ぽんぽん「もしも赤点が多くて」

ぽんぽん「留年になりそうな場合」

ぽんぽん「学校から電話が来ると思う」

ぽんぽん「頼んだ」

 

1年を通した成績が及第点に至らない場合ですが、試験休み期間中に、学校から呼び出しがかかるものなのだそうです。学校から電話が来たのなら馳せ参じ、課題をいただいて、自習などすると加点され、結果として進級できるようになるという仕組みだと伝え聞いているのでした。

 

ぽんぽんのいうところは、そういった流れだと受け取ったカルデラは、あの日から携帯を肌身離さず持ち歩いてきたのです。風の音、虫の音を聞くにつけ、遂に携帯が鳴ったのかと確かめるのですが全てが幻でした。電話は、鳴らなかったのです。

 

そろそろ終業式です。もしかして、ひょっとすると、ぽんぽんは赤点を逃れたのでしょうか。2学期の期末時点では絶望的な点数だったはずです。先生からは3学期こそは進級をかけて頑張るように強く言われてもいたのです。

 

果たして何点取れていたのでしょうか?ぽんぽんは沈黙を続けています。

 

 

 

ぽんぽん「模試が返ってきた」

カルデラ「見せてね」

ぽんぽん「だめです」

 

1月と言えば、ぽんぽんが共通テスト同日模試を受けて、456点を叩き出したことが記憶に生々しいカルデラですが、ぽんぽんは他の模試も学校で受けていたようすです。

 

ぽんぽん「判定なら教えてもいい」

ぽんぽん「東大 E判定!」

カルデラ「ですよねー」

ぽんぽん「北関東の藩屏(※)大学 D判定」

ぽんぽん「北国帰りの大学 B判定」

 

うーむ。北関東で藩屏としての役目を果たしているあの大学を考えていたとは……。ぽんぽんの学力では、かなり頑張らないと合格は頂けそうにありません。

 

そのうえ東京の自宅から通うのは厳しそうです。下宿をするしかありません。自動車がないと生活もアルバイトも出来ない環境でしょうから、車も、車の維持費も恐らくは必要です。そして学費です。あわせて1000万円は軽く超えていきそうです。仕方が無いですが、震えが止まりません。

 

 

◇ゾスコッカラス文明の歴史◇

紀元2026年3月16日

王ぽんぽん(KingPonpon)は作戦地図を拡げ、指し示した。

 

K.P.「北へ進軍する場合はどうか」

とある模試「D判定です」

とある模試「攻略難易度は極めて困難と言えます」

 

王ぽんぽんは、前期日程で東大親征、のちに、後期日程で筑波山の深淵にある魔導都市を征するつもりであるらしいと、母なるカルデラはこのとき気付いた。東大で神をも屠る力を振り絞ったあと、深淵の魔導都市に挑むという、魂を二度焼き尽くすがごとき死の行軍である。無謀、あまりに、命知らず。母なるカルデラは「その計画はリスクを軽視しすぎている」と喉まで出かかったが、堪えた。今は未だそのときではない。

 

※藩屏(はんぺい)とは…

垣根や塀、囲いを意味し皇室や王家を守護する存在

ex皇室の藩屏=華族のこと

 

共通テストまであと305日

 

 

 

夫は仕事に行くのがつらいようすです。

 

私は夫を励ますようなことはしてきませんでした。つらいというなら、その気持ちを理解しようとしてきました。私ならそうして欲しかったからです。けれど、夫が私に欲しかった行いは、それではなかったのかも知れないと、今しがた気付いたのでした。

 

夫が欲しかった本当の言葉は、次のようなものだったのではないでしょうか。

 

夫「つらいよぉ、仕事、嫌だよぉ」

カルデラ「傷は浅いぞ、しっかりしろ!」

カルデラ「おまえは未だ戦える!」

 

戦場で、もう無理にしか見えない戦友を抱いて言う、あの台詞を想像して読んでください。どうしようもないのだからこそ、戦士の誇りをせめて認めて、夫のもつ能力への信頼を示すことが必要だったのではないか、と思い至ったのでした。それでも

 

カルデラ「だから、今は休め」

 

そう言えるだけの余裕はあると考えているカルデラです。

 

若き日の夫は立身出世を志していたのです。けれど、現実は残酷でした。今の夫はリストラの危機にあるのです。夫が今戦っている場所は、かつてのように出世や成果を競う戦場ではなく、理不尽な環境下で、自分自身の尊厳を失わずに、定年まで完走するという別の戦場です。

 

今の状況は夫にとって、きっと、屈辱以外の何物でもないはずです。それでも、同年代が次々と職場をご勇退なさっていくなかで、夫が今ここに踏みとどまっていること自体が戦績なのだと、私は思っています。夫は偉いのです。

 

かつて出世競争の最前線にいた夫にとって、一番辛いのは憐れみを感じることかもしれません。私の態度は、可哀想な夫を前提としていたと先ほど気付いたのでした。私から発せられるメッセージを、夫は「自分は、もう、終わった人間なのだと思われている」と受け取っていた可能性があります。

 

かつては最前線にいた夫が、今は年下上司の下で、昔とは違う仕事をしながらリストラにおびえつつ、耐えているのが今です。これで苦しくない人間なんてこの世にいるはずがないのです。

 

 

 

留年の危機にさらされている高校2年生のぽんぽんですが、志高く、東大を受験することを諦めていないようすです。先輩が東大に受かったようで、その事実が、ぽんぽんの心を熱くしているのでした。

 

1月にあった共通テスト同日模試では456点しかとれていません。ですが、そんなことで折れるような、ぽんぽんのプライドではありません。そんなことよりもまず進級だろうといった世俗の正論など、ぽんぽんの燃える心の前では、灰燼と同じなのです。

 

根拠などなくても、無謀と誹られても「俺はやる」と信じきる、その力の尊さよ。それこそが、私が失ってしまった、蛮勇という名の若い力なのでした。若さを別としても、人生を打ち破る力とは、こういう姿をしているのかも知れません。

 

受験について私は、ぽんぽんが納得するようにすれば良いと思っています。子供の人生がかかっているのになんだか冷たいようですが、自律的に自分の人生を生き抜いたという事実こそが、命の充足感につながると私は思うのです。

 

ぽんぽんの人生は、ぽんぽんのものです。この点数では東大は無理だからといって、願いという名のその動力を、私が取り上げてしまって良いはずがありません。

 

夢が人生を縛ることは確かにあります。もしも、そのときが来るのなら、私がぽんぽんを支えます。つらくとも、ぽんぽんに引導を渡す覚悟くらい、この母は持っています。

 

だから、今は走れ、ぽんぽん。

悔しさも情けなさも全てを振り切って、

あの夕日に向かって、走れ。

そして運命の向こう側へと突き抜けろ。

 

 

◇ゾスコッカラス文明の歴史◇

紀元2026年3月12日

王都が進級判定という名の暗雲に包まれる中、王ぽんぽん(KingPonpon)は光り輝くマニフェストを放った。

 

「来年、俺は東大合格者に名を連ねる」

 

この蛮勇こそが、ゾスコッカラス文明を支えるエネルギー源であるところの、無根拠な全能感であった。王が王であるために必要な命の充足を与えるのは、自律的な決断である。世俗の示す効率的な正解を選ぶことよりも、王自身が選んだ正解に向かって、ボロボロになりながらでも歩を進めることが、ゾスコッカラス文明が存在した証左となる。その先に待っているのが、合格という名の楽園であれ、就職という名の新天地であれ、母なるカルデラは共にあるだろう。

 

共通テストまであと309日

 

 

 

 

 

電子レンジが壊れたのでした。夫は当然のように直そうとしています。

 

20年使い続けているレンジです。これまで何度も壊れてきましたが、その度に、夫が修理をしてきたのです。それでも近頃は、稼働しないことが頻繁になってきました。

 

カルデラ「新しいレンジを買いたい」

カルデラ「もう内部の絶縁体とか、危険な状態かと」

カルデラ「マグネトロンは限りある資源だし」

夫「また直すから平気」

カルデラ「発火したら怖い」

 

夫「直す」

カルデラ「買おう」

 

ぽんぽん「いくらなんだ」

カルデラ「ただいま激安で(もうセールは終了しています)」

 

 

ぽんぽん「頃合いなんじゃないか」

 

夫「直したい」

夫「1ヶ月でも2ヶ月でも掛けて、直したい」

 

夫は物を大切にする性格をしています。これまで壊れた幾多の家電も、捨てることが出来ずに、家に置いてあるのです。

 

いつかその家電たちを復活させるという夢を見ている夫です。夫のこの性格は私にとっては天恵で、だからこそ私は離婚されずに、今日まで遊んで生きてこられたのだと感謝しています。なので、あまり強くも言えません。

 

20年の年月を大切に守られてきたレンジです。もはや大往生と言って良いと私は思っています。このまま少しずつ修理を受けながら天寿を全うするのかもしれません。

 

とはいったものの、新しいオーブンレンジを買うことにはなりました。とりあえず、20歳のレンジを使いつつ、新しいレンジも家に置いておくということで、家族は妥結したのでした。

 

それでも、修理に没頭する夫の背中を見て、胸を突かれた私です。20年戦士のレンジに、必死になって息を吹き込もうとする夫の姿は、若い年下上司のいる厳しい職場で、必死に自分を守っている夫の、うつし鏡ではないかと気付いたのでした。

 

「ロートルはつらいぜ……」

 

老いた電子レンジの言葉が聞こえるようでした。

 

 

ロートルとは…死語。老兵、あるいはピークを過ぎた者

夫はAIにアイデアを求めたことが無いのだそうです。自分の頭脳による血の通った0→1にこだわっているのです。

 

夫には人間としての強い誇り、思考という叡智を持つ、生き物としての矜恃があるのだと、私は思っています。人類を革新するアイデアとは、人間の中からこそ産まれるのだというロマンに殉じるのも、人の道かもしれません。とは、いったものの……。

 

夫「ああ、星が光ってる、綺麗だなぁ」

夫「でもあんな星なんてあったかな?」

カルデラ「見えているのか……その星が!」

 

ふと見上げれば、西の空に輝く星。

名を西郷星という。

それは天に約束された運命の告知であった。

 

西郷星でなく死兆星にしようかと思ったのですが、「おまえはもう死んでいる」というのもあんまりなので、辞めておこうと思いました。

 

夫が、人としての矜恃、人間へのロマンに殉じようとするならば、私はその最期(=リストラ)を見届ける覚悟を、決めなければなりません。

 

 

 

 

カルデラ家の蜜柑リレーは11月に始まりました。

最初に買ったのは美柑王です。今年もおいしい蜜柑を迎えられたという喜びでいっぱいになりました。美柑王はその時期ごとに出荷できる温州みかんを光センサーなどで選別したトップブランドなのだそうです。夫は温州みかんが大好きなので大変満足したようすでした。5kg5000円ほどでした。

 

12月に買ったのは瀬戸の晴れ姫でした。清見×オセオラに、宮川早生を交配させ、長い時間を掛けて育種されたのがはれひめです。そのなかで、糖度などの基準をクリアした品が、瀬戸の晴れ姫と呼ばれるそうです。オレンジの香りを持ちつつ蜜柑の剥きやすさを備えた種のない品種です。4kg4000円ほどでした。

 

1月、2月は甘平(かんぺい)でした。その名の示すように強い甘みと平たい見た目をもった蜜柑です。形もさることながらその特徴は、シャキシャキとした歯ごたえにあります。粒がしっかりしており、房のなかの一粒一粒が口の中でプチプチと弾けるのでした。糖度は高く、酸味は少なめです。

 

1月の甘平が秀5㎏6000円。2月の甘平が秀5㎏7000円でした。そして最後の3月は、せとかです。ゼリーのようにプルプルした食感に特徴があります。気品あるオレンジの香りと濃厚な甘みが華やかな蜜柑です。秀4㎏7000円でした。

 

冬が去って行きます。ありがとう、みかん。あたたかな部屋で食べる甘酸っぱい蜜柑が寒い季節を豊かにしてくれました。誰ひとりのことも見捨てずに巡る季節です。今年も秋が来たら、またおいしい蜜柑に会えるのを楽しみにしております。

 

 

 

 

 

 

「孤立しやすさ」の背景に迫る―日本人6万人の解析から 社会的孤立に関わる遺伝的背景を東アジアで初めて解明―

 

 

上は京都大学の研究です。

 

結果として分かったのは、社会的孤立と遺伝子には、関係があるのではないか、ということです。

 

遺伝子を調べたところ、社会的孤立に関連する2つの特定のDNA領域が見つかったそうです。2つの遺伝子領域はそれぞれ関連する社会的孤立の種類が違ったそうです。

 

ひとつは全体的な社会的孤立にかかわり、もうひとつは友人関係での社会的孤立に関係していたのだそうです。社会的孤立とは1種類ではなく、遺伝子の背景によって、種類があったのでした。

◇ ◆ ◇

 

ここからは私の考えですが、この遺伝子が発現する強さは人によって違っていて、たとえば、友達をたくさん作るタイプの人と社会的孤立を望む人では、異なる遺伝子を背負っているため、キラキラするための難易度が生まれ付き異なっているのでないかと思ったのです。

 

世の中では、友達が少ないのはその人の努力や偏屈な性格のせいであり、小学生になったら友達を100人作らなきゃいけないかのような風潮があるように、私は圧を感じながら生きてきました。これは科学的に否定されるべきではないのか、とすら私は思いました。陰キャに、努力すれば社交的になれると言うのは、お酒を飲めない体質の人に「努力して肝臓を鍛えろ。酒は根性だ」と言っているようなもので、遺伝子的に無理ゲーといえそうだと私は思ったのです。

 

遺伝子という背景を持ちながら、それでも、社交的でないことは悪でしょうか?

 

陰キャは運命なのです。どの程度の責任があるのかは私にはわかりませんが、たぶん、遺伝子のせいなのです。

 

ありがとう、京都大学。

フォーエバー京都大学。

 

この世界に住まうすべての陰キャへ、祝福を。

夜の8時半を過ぎても高校2年生のぽんぽんが帰宅しません。

 

私は心配していました。夫からメールが来たのでぽんぽんが帰宅しない旨を伝えると「電話をしたらどうか」と夫は提案してきました。

 

けれど私は思ったのです。もしも、ぽんぽんに恋人がいて一緒に居るとしたら、電話は拙いのではないかと慮ったのでした。

 

母親から電話があっただけでも、女の子は冷めてしまうかもしれません。まだ恋愛に不慣れな幼い恋に違いないのです。ここは思いやりが必要なのではないかと思うカルデラです。

 

とはいったものの、ぽんぽんの恋愛なんて何の根拠もない私の妄想でしかないので、やっぱり電話した方が良いのかもしれません。間を取って控えめにメールでも送ろうかと悩んでいるとぽんぽんが帰宅しました。

 

ぽんぽん「友達とポテト食べながら勉強してた」

ぽんぽん「今日は寒かったよ」

 

カルデラ「……学校によっては」

カルデラ「男女交際で反省文を書かされることもあるから」

カルデラ「気を使ってあげるんですよ?」

カルデラ「今の時代は違うのかも知れないけれど」

 

 

中学受験では、山のあなたにあるというドングリ食べ放題の里(※)に憧れるも、夢破れ、かなしみを知り、涙に暮れていた子だぬきぽんぽんです。あれから5年の歳月が流れました。子だぬきぽんぽんは再び夢を得たようすです。

 

子だぬきぽんぽん

「あの雲の彼方には」

「蜜の滴る甘いきのこの森があるらしい」

「ぽんぽんはね」

「夢を叶えたい」

「その森は雲の上にあるっていう」

 

それは、たぬきの世界では最高峰の誉れ高い「東京大学」と呼ばれる森のことでした。ぽんぽんは雲だと思っていますが、その真の姿は、叡智の城塞です。その森への憧れが、多くのたぬきたちの人生を焼き尽くしてきたことを、母だぬきカルデラは知っています。

 

どんぐり食べ放題の里には、辿り着けなかったからこそ、今もぽんぽんの中で、幻のエルドラドとして輝き続けています。子だぬきぽんぽんは、夢に破れた絶望を抱えたまま、それでも次の夢をみる強さを育てていたのでした。

 

※ドングリ食べ放題の里とは…灘中のこと

 

その1

 

その2

 

その3