「セバスチャンカエッタ、カエッタ・・・」
コンコンと窓ガラスを突っつく音にソファーに腰掛け片肘をついて本に視線を落としていたレオは顔を上げる。夕闇を背にセバスチャンが映る窓を見てそこでレオは初めて時が夕方である事に気が付いた。
(もうそんな時間か・・・)
今日はプリンセスへの座学もなければ官僚の仕事もない。レオにとっては滅多にない休暇だった。
眼鏡を外し窓に歩み寄り開けると羽をバタつかせるセバスチャンと共に冷たい風が部屋に吹き込んだ。ふと空に目をやると低い空に輝き始めた満月が昇り始めていた。
(今夜は満月か・・・)
虚ろな表情で視線を伏せながら窓をそっと閉め窓を背にして窓辺に寄り掛かっているレオの側をセバスチャンが飛び回り始める。
「レオ、ゲンキダシテ、ゲンキダシテ・・・」
セバスチャンの発した言葉にレオは目を細めてふっと笑った。
毎月訪れる満月はレオに辛い記憶を運んでくる。10年前の両親の死。
あの時自分も泣けていたら今は楽だったのだろうか。
もっと自分に素直でいられたなら・・・。
全てを話せていたら・・・。
正直そんな思いも時々頭を過る。
でもこれは自ら選んだ事。そう心に決めた時から俺はそれまでの自分を葬り去った。
満月の日は思考が自然とあの日に引き戻されていく。
これも月に宿る魔力のせいなのだろうか・・・。
命からがら、燃え盛る屋敷を抜け出しその場に倒れ込んだ俺達はただただ燃えていく屋敷を見つめる事しか出来なかった。
この惨事にたくさんの人に辺りを囲まれながらも、隣ではアランが小さく蹲り人目もはばからず嗚咽を漏らして泣いていた。
尊敬する父と優しい母。俺達は幸せでそんな両親が大好きだった。当たり前に続くと思っていた幸せな時間がこんなに呆気ない終焉を迎える事になるとは誰が予想出来ただろうか。
肩を震わせ蹲ったまま小さな拳を色が変わるほどにぎゅっと握りしめるアラン。
悲しみと悔しさ、喪失感・・・。アランがどんな気持ちでいるのかは痛いほど分かる。
両親を失った悲しみは勿論、俺にとっては大切な弟の悲しみに打ちひしがれた姿を目にする事も苦しかった。
どうして・・・?
何で・・・?
浮かんでくるのは疑問符ばかり。そんな時だった。
物陰にこの場に似つかわしくない表情を浮かべた「あの人」を見たのは・・・。
俺は一瞬目を疑った。しかし満月の光ではっきりと照らし出されたその顔を見間違うはずはない。
その人が浮かべたあの「笑み」の意味は・・・
(まさか・・・)
俺はあの時はっきり確信した。そしてそれまで頭の中を駆け巡っていた全ての疑問の答えが出た。
ちらっとアランに視線を落とすとアランは変わらず地面に蹲り泣き崩れたままでいた。
「その人」の姿にはどうやら気付いていないようだ。
まだ確証はない。これはあくまで持論だ。これから時間をかけて煮詰めていく必要がある。
もし自分の見たままをアランに伝えてしまったら・・・。
そう考えるだけで容易にアランの行動が読めてしまう。ならいっそ知らないままの方がアランの為なのかもしれない。これ以上アランの悲しみを深くさせたくない。
こんな思いは自分だけがすれば良い。
『真実が身を滅ぼす事もある・・・』
それならば俺がアランの楯になる。その事で後にアランに咎められても俺は構わない。
だから決めたんだ。
俺は今日から夢も希望も光もない道を生きる。
胸に灯ったただ一つの「野望」を叶える為に・・・。
(俺は・・・絶対に許さない・・・)
レオが目を伏せて窓辺にもたれているとコンコンと控えにドアをノックする音が部屋に響いた。その音でレオの意識がふっと今に戻された。
「レオ?」
ドアの向こうから聞き慣れた声がした。
(アリサちゃん・・・?)
何事かと不思議そうな眼差しでドアを開けるとどこか寂しそうな眼差しを向けるアリサが立っていた。そんな表情が気になったレオが口を開こうとすると急にアリサが腰元に腕を回して抱きついてきた。
「ちょっ、アリサちゃん!?」
レオは廊下を見渡し誰もいない事を確認して自分に抱きついたままのアリサを部屋に入れて静かにドアを閉めた。
「どうしたの?アリサちゃん・・・」
自分の胸元に顔を埋めたままのアリサの頭を優しく撫でながら包み込むようにぎゅっとアリサを抱きしめるとアリサが小さく呟いた。
「レオ・・・大丈夫?」
「え?」
アリサの問いかけの意味が分からず聞き返すとアリサが顔を上げた。
「今日満月・・・でしょ?」
その言葉にふっと心が安堵した。アリサも「今日」を心配してくれていたのだと・・・。
先程まで同じように心配して自分の周りを飛び回っていたセバスチャンはいつの間にか籠に入り休んでいた。
「ありがとう・・・」
そう言ってレオはアリサの額に優しくキスを落とすとぎゅっとアリサを抱きしめた。
「暫くこのままでいさせて・・・」
「うん・・・」
レオはアリサの肩に顔を埋めて瞳を閉じる。
両親を失った後、俺は「本心」を隠して真実を知る為に自ら火の中に飛び込んだ。しかしそれは想像を絶する日々の連続だった。真実を知る度に息苦しさと憎しみが増えていくばかりだった。時に狂いそうになる自分を必死で抑えた事もあった。
『今はまだ・・・。でもいつか必ず・・・』
心が暴れそうになった時はいつもこの言葉を呪文のように唱えた。
そんな事を繰り返すうちに自然と涼しい顔で自分を偽る事にも慣れていった。
この先どんな事があっても、どんな人間と出会おうと自分の「意志」は覆らない自信はあった。夢も希望も葬り去った俺は当然「大切なもの」さえ作る気はなかった。
だからある日突然プリンセスとして現れたアリサを見ても「普通の女の子」としての認識しかなかった・・・はずだった。
いつからだろう。彼女に惹かれたのは・・・。いや惹かれたと言うよりいつの間にか俺の心にアリサが入り込んでいた。
どんなに冷たくしても、つけ放しても、酷い事をしてもアリサはこんな俺の背中を追ってきた。
ここまで自分を想ってくれる人に「愛おしい」という感情が湧かないはずがない。しかし激しい憎悪だけを抱いて大人になった自分がそんな感情を抱く資格はない。
ならばせめて少しの間だけ。
「その時」までの僅かな時間でいいから望んでもいいかな?
そしてその後は君との少しの「想い出」を抱えて俺は消えるから・・・。
これが俺の運命。
(身勝手な俺でごめん・・・アリサ・・・)
レオは心の中で謝りながらアリサを抱きしめる腕に力を込めた。
アリサの温もりを自身の体に刻み込むように・・・。
~END~
お読み頂きありがとうございました。
設定としてはレオがまだ事を実行する前の時のお話になるかな。
実は今回もレオから書き始めていますwww
レオプリじゃないのに(笑)
こちらのお話の元になった歌詞は去年のドラマ主題歌であった曲でシェネルの「Destiny」
歌詞はこちら
これを初めて聴いた時「レオだっ!!」って思いましたw
私って結構ダークな歌詞好きなんだよね・・・(^▽^;)
SSも実は暗いお話の方が書くのが好きだったりする。元々性格的には暗いんです、私。
「ええ?どこが??」って思われる姫様もいると思うんだけど、今の私は作りあげてきた?というかいろいろな人と出会って自分を変えようとして出来あがった人格ですw
人格って言ったら怪しいかwwwww 人ってそうそう簡単には変われないから時間はかかるけどね。私はトータルでみれば10年位はかかっています。
とまあ私の話はどーでもいいw
イケミュからまさかのレオ愛が湧いてくるとは思わなかったな・・・σ(^_^;)
それだけ結城レオが好演してくれたってことだよね♡ うん。本当に結城レオに引き込まれたもん。大海アランは絶対直視出来ないのは行く前から分かっていたけど、だから逆に結城レオをガン見してしまったらそのまま結城沼に落とされたwww
それまでレオって掴みどころがなくて難しいな~と思ってSSには手を出さないでいたんだけど、イケミュ後は手に取るようにレオのあれこれを妄想出来るようになって・・・。というか演じた伽寿也君と直接会うようになったから余計に容易にいろいろ想像出来てしまって(〃∇〃)
そんなとこらからレオから書く事が増えたんだと思います。
でも実際に伽寿也君ってレオと似ている部分はあるよ。周りをよく見てるし相手を思っている部分とか、その為に自分をどう見せていくか・・・とか考え方が似てるかな。レオ役を演じた事で得た事なのかもしれないけど、それが凄く表面に現われている人です。
何かノロケになってきたから方向転換w
双子の「あの日」について結構書いてるからそろそろ自分的にも満足かな。
自分がこんな調子なので甘いお話が今は思いつかないんですが、何か浮かんだらまた甘いお話も書いてみようかなと思っています。
良かったらアランSSもどうぞ~♪
「アランSS」