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アメリカンスナイパー』を観てきた。
実はイーストウッド監督作品を映画館で観るのは初めて。

家でDVDをテレビ画面で観るだけでも毎回胸にズドンときてその後何日かは思索する日が続くというのに、映画館で観たらどうなるんだろう、と思った。

が、イーストウッド作品の持つ体内浸透力は画面が大きかろうが小さかろうがあまり関係ないことが分かった(個人的には)。

と言っておいてなんだが、今作は映画館で観た方がいいと思う。

音が凄いから。

戦争の凄まじさをビジュアルで伝える映画は山ほどあるけれど、映像でそれを伝えると直接的すぎて観客の思考を停止させてしまう恐れがある。だからあえて音で伝える手法を取ったのでは、と勝手に推測。

そして、アカデミー賞で音響編集賞を取ったと観た後に知って、ものすごく納得。

そして書きながら改めて思いました。この作品が他の戦争映画とハッキリと違う所は、観客が感情的になるのを阻止しようとしているところではないか、と。

まぁ彼の作品は常にそうなんだけど、特に今作は彼の中にある「ドラマティック禁止令」(と勝手に命名)のレベルが上がっている気がする。

題材が題材だから観客を煽る表現はやろうと思えばいくらでもやれる。
そして、「戦争はむごい!」「平和は素晴らしい!」と、いくらでも観客の感情面に訴えかけることができる。

それをしないのは、安易な反戦主義にも安易な愛国主義にもイーストウッドが違和感を抱いているからではなかろうか。

どちらの先にも闇しかないぞ、と。

いやもちろん、戦争はむごいし、平和は素晴らしい。大切な人を守ろうとする気持ちや行為は尊い。これに異論がある人は稀だろう。

しかし、イーストウッドは現実を無視した理想主義にもイデオロギーで美化された愛国主義にも違和感がある(と思う)。

そして、観客に、これまで感じなかったことを感じて欲しい、考えてほしいんだと思う。思考停止に陥る前に。いや陥った後でも。 

何かに巻き込まれて、圧倒されて錯覚するのではなく、自らの感覚と思考で、現実に向き合ってほしいんだと思う。

この作品はアメリカ人が観るのと日本人が観るのとでは印象も感想も大きく変わってくるだろう。
もちろん国だけで分けられる話ではないだろうが、それでもやはり、イーストウッドがこの映画を誰に向けて作ったかといったら、一番には間違いなく彼の祖国アメリカだと思う。

イーストウッド監督が様々な作品を通して突きつけてくるアメリカの闇。

そこには、自らが俳優という職業を通じて銃で敵を殺すヒーローを演じてきたことへの贖罪が含まれているだろうし、だから彼の作品は常に内省的で、だからこそ、とんでもない説得力がある。

この映画を、銃や殺しとは無縁の世界で生きてきた人物が撮っても、ひたすら説教くさくなるか、理想論が上滑りするリアルさのかけらもない作品になったと思う。

以上、イーストウッドマニアの皆さんからしたら今さら何をな話かもしれないが、つれづれなるままに、しかし自分なりに推敲して、感じたことを綴ってみた。


ここからはネタバレ……というほどではないけれども、観た後で読んでもらった方がベターかもしれない。といっても、読んだからといって作品全体に関しての感じ方には影響はないと思うけれど。





ワタシ、冒頭の戦車の撮り方から唸りました。めちゃめちゃ接写してる。重低音を轟かせ、地面にある物を踏み倒しながら重く強く進んで行く戦車の恐ろしさ。
あんなモノに接触したら、踏まれたら、という恐怖を、あの数秒のシーンだけで感じさせる。

戦場での日常が、平和な場所での日常といかに違うものであるかをしょっぱなから、ほんの数秒で、全くドラマティックではないシーンで表現する。
やっぱりイーストウッドは凄い、と感じたオープニングだった。


あと。観てから知りましたが、アカデミー賞で6部門でノミネートされたものの、結局「音響編集賞」を取っただけに終わったのね。この作品を国として手放しでほめることはできないというアメリカの現実が浮き彫りになっているような気がした。

いずれにせよ、こんなに重く広く深いテーマを、面倒がらずに真っ向から描いてくれたイーストウッド。84歳。天晴れ。




PS
イーストウッドはワタシと同じ双子座B型と知り、あぁぁぁ……と、腑に落ちました。勝手に。

基本、感覚派なんだけど、感覚だけでものを言ってはならない、物事を公平に見なければならない、という気持ちが強い人なんじゃないかと推測します。勝手に。

あと、「ザ・アメリカの軍人」と言いたくなるビジュアルのクリスを演じたブラッドリー・クーパー。彼が、17歳年下でバーバリーのモデルなどでも活躍しているイギリス人モデル、スキ・ウォーターハウスと交際中の色男ブラッドリー・クーパーだと認識したのは帰宅してからでした。

アメリカの俳優の肉体改造へのプロ根性は今に始まったことじゃないけど、凄い。一日8000kcal摂取して毎日4時間のトレーニングをして18kg増やしたらしいよ。