バレンタインSS(王宮×夜曲)出会いは突然に・・・ | てんじゅのひとりごと

てんじゅのひとりごと

主にイケメン王宮の呟き、自身の創作のブログになります。私自身、妄想好きなので創作は暴走するかもしれませんが、そのあたりは温かい目で見て頂けると光栄です。最近はイケミュをきっかけにRush×300の結城伽寿也君にもハマっていますwww

今更感半端ないんですがwww

バレンタインに上げるつもりで書いていた創作をお届けにきました(;^ω^A

今回は今年の目標としていた夜曲とのコラボで書きました/// でもちょっと無理矢理な感じもあったりw

アラン×アリサちゃん&アレク×ルナちゃんのお話。それにユーリがちょこっと良い感じで動いてくれています♪

主にアランとプリちゃんに重点を置いたお話になっています(*v.v)。
ちょっと長いですがお付き合い頂けたらと思います。

ではどうぞ~



出会いは突然に・・・


バレンタインを明後日に控え、アリサは空いた時間にユーリと一緒に城下にあるお菓子の店に来ていた。

「じゃあ、アリサ様、俺は近くで時間潰してるからゆっくり選んできてよ」
「うん・・・ありがとう」

にっこり無邪気に笑うユーリとは対照的にぎこちない笑顔を浮かべるアリサ。そんなアリサを不思議に思ったユーリは首を傾げた。

「どうかした?」
「えっ、何でもないよ。じゃあ、ちょっと見てくるね」

そう言ってアリサはお店のドアを開けて入って行った。

(どうしたんだろ?何か浮かない顔してたけど・・・)

アリサの背中を見送りながら、ふと見せたアリサの表情が気になるもユーリはあまり深く考える事無く城下へ一人散策に出かけた。


(はあ・・・やっぱり顔に出ちゃってたんだ。気を付けなきゃ)

アリサはユーリから逃れるかのように慌てて店のドアを開けて小さく息を吐く。店内に入るとバレンタイン間近という事もあり多くの女性客で賑わっている。皆いろいろなチョコの箱を手に取り品定めをしていた。

(みんな好きな人の為に一生懸命なんだな・・・)

自分もその中の一人である事に違いはないはずなのに彼女達との温度差を感じてしまう。アランに渡す為のチョコを買いに来たものの、正直なところチョコを買う事にアリサはあまり気乗りしなかった。

その理由はバレンタイン当日は城でパーティーが催される事になっており、城内の警備と護衛で忙しくなるアランとは二人きりになる事は愚か顔を合わせる事すらも難しい事をアリサは分かっていた。アランとは騎士とプリンセスの関係。しかしいつからかアランを騎士としてではなく一人の男性として意識している自分に気が付いた。でもアランは仕事として自分の側にいるだけでそれ以上の感情はきっと持っていない・・・。それは側にいて自分が一番よく分かる。それでもこの気持ちを伝えるべきか、それとも今の関係を保つ為に心にとめておくべきか。
アリサはそれすらも決めかねたままチョコを買いに店を訪れていた。

人波に揉まれながら陳列されているチョコを見て回り、どれにしようと頭を悩ませながらショーケースに目を向けると他のどの商品よりも在庫が減っている生チョコレートに目が留まる。見れば当店一番人気と書かれていた。

(シンプルなものでも良いかな・・・)

悩んでいる間にも生チョコは次々減っていき最後の一箱になった時、アリサは慌てて店員に声をかけた。

「すみません、この生チョコを・・・」

そうアリサが口を開くと同時に隣にいた女性も

「すみません。この生チョコ下さいっ!!」

(えっ・・・!?)

店員に声をかけたのは二人ほぼ同時だった・・・。これにはアリサだけでなく、その女性も驚き思わず二人は顔を見合わせる。店員もショーケースから最後の一箱を取り出すが、どちらに渡すべきか戸惑っていた。

「あの・・・どうされますか?今日の販売分はこれで最後なのですが・・・」

店員は苦笑いを浮かべて二人を交互に見る。
明日は一日公務が立て込み再び城下に足を運ぶ事は不可能で買うなら今日しかない。しかし、隣の女性を見るとウィスタリアではあまり見かけないような身なりをしている。

(もしかしたらこの人は旅行者かな?そしたら・・・)
「じゃあ、私は隣のトリュフ頂きますから、それは彼女に渡してあげて下さい」
「えっ・・・でも・・・」
「大丈夫です。私はいつでも買いに来れますから」

アリサは女性にニコリと微笑んだ。そんなアリサに女性は申し訳なさそうな顔でぺこりと頭を下げる。

「すみません。じゃあ、お言葉に甘えせさせて頂きますね。ありがとうございます」
「いいえ。気になさらないで下さい」

そして店員から品物を受け取りアリサが店を出ようとした時、誰かに肩を軽く叩かれて振り返ると先程の女性が立っていた。

「あのっ!お時間ありますか?良かったら向こうでお茶しません?」

女性は指でテラス席を指さした。

「えっ・・・」

アリサは突然の事に戸惑いながら目をパチパチさせるが女性はニコリと微笑み話を続ける。

「チョコ譲って頂いたお礼させて下さい。席に座ってて下さい、私が席まで持って行きますから・・・」
「あ・・・はい・・・」

口を挟む間も与えず一方的に話して彼女はカウンターの方に行ってしまった。

(まっいっか・・・少しくらいなら)

アリサはテラス席の椅子に腰かけ通りに目をやる。無意識に目の前を通り過ぎて行く女性達を目で追ってしまう。

(みんなどんなバレンタインを過ごすのかな・・・)

頬杖をついて通りを眺めているとカタンとテーブルが音を立てて僅かに揺れ、アリサははっと我に返り振り返ると先程の彼女がテーブルにカップを並べていた。

「あっ、揺らしてごめんなさい」
「あ、大丈夫です」

彼女は慣れた手つきでティーカップとチョコムースをテーブルに並べていく。

(あれ・・・?)

並べられたティーカップが一つ多い事に気付いたアリサは彼女に尋ねた。

「カップ、一つ多くないですか?」
「あ・・・後から一人来るんで」
「そうなんですね。じゃあ、いただきます」
「どうぞ。コーヒーで良かったです?」
「はい、大丈夫です」

二人は微笑み合いながら、カップに口を付けた。

「ここのお店、チョコムースも美味しいらしいんです。良かったら召し上がって下さい」
「ありがとうございます。ケーキまで頂いてしまって・・・」
「いいえ。やっぱりここに来て良かった・・・」

彼女はカップを置いて縁を撫でながら嬉しそうに呟いた。

「ウィスタリアには旅行で?」
「はい。久しぶりに休暇をもらえたので恋人と・・・」

そう言いながら彼女は顔を僅かに赤らめてはにかむ。その表情から一目で彼女が幸せである事が容易に判断出来た。

「幸せなんですね。じゃあ、チョコも彼の為に?」
「はい。せっかくの機会なのでガイドブックで調べてここに来たんです。絶対生チョコは買おうって決めていたけど、まさかこんなに人気があるなんて思っていなくて・・・」
「そうだったんですね」

彼女の話を聞いていたアリサは改めてあのチョコを彼女に譲って正解だったと思っていた。
まだ渡すかも決めかねている自分が手にするよりも、好きな人に渡したいと思う人の手に渡った方が絶対良いに決まっている。

「だから買えないと思っていたんですけど・・・まさか譲って頂けるなんて思わなくて」
「チョコ、喜んでくれると良いですね」
「はい、本当にありがとうございます。でもそのトリュフも美味しいらしいですよ。きっと喜んでくれると思います」
「そうですね・・・」

アリサは何かを誤魔化すようにカップを手に取り一口コーヒーを口に含んだ。

「・・・?」

アリサの表情が一瞬曇った事が気になった彼女はアリサを窺い見ながら口を開く。

「あの・・・余計なお世話だったらごめんなさい。何かありました?」
「え・・・」
「あっ、気のせいだったらごめんなさい。でも何か今一瞬だけ凄く寂しそうな顔に見えたから・・・」

すばり良い当てられたアリサはハッとした顔で彼女を見た後、観念したかのように苦笑いを浮かべて目を伏せた。

「また顔に出ちゃってたのかな・・・。私すぐ顔に出るから分かりやすいってよく言われるんです」
「それ、私もよく言われます。相手には何でもお見通しみたいで・・・」

二人はくすっと笑い合うと、突然通りの方から声がした。

「おい、ルナ。お前何呑気に茶なんてしてんだよ」
「あっ・・・アレク!!」

その声に視線を移すと、アレクと呼ばれた男性は不機嫌そうな顔でテラスの前で突っ立っていた。

「アレク、コーヒー頼んだから入って来てよ。こっちはまだ話が終わってないの」
「はあ?ったく、じゃあそっちに行く」

言葉とは裏腹にアレクは仕方ないといった表情で店内へと入って来る。席に着くと不思議そうな顔でアリサを見下ろし、椅子に腰を落として目の前のコーヒーを一口飲む。

「ルナ、この人は?」
「あっ、ちょっと助けて頂いてお礼にお茶をごちそうしていたの」
「お前、また何かしでかしたのか?」
「またって何よ・・・」

彼女は脹れっ面をして彼を睨んだ。
二人の微笑ましいやり取りをアリサは口元を綻ばせて見ているとその視線に気付いたのか彼女が恥ずかしそうに笑った。

「ごめんなさい。つい、いつもの調子で・・・あっ自己紹介まだでしたよね。私はルナ。こっちは同僚のアレクです」

ルナの紹介の仕方に不満があるようでアレクは眉をひそめて頬杖をついて顔を背けた。
そんな態度のアレクを見てアリサはピンときたのかクスッと笑いながら呟いた。

「恋人でしょ?ルナさん」
「っ・・・はい。でも訳あって地元では堂々と歩けなくて・・・」
「でもここでは堂々と出来るのだから恋人で良いんじゃない?」
「そうですね・・・」

ルナは自嘲気味に呟いた。

「私はアリサです・・・」

さすがに自分はウィスタリアのプリンセスだとは名乗れない。何か言葉を発しようと口を開いたが続く言葉が浮かばず口を噤んだ。しかしそれにはルナは気付かなかったようで、僅かにアリサに身を乗り出して尋ねた。

「ところでさっきの話、良かったら聞かせて下さい」
「でも大した事じゃ・・・」
「それでも何か力になれるかもしれないし相談にも乗りますよ」

先程知り合ったばかりだというのに目の前に座ってにこりと笑うルナに対して親近感が湧いてくる。この人になら・・・そう思ったら不思議と言葉が出てくる。

好きな人が騎士で自分と一緒に居ても自分の目から見て気持ちは無いと感じる事。気持ちを伝えるかにも迷い、もし伝える事にしてもバレンタインに伝える事は難しい事・・・次から次に出てくるアリサの話にルナは熱心に耳を傾けていた。一緒にいたアレクもコーヒーをすすりながらもじっとルナとアリサの話に聞き入っていた。

「そっか・・・。それは難しいね。でも相手の気持ちをアリサさんが決めつけるのは良くないと思うよ。もしかしたら・・・って事もあるしね。アレク?」
「何で俺に話を振るんだよ。俺にはさっぱり分からねえ話だ」

アレクは僅かに頬を赤らめて顔を逸らす。

「でも話を聞いてもらえただけでも楽になったかな。一人で悶々としていたから・・・」
「それなら良かった。でもチョコは渡せばいいのに・・・。チョコ好きなんでしょ?その騎士さん。気持ちを伝えなくても日頃のお礼とかね」
「そうだね。お礼兼ねるだけなら渡せるかも」
「うん。そうしなよ」

アリサとルナはの間にはいつの間にか緊張感が解けて友達のような雰囲気が出来ていた。

「ルナさんと初めて会った気がしないのは気のせいかな・・・」
「それ私も感じてました。きっとここでお会いしたのも縁がありそうですね」

ふふふ・・・と笑い合っていると通りからユーリの声がした。

「あっ、アリサ様!買い物終わった?」
「あ・・・うん」

突然のルナのお誘いがこんなに楽しくて有意義なものになると思わず、気付けば結構な時間が経っていた。
ユーリが店内に入って来るとアリサが見ず知らずの人間とお茶をしている事を不思議に思ったユーリは目をパチパチさせる。

「アリサ様、こちらの二人は?」
「あっ、初めまして。私はルナといいます。アリサさんにお礼がしたくてお茶にお誘いしたんです」

ルナは慌てて席を立ってユーリに頭を下げる。

「お礼?」
「あ・・・うん。ちょっとね。二人とも旅行でウィスタリアに来たんだって。こちらはルナさんの恋人のアレクさん」
「どーも・・・」
「ちょっ、アレクってば!!すみません・・・」

アレクの無愛想な態度にルナは平謝りした。そんなルナにユーリは気にしないで・・・といった様子でニコっと笑う。

「アリサ様、買い物は済んだの?」
「うん。何とか買えたよ」
「じゃあ、そろそろ戻ろうか?あまり長い外出だとジル様に怒られちゃうから・・・」
「そうだね。ねえルナさんはいつまでここに滞在しているの?」
「えっ・・・明々後日に帰りますけど・・・」

そう突然アリサに尋ねられたルナは意図が分からず不思議そうな眼差しでアリサを見つめる。

「ユーリ、明後日のパーティー二人にも来てもらって良いかな?」
「でも招待状が無いと入れないよ・・・」
「そっか、招待状・・・。あっ、そしたら・・・」

そう言いながらアリサは左耳のイヤリングを外してルナに差し出した。

「明後日、お城で城下の人達を招いたパーティーがあるんだけどこれを招待状の変わりにして。二人の旅の思い出になると良いんだけど・・・」
「アリサ様ってば・・・。それ大切なものなんじゃないの?」
「大切なものだからこそ、必ず持ってきて欲しいから・・・。ねえ、ルナさん来てくれる?」
「あ・・・はい」
「門番の人間に見せてユーリの名前を言ってもらえればユーリが案内してくれるから」
「ちょっとアリサ様、それ初耳なんですけど」
「だって今、思いついたんだもん。よろしくねユーリ」
「はいはい。もう、アリサ様には敵わないや」

ユーリは小さく溜め息をついて苦笑いを浮かべる。
二人の会話を眉をひそめて聞いたルナにある疑問が浮かび戸惑いがちにアリサに尋ねた。

「あの・・・アリサさんって貴族なんですか?」

隣でアレクが口元を覆ってぷっと笑う。ルナの問いかけにアリサとユーリは目を瞬かせるとユーリが口を開いた。

「アリサ様、何も言ってないの?」
「うん・・・。びっくりさせるかと思って・・・」
「ごめんね、ルナさん。アリサ様はウィスタリアのプリンセスなんだ」
「えっ!!プ、プリンセスっ!!!」
「バカっ、ルナ。声がでかい」

ルナの声に一瞬周りにいた人達の視線が集まるが、慌ててアレクがルナの口を塞ぎ周りに笑顔で取り繕う。

「驚かせてごめんなさい、ルナさん」
「いいえ、こちらこそとても失礼な事を・・・」
「全然大丈夫。楽しい時間をありがとう、ルナさん」
「は、はい・・・」
「じゃあ、明後日のパーティーでね。お茶ごちそうさまでした」

そう言ってアリサはユーリと共に店を出て行った。
放心状態のルナにアレクはポンと肩を叩く。

「大丈夫か?」
「うん・・・。私とんでもない人に声かけちゃったな。アレクは気付いてたの?」
「まあな。騎士って言葉が出た時点で何となく身分の高い人間だとは思ってたけど、まさかプリンセスだとはな・・・」
「そんな前にっ!?もう早く言ってよ」
「言うもなにも聞かれてねえし。でどうすんだよ、プリンセスの恋の相談乗ってそのままって訳はねえんだろ?」
「うん・・・。話しながらも考えてはいたんだけどね」
「やっぱりか・・・だと思った。だったら俺に良い考えがある。あのユーリって奴も話が分かる奴っぽいしな」
「アレク?」

ルナとアレクは頭を寄せテラス席である作戦を練り始めたのだった。

―パーティー当日―

ルナとアレクは約束通りに城を訪ね、ユーリと共にアリサの部屋までの廊下を歩いていた。
ドアをノックすると中からアリサの声がして、ユーリは二人をアリサの部屋に通した。

「あっ、ルナさんとアレクさん。来てくれてありがとう」

着飾ったアリサは一昨日会った時とは別人のようだった。そんなアリサを見てルナは言葉を失い呆けていた。

「綺麗ですね・・・。アリサさん・・・」
「ありがとう、ルナさん」
「あっ、これお預かりしたイヤリングです」
「ありがとう。無理矢理な感じでごめんなさい」
「いいえ、お招きを頂き光栄です」

アリサはルナの手からイヤリングを受け取り微笑む。

「今日は楽しんで行って下さいね」
「あ・・・はい」
「じゃあ、ユーリ。お二人を会場まで案内してあげてね」
「はーい。じゃあ、行こうか」

ユーリに連れられ、ルナとアレクはアリサに一礼して部屋を後にした。
部屋を出た所でアレクが前を歩くユーリに声をかける。

「なあ、執事さん。ちょっと聞きたい事がある」
「何??」
「プリンセスの側についてる騎士ってどんな奴だ?」
「え?急に何かと思ったら。どうしてそんな事・・・」
「ちょっと協力してもらえないかと思ってさ」
「協力??」

ユーリは首を傾げるもすぐに口元を綻ばせて無邪気な笑顔を浮かべる。

「何か面白そうだね・・・」

そうしてアレクはユーリに耳打ちをした。


パーティー会場はたくさんの人達で賑やかだった。城は多くの人達の出入りがあるとのことで騎士団達は総出で警備に当たっていた。アランは部下達に的確に指示を出し、混乱もなく招待客を会場に誘導させ何とかパーティーが始まった。プリンセスを間近で見ようと多くの人で会場は埋め尽くされている。アリサは人々の中心にいて笑顔で城下の人達と会話を楽しんでいるようだった。万が一に備えて、ユーリがアリサの側に付き、アランは部屋全体が見渡せるように隅に佇んでいた。

「アリサ様、あそこにルナさんいるよ」

ユーリが指さした方向にルナが一人でグラスを手に立っていた。一緒に来てるはずのアレクの姿が見当たらない事を不思議に思ったアリサはルナに近寄り声をかけた。

「ルナさん。あれ、アレクさんは?」
「うん、ちょっと用があって外に出てるの。アリサさんちょっといいかな?」
「何?」
「中庭を見てみたいんだけど・・・」
「あっ、それならユーリと・・・」

そういって隣にいるユーリにちらりと視線を送るとユーリはにっこり笑う。

「ちょっとなら大丈夫だよ。少し外の空気吸ってこようか」
「うん、じゃあそうしようかな」

アリサはユーリとルナと一緒に会場を後にした。

パーティー会場から出て行く三人の後ろ姿を視界の端に捉えたアランは一瞬顔をしかめるがユーリが付いている事もあって、それほど気にする事もなく会場内の警備を続けていた。

会場を出るとユーリがにこりと笑ってアリサを見る。その微笑みを不思議に思ったアリサは首を傾げる。

「ユーリ・・・。どうかした?」
「アリサ様にアラン様にチョコを渡す機会作ってあげる」
「えっ!?」

突然のユーリの言葉にアリサは上擦った声を上げると隣にいたルナも言葉を連ねる。

「私とアレクでちょっと作戦考えたの」
「でも、私そんな事頼んだ覚えないよ。ルナさん」
「余計なお世話なのは分かってます。でもやっぱり渡したいでしょ?」
「そ、それは・・・」
「アリサ様、一度ルナさんと一緒に部屋に戻ってチョコを持って闘技場に行って・・・」
「えっ!!でもユーリは?」
「俺は今からアラン様に伝えに行ってくるよ。さあ、早く行って・・・」
「ちょっ・・・ユーリ!」

怪しむアリサの背中をユーリは軽くポンと押してウィンクする。

「ルナさん、あとはお願いね」
「はい。じゃあ行きましょう、アリサさん」
「う、うん・・・」

アリサは腑に落ちないような表情でユーリを振り返りながらも渋々部屋の方へルナと歩いて行った。二人の後ろ姿が角を曲がって消えるまでユーリはニコニコしながら手を振り続け、消えると同時に表情が真顔に戻る。

(さて・・・作戦開始といくかな。アレクさん頼んだよ・・・)

ユーリは大きく息を吐くと廊下を引き返して会場に向かって走りだした。

(ん?)

会場の入り口に肩で息をするユーリの姿がアランの視界に入って来る。一緒に会場を後にしたはずのアリサともう一人の女の姿はない。焦りの色が浮かんでいるユーリにアランは嫌な予感がしてはっとして目を見開く。

(まさか・・・!?)

アランは人混みをかき分けユーリに近づく。ユーリは会場を見渡しアランの姿を探していると、正面から神妙な面持ちのアランと視線がぶつかった。ユーリの目の前までアランが近づくと周りに聞こえないよう小さな声でユーリに尋ねた。

「何があった?ユーリ・・・プリンセスと一緒にいた女は?」
「ちょっと目を離した隙に物陰にいた人間に連れて行かれて・・・」
「何だと?」
「それで、騎士団長を呼べって。周囲には悟られないよう闘技場まで一人で来いって」

アランは警戒するような目つきでチラリと会場内を見渡す。

「分かった・・・。お前は闘技場が見渡せる場所に待機していて欲しい。万が一取り逃す事になった時は部下に知らせてくれ」

アランはポンっとユーリの肩を叩くと、険しい表情を浮かべマントを翻しながら足早に会場を出て行く。

(ちょっとこれはやり過ぎたかな・・・)

ユーリは小さくなっていくアランの後ろ姿を申し訳なさそうな顔で見つめていた。


闘技場に着くと柱のから人影が伸びている。アランは焦りを殺して落ち着いた低い声でその影に尋ねた。

「おい。お前か?人攫いは・・・」
「人攫い?初対面の人間に随分不躾な事を言うんですね?騎士団長・・・」

そう言いながら柱から姿を覗かせた男はウィスタリアでは見かけない、しかし品のある格好をしていた。その身なりにアランは眉を寄せる。

「お前、ここの人間じゃないだろ?何処の人間だ?」
「言ったところで知るはずはねえと思うけどな」

男はニヤリと笑う。剣を持ち騎士である自分を目の前にしても全く怯む様子のない男にアランは少しの苛立ちを覚える。

「そんな事よりプリンセスと女性はどうした?」
「プリンセス?ああ、あれがプリンセスだったのか。通りで綺麗なわけだよな」
「答えろ・・・」

怒りを滲ませるアランの声が闘技場に低く響く。男の挑発的な態度にアランはしびれを切らし柄に手をかけるがそんなアランを弄ぶかのように男は更に挑発的な言葉を並べてくる。

「せっかちだな。せっかくの機会なんだからもう少し話さねえか?」
「お前と話に来たわけじゃない。プリンセスを連れ戻しに来ただけだ」
「そんなに大事なのか?プリンセスが・・・」
「当たり前だろ」
「それは騎士として?或いは男として?」
「お前にそこまで言う必要があると思うか?」

その瞬間、アランは男との間合いを詰めて剣を鞘から引き抜き振りかざした。

「・・・っ」

上体を反らし、アランとの間合いを取って床に片膝をついて間一髪を逃れた男の頬には一筋のかすり傷。そこから僅かに血が滲んでいる。

「へえ・・・なかなかのもんだな」

アランはニヤリと笑う。

「次は外さねえからな・・・」

アランの目の色が変わった事に気付き、男は頬の傷を拭い次は自分がどう動けば良いのかと思考を巡らす。

(やばいな。こいつマジになりやがった・・・時間稼ぎはここまでだ)

片膝を付きこちらの様子を窺っている男にアランは構えようとした時

「アランっ!!!」

後ろから突然聞き慣れた声がしてアランははっとした顔で振り返るとアリサが小走りでこちらに向かってくる。アリサと一緒にいた女性はアランの後ろでしゃがんでいる男を見て驚きの表情を浮かべてその男に慌てて駆け寄る。

「アレクっ!!大丈夫?」
「大丈夫じゃねえ。マジで危なかった・・・」

男ははあ・・・と大きく息を吐いて床に座り込んだ。
アランは何が起きたか分からず座り込む男とそれを介抱する女を剣を握ったまま茫然と見下ろしていると、後ろから突然アリサに抱きつかれた。

「アランごめんなさい、ごめんなさい・・・」

怯えるように声を震わせ腰に回されたアリサの左腕にぎゅっと力が込められる。全く状況が飲み込めないアランは後ろにいるアリサと目の前で座り込む二人を交互に見合い、目を伏せて気持ちを落ち着けるかのように大きく息を吐き出した。

「そーゆ事かよ・・・」

アランは呆れたような顔でぽつりと一言零すと剣を鞘に納め、腰に回されているアリサの片腕に触れる。

「言っとくけど、この茶番は俺とこいつでやった事でプリンセスは巻き込まれただけだ」
「そ、そうです。アリサさんは全くこの事は知らなかったんです」

真剣な眼差しを向ける二人にアランは偽りがない事を悟ると後ろにちらっと視線移し渡り廊下を見上げると窓辺に少年のように無邪気に笑うユーリが手を振って立っていた。

「あいつは確信犯だな・・・」

呆れるような笑みをユーリに向けるとユーリはにこりと笑って窓辺を離れた。

「騎士団長さん、今日何の日か知ってんだろ?騙す真似して悪かったと思ってる。でもこうでもしなきゃお前を会場から引き抜けないと思った」

座り込んでいた男がすっと立ち上がり一緒にいた女性の手を取って立たせながら呟く。

「あとは二人で勝手にやってくれ。もう俺たちの出番は終わりだ」

そう言って踵を返して立ち去ろうとする二人をアランが引き止めた。

「お前、名前くらい名乗っていけよ」

すると男は面倒な顔をして振り返った。

「俺はアレク、こいつはルナ。リングランドから来た」
「リングランド?聞いた事ない国だな」
「まーな、ここからはかなりの距離があるから知らなくて当然だ。機会があれば是非、騎士団長さん」
「城の人間でもない奴に団長呼ばわりされたくないんだけど?アランでいい」
「じゃあなアラン。リングランドに来ることがあれば手厚くもてなしてやる。ブルーベルって店でこいつとウェイターやってるからよ」

口角を上げて微笑みながらアレクはアランに背を向けて歩き出そうとした時、くるりとアレクが振り返る。

「あっ、そーいや・・・」
「ん?」
「さっきの質問の答え。ちゃんとプリンセスに聞かせてやるんだな。騎士としてなのか、男としてなのか・・・ってな」
「そんなに気になるなら、ちゃんと見届けてから行けば良いだろ?」
「はあ?」

突拍子もないアランの言葉にアレクも隣でそれを聞いていたルナも目を丸くしてアランを凝視する。そんなアランの顔には悪戯な笑みが浮かんでいた。アランは腰に回っていたアリサの腕を解き、不思議そうに見上げているアリサに構う事無くアランはアリサを引き寄せて触れるだけのキスを落とした。

「・・・っ!?」

アリサは突然の事に訳が分からず目を大きく見開き体を硬直させた。そっと唇を離すと、茫然と見つめてくるアリサの瞳と視線が絡んだ。

「ア・・・ラン?」
「騎士としては勿論だけど・・・男としての方がもっと大切だから」

ふっとアリサに微笑むと、脇から呆れたような声が飛んできた。

「まどろっこしい真似しやがって」
「良かったね。アリサさんもそれ渡して伝えなきゃね」

ルナは微笑みながらアリサの右手に抱えられていた箱を指さす。

「あ・・・うん。二人とも本当にありがとう。アレクさん、危ない目に遭わせてしまってごめんなさい・・・」
「別に大した事じゃねえ。気にすんな」
「アレク、アリサさんはプリンセスなんだよ。そんな言い方・・・」
「大丈夫、気にしないでルナさん。今度は私達がリングランドを訪ねたいな」
「いつでも来て下さい。待ってます」
「アレク、お前なかなか筋があるんじゃねえの?剣術に」
「一応これでもフェンシングやってたからな」
「へえ・・・。じゃあ今度手合わせ願おうか」
「望むところだ。今度は待った無しでな」
「ああ」

そう言葉を交わしてアレクとルナは闘技場を後にして行った。

アリサは二人の背中を見つめるアランの横顔を見上げていると、視線を感じたのかアランはアリサに振り返る。

「何?」
「アラン、ごめんね。騙すような事・・・」
「正直、本当に焦った。でもお前に何も無くて安心した」

アランは目を細め優しくアリサの頭を撫でる。アリサはニコリと笑うと胸に抱えていた箱をはにかむようにアランの前に差し出した。

「アラン・・・受け取って欲しいの。好き・・・です」
「ありがとうな・・・」

伸ばされたアランの手は差し出された箱へではなく、その箱を持つアリサの手首を掴んだ。

「えっ?」

思ってもいなかったアランの行動に顔を上げると額に温かくて柔らかなものが触れる。
窺うようにアランを見上げると目を細めて微笑むアランの顔がある。

「チョコも、お前もちょうだい・・・」


月夜に照らされた二つの影は再び重なり、着いては離れ・・・を繰り返していた。 


~To be continued・・・~



あっ、気づきました??はい、これ続きますwwwww

来月のホワイトデーに・・・と考えているのですが、おそらくまた遅刻すると思いますのでご了承下さいm(_ _ )m

夜曲とのコラボとアランとアレクの殺陣の場面に挑戦してみましたが。あれは殺陣とは言わないかwww 一瞬でしたが表現が難しい・・・σ(^_^;)
雰囲気だけを掴んで頂けたら嬉しいです。

アリサちゃんとルナちゃんの距離感が難しくて、ちょっと会話文に不自然な点があるかと思いますがサラッと流して下さいwww

しっかし、今回は会話文が多かった・・・。

長々とお読み頂きありがとうございました~(*^▽^*)