心配なんてしていないと嘯いたものの、やはり不安なのは否定できない。敦賀さんの審査が近づくにつれて緊張はどんどん高まっていった。
そして始まった敦賀さんの演技。時間にしたらほんの数分の演技を、何度も何度も繰り返し一緒に練習した。彼の演技を何度も身近で観てきたはずなのに、衣装を身に纏い演じる彼の姿は威圧感を感じさせ、ただただ私を圧倒した。
今回演じるのは二場面。王女と騎士の初顔合わせのシーンと、二人の心が近くなった後、彼女が国のために敵国に捕虜として嫁ぐのを防ぐため、決意を伝えに行くシーンだ。
王女の高圧的な態度を拳を握りかろうじてこらえ、その後ぎらりと表情を変えた彼の姿にぞくりとした。
そして、次のシーン。ドキドキとしながら彼の演技を目で追う。胸の前で合わせた手にぐっと力がこもった。
『・・・必ずや、王の首を持って参りましょう。』
『妾は、そんなことは望んではおらぬ!』
『貴女のためではない。これは、俺のためです。貴女の髪一筋でさえも他の男にくれてやるのは我慢ならない。』
そっと、王妃の髪を持ち恭しく口づけその場を後にする。この後、王妃が泣き崩れてこのシーンは終わりなのだけれど・・・・何、頬を染めてへたり込んでいるのかしら。あのバカ女は!せっかく敦賀さんが完璧に演技してみせたのに!最後の最後で何してくれちゃってるのよ!
『・・・ありゃ駄目だな。』
ぽつりと監督がつぶやいた。今まで誰の演技もこんな批判なんてしなかったのに。
どうして!?今までの誰よりあの人は完璧に演じて見せたのに!!
「・・・なんでよ。あの人以上に役を掴んでる人なんていなかったのに。」
怒りと悔しさで声のトーンが下がるのが自分でもわかった。言ったってしょうがないのは分かっているのに、理不尽な思いが口から零れ落ちた。
『ん?・・・・ああ。審査の内容を口に出したりしねえよ。あのお姫さん、この後使い物にならねえなって話だ。』
『ほぇ?』
・・・そういえば、舞台は暗転のまままったく再開される様子がない。さっきまでは、次から次へと始まっていたのに。
まさか演技できなくなっちゃったのかしら?どこまでも、役に立たない女ね!
『さて・・・どうしたもんか。まだ名は知られてないが、そこそこの女優を引っ張ってきたつもりだったんだがなあ。』
むう、と唸って考え込んでいた監督がが、ぽんっと手を打った。
『嬢ちゃん、もしかして、クーのとこの嬢ちゃんか?キョーコって呼ばれてただろ?』
『へぇぇ!?』
なんでいきなりそれを聞かれるの!?どこをどうしたらその言葉が出てくるのかさっぱり理解できない。
うっかり驚いてしまったけれど、何とか表情を取り繕った。
『今、確かクーのとこにホームステイしてるんだよな?彼。』
『・・・仰ってることの意味が分かりかねますが。』
そこか!と思わず心の中で突っ込んだ。何とか冷静を保とうとするんだけど、どうしたらいいの!?
だらだらと嫌な汗が背中をつたった。
『隣の兄ちゃんの態度でバレバレだぞ?』
ばっと、隣を窺い見れば社さんが真っ青な顔で固まっていた。
やーしーろーさーん!!!
『まあ、なんで嬢ちゃんが娘って呼ばれてるのかとか、嬢ちゃんの旦那の噂とか、彼と嬢ちゃんの関係とかは追求しないでやるし?興味もないしな。』
だったら言わないでよ!!それは脅迫って言うんじゃないの!?
ネチネチニヤニヤと人の痛い所ばかりついてくる監督に言葉が出ない。
『だからよ。嬢ちゃん、ちょっと代わりに演ってくれ。あと9人オーディション残って困ってるんだよ。』
『『・・・・はああああ!?』』
突拍子のない監督の提案が脳内に達した瞬間、社さんと私の叫びが会場中にこだました。