできるように改修されたものだ。
施設には、地域の交流センター(狙半内地域交流センター)が併設されておりセンター職員の他に体験学習館職員も2名常駐している。
この施設をベースにほぼ毎月1回自然体験活動を展開している。
振り返れば、6年前、体験学習館に「地域の自然をフィールドに自然体験活動をやらせてもらえないか」と提案した。
当時の職員も近所で幼いころからの知り合いであったこともあり快く提案を受け入れてくれた。
活動を始まる直前には、横手市長や当時の教育長を前に4月から自然体験活動をスタートさせると記者会見を行った。
慣れない記者会見であっただけに当時の職員と共にとても緊張したことが懐かしく思い出される。
私自身も教職を定年退職して3年目を迎えようとしていた。
そもそも定年退職前には、幾分迷いも抱えながら「主に子どもたちを対象に自然観察会を行いたい」と宣言していた。
現職時代からも休日には、ボランティアで自然観察会を行っていた。
その中で、うすうす感じていたのは、「子どもたちは自然に触れる機会があまりに少なすぎるのではないか」ということだった。
同時に思ったことは、子どもたちのより良い成長のためには自然体験活動が必要だ、もしかしたらこの活動は私が求めていたものであり第2の人生にふさわしいものになるのではないかということだった。
だから、すでに始めていた「わくわく科学工房」という元理科教師らによる自然観察会や自然観察指導員や秋田県森の案内人協議会による自然観察会に加え、自分が思い描くような自然体験活動も必要だと感じていたのである。
とはいえ、どちらかというとやる気より不安の方が大きかったことも事実だ。
そもそも自分が自然観察や自然体験活動などリードできる力量があるのか、子どもたちが集まるのか、自分だけではなく一緒にリードできる仲間がいるのかなどの問題である。
そこにちょうどよいモデルがあった。
お隣岩手県西和賀町で30年以上毎月1回地域の自然をフィールドに自然観察会を行っている写真家の瀬川強さん陽子さん夫妻の取組である。
まさに地域の自然を熟知されている方でありその自然の魅力を地道に広げられている方である。
幸い、現職時代から通っていたこともあり知識の吸収だけでなく観察会のノウハウを取り入れていくことができそうだ。
また、教職を退職後、すぐにふる里周辺の自然好きの仲間に声をかけ、増田ネイチャークラブという、いわば地域の自然愛好サークルのようなものを作った。
会員同士は、直接会わなくてもグループラインを作り、体験塾の講師を一緒にやってくれる方をその都度募集することにした。
体験学習館からも少なくとも毎回2人分の謝金を出していただけることになった。
となれば次は募集の仕方だ。
チラシは、私が毎回作成するにしても申込先は体験学習館にお願いした。
地元の新聞や市報やコミュニティFM放送などのメディアにお願いすることもあったが、とにかくチラシを公民館や図書館など置いていただけるところにはお願いした。
3年目からは、年度が始まる前に、市内小学生すべてに渡してもらうことにした。
そして、迎えた2021年4月の1回目。
フィールドは、まさに体験学習館近くの三平の里である。
1回目にしては物珍しさもあって20名ほどが集まってくれた。
当初は、保護者が入らない子どもだけの募集である。
フィールドを2時間ほど歩きながら終盤に差し掛かったころである。
1人の男の子が誰にでも聞こえるような大きな声で叫んだ。
「あ~、つまらなかった!」
ショックだった。
1回目のことは、この言葉しか印象に残っていない。
言葉を発せられた時には、ショックのあまり「体験塾など提案しなければ良かったのか」とさえ思った。
ただ、この言葉はこの子の正直な感想であるのだ。
それを咎めてはいけない。
何が足りないのか考えた際にあまりに解説型に徹していたからではないかと反省した。
体験塾と名打っているからこそもっと遊びの要素を取り入れた体験活動を取り入れねばならないのではないか、そう考え、翌年からは釣り堀池を通る際、まだ魚が入る前にはアカハライモリが多くいることに気づいた。
そうだ、これだ!
3年目からは、イモリ取りもあるとチラシに明記したら参加者が急増した。
同時に参加対象も子どもだけでなく保護者も混じってよいことにした。
その結果、まだおむつをしている1歳児も母親と一緒になってイモリのいる釣り堀池に入っていた。
また、こんなこともあった。
世界最小とも言われるハッチョウトンボが棲む湿原に案内した、
ところが、この湿原は浮島もあり、小学生の男の子が下半身埋まってしまった。
「助けて!」という声と共に。
幸いみんなで助け出したが、以来ハッチョウトンボを追いかけなくても他にフィールドがあるのではないかと考えたのが川に入ることである。
今の時代、川にまして親子で入るという機会はないだろうから毎年、大人気の企画となっている。
ところで、体験塾を始めた2021年はまさにコロナ禍と呼べるほど大変な状況で、「ステイホーム」「不要不急の外出禁止」が合言葉であった。
その中で参加者を集めることは困難であったが、参加者を信じ、参加者の判断に任せることにした。
そして、2025年は「クマ禍」と呼んでも良いほどの熊の出没が相次ぎ、被害も出た。
どんなに集団で安心だろうと思っても山に入ることが憚れるほどのニュースや噂が流れた。
学校や社会教育などの野外活動が次々と中止となる事態が続いた。
ようやくコロナが明けたと思ったのにと忸怩たる思いであった。
正直、自分では大丈夫だと思っていてもまわりの空気がそれを許さなかったという感が強くその空気感がつらく堪えた。
2026年の春になってもそれは同様だった。
ちょうどそのころ、ある教育旅行会社が「オオカミとクマについて学ぶイエローストーン国立公園ツアー」という企画が目に留まった。
かかる費用や日程に不安はあったが、思い切って申し込むことにした。
このツアーに参加して吹っ切れるものがあるのではないかと期待しながら参加した。
実際、ツアーは「熊合宿」と呼んでも良いぐらいの深い学びを得て帰国した。
少なくとも4人以上のグループ、手をたたき声を出しながらあることで、思わぬ出会いがしらの遭遇は避けられると確信した。
それからは、アメリカ・イエローストーン国立公園で学んだ成果を参加者にも共有しながら進めている。
1000名に達した7月11日の川での体験塾はやはり大人気。
この日も45名の参加者があった。
これには、事前に狙半内地区交流センターが発行する通信で「親子の川での活動を見に来てください」と呼び掛けてもらった。
私も狙半内自治会長に電話をかけ、「良かったらこぞって見に来てください」とお願いした。
当日は、バスの運転手2名も含め、狙半内地域の数名の方も橋の上から見てもらったり川に入って子どもたちにカジカの取り方を伝授したりと見守りだけでなく川の遊び方まで教えてもらった。
まさに地域ぐるみの体験塾となった日であった。
次は、7月30日から31日までのキャンプである。
初日は、7年ぶりに開設された昭和湖を経由しての栗駒山登山である。
こちらは、子どもだけの参加となる。
毎年大人気の企画で定員20名に対して競争率が2倍を超えるほどの人気ぶりだ。
大人も山岳看護師含め2名の看護師そして増田ネイチャークラブや横手市の職員など10名が付き添う。
春夏秋冬、地域のフィールドをベースに広く親子や子どもたちを募る体験塾もようやく参加者が延べ1000名を超えた。
リピーターの中には、たまに高校生や中学生になっても参加してくれる子もいる。
彼らは、もはや小さな子どもたちに自然や生き物のの知識だけでなく危険回避のノウハウまで教えてくれる準スタッフとも言える存在である。
参加者1000名到達というのは、私のひそかな目標であった。
だが、通過点でもある。
次は1500名、そして10年目を目指したい。
その中で育っている子どもたちはとても頼もしく誇りでもある。
これまで取り組んできたことは小さな活動であったかもしれない。
しかし、それは同時に「子どもが育っている」という大きな成果として地域や家庭に還元されていると確信する。