後ろ髪を引かれながらも上高地(長野県松本市)を後にして、二日目の宿を予定している別所温泉(長野県上田市)へ下りてきました。

 

 別所温泉は信州最古の温泉地といわれ、清少納言が『枕草子』の中で「湯はななくり(七久里)の湯、ありま(有馬)の湯(兵庫県神戸市)、たまつくり(玉造)の湯(島根県松江市)・・・」として三大温泉の筆頭に挙げた“ななくりの湯”が別所温泉の別名という説もあるほどに歴史ある名湯温泉です。

 

 ひとまず宿に荷物を預け、いただいた街歩きガイドマップを見ると、別所温泉の見どころはいずれも徒歩圏内に集まっているようです。

 

 早速宿から一番近い“北向観音堂(きたむきかんのんどう)”へ向かいます。参道を示す石柱に従って歩いて行くと、

 

 あらはてなマークこちらは裏参道だったようで、いきなり本堂の真裏に出ました。

 

 ぐるりと回り込むと広い境内があります。

 

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 御手水(おちょうず)は水ではなく、温泉地らしい“別所の源泉温泉”でした。

 

 本堂にお参りします。縁起によると北向観音堂は近くにある天台宗の寺院、常楽寺(じょうらくじ)を本坊とし、その創建は平安時代初期の825(天長2)年、比叡山延暦寺座主(ざす)の慈覚大師円仁により開創されたという歴史ある寺院だそうです。

 

 北向観音堂の御本尊は千手観音菩薩坐像で、御前立(おまえだち)の像とともに秘仏とされ、厄除けの御利益があるそうです。その名のとおり御本尊は北向きに安置されており、Wikipediaによるとこれは「北斗七星が世界の依怙(よりどころ)であるように、我も又一切衆生のために常に依怙となり済度(さいど)をなさん」という観音さまの御誓願によるものだそうです。

 

 また善光寺(長野県長野市)ともゆかりが深く、善光寺の御本尊の一光三尊(いっこうさんぞん)阿弥陀如来が南向きに安置されているのに対し、こちらの北向観音は北を向いているので互いに相対していること、さらに善光寺は極楽浄土で来世を願うのに対し、北向観音は現世に御利益があることから、どちらか一方の片参りではなく両方の仏さまを参拝する“両参り”がよいとされているそうです。

 

 両参りのことはここで初めて知りましたが、2年前たまたま令和四年の善光寺御開帳に行きましたので、これでようやく両参りが叶ったことになります。おびんずるさまの頭上の絵馬には「善光寺だけでは片参り」のいわれが記されています。それによると、北向観音で厄除け札をお受けした後に善光寺参りに行った尾張の市之助という人が、1847(弘化4)年の善光寺地震に遭遇しますが、北向観音のお札のおかげで難を逃れ、以来厄除け観音として信仰を集めるようになったそうです。(※善光寺参拝の様子は2022年6月27日付の記事『令和四年善光寺御開帳』でご紹介しています)

 

 本堂脇の別棟の中には大黒天と子育て観世音が祀られています。 

 

 本堂はぐるりとひと回りできるようになっていて、壁には奉納額や絵馬などがたくさん掲げられています。

 

 裏参道から入ったときに通ったのはこの下でしたニコニコ

 

 高台で眺めがいいです~音譜

 

 境内には鐘楼(しょうろう)と愛染カツラの木。『愛染かつら』というと川口松太郎氏の同名小説が有名ですが、その中に出てくる愛染堂と桂の木がこれだそうです。

 

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 そしてその向かい側に、なんとわたしの大好きなラブラブ懸(かけ)造りの建物が目ビックリマーク

 

 案内板によるとこれは“温泉薬師瑠璃殿(るりでん)”という薬師堂で、瑠璃殿の名は御本尊の”薬師瑠璃光如来”に由来するそうです。まさかここで懸造りに出会えるなんて夢にも思っていなかったので、わたしにとっては北向観音堂の境内の中で一番の萌えキュンラブラブスポットでしたラブ

 

 ぐぐっと近づきもう一枚カメラ、離れ難し・・・。

 

 その横の崖の上には火焔を背負う不動明王と二童子像も。

 

 本堂横の“不動堂”。

 

 本堂脇に聳える“夫婦杉”。二本とも根元から二股に分かれています。

 

 境内からは上田の市街地が見渡せます。

 

 こちらは境内図によると“額堂”となっていますが、

 

 今は仁王像が祀られています。

 

 横長の建物が“札所観音堂”、その隣の小さなお堂が“愛染堂(あいぜんどう)”です。

 

 札所観音堂の中には、わたしたちの地元埼玉の秩父(ちちぶ)三十四観音が安置されています。

 

 愛染堂の御本尊は愛染明王(あいぜんみょうおう)で、恋愛や縁結び、家庭円満などに御利益があるそうです。

 

 北向観音堂の御朱印です。


 境内から真下へ下る石段があり、こちらが表参道のようです。

 

 石垣の上に見えるのは愛染堂と札所観音堂の屋根。

 

 石段の下から見上げます。

 

 参道商店街を抜け、

 

 石橋の袂(たもと)には

 

 別所温泉の外湯のひとつ“慈覚大師之湯(じかくだいしのゆ)”の飲泉塔があります。

 

 古き良き温泉街のたたずまいラブラブ

 

 こちらが正式な表参道への入口、逆行してしまい大変失礼いたしました。

 

 次の安楽寺に向かう途中、真四角の石を積み上げた基壇のようなものを見つけました。“別所の市神(いちがみ)”というそうで、案内板によると、善光寺道と松本道の分岐点で北向観音の門前でもあるここは昔から人の往来が多く、随時市がたっていたそうです。市神とはその取引の安全を守る神さまで、今でもここは別所温泉の祇園祭のときに町内を練り歩く神輿(みこし)の発着点になっているそうです。なるほど神輿を置けるように、高さのある平らな台になっているのですね。

 

 ほどなく現れる“安楽寺”の“黒門”。扁額の崇福山(そうふくざん)は山号です。

 

 右手に蓮池を見ながら歩き、

 

 右に曲がれば杉木立に囲まれた参道です。

 

 石段を上ると、

 

 薬医門様式の山門があります。

 

 そこからまっすぐに奥へと伸びる石畳の参道。

 

 その左手の“應供堂(おうきょうどう)”。

 

 内部には表情豊かな十六羅漢(じゅうろくらかん)尊者と、後方最上段には四国八十八ヶ所札所勧請仏(ふだしょかんじょうぶつ)のうち七尊が祀られています。

 

 見上げるばかりに大きく青々とした“高野槇(こうやまき)”。境内の中でもひときわ目を惹きます。

 

 参道右手には、背が高く精緻な彫刻の施された“鐘楼(しょうろう)”が見えます。

 

 そして左手には“選佛塲(せんぶつじょう)”という扁額の掛かる建物があります。帰宅後調べると、選佛塲とは禅宗の修行の基本である坐禅を組むところ、すなわち坐禅堂のことだそうです。

 

 安楽寺の本堂です。寺伝によると創建は天長年間(824~834)と伝わり、鎌倉時代中期までは臨済宗の寺院として鎌倉北条氏の庇護により大いに栄え多くの学僧を輩出しましたが、北条氏の滅亡とともに室町時代以降衰退し、1580(天正8)年頃中興の祖、高山順京(こうざんじゅんきょう)により曹洞宗に改められたそうです。

 

 御本尊は釈迦如来(しゃかにょらい)で、両脇に文殊菩薩(もんじゅぼさつ)、普賢菩薩(ふげんぼさつ)が控える釈迦三尊像です。本堂内は欄間飾りや光り輝く幢幡(どうばん)などで装飾されています。

 

 天井には駕籠(かご)が二挺。

 

 隅に置かれた木製のエキゾチックな椅子。座面が収納ボックスになっています。

 

 本堂の右手が“庫裡(くり)”です。

 

 安楽寺は境内の一画に国宝に指定されている“八角三重塔”があり、ここから先のエリアは有料なので、受付窓口で拝観料を納めて見に行きます。

 

 正面の建物は宝形(ほうぎょう)造りの“経蔵(きょうぞう)”で、京都の黄檗山(おうばくさん)萬福寺より伝わる一切経(いっさいきょう)を納めるためのものだそうです。

 

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 内部の赤い八角形の“輪蔵(りんぞう)”の中に経典が納められていて、腕木のついた輪蔵を押して一周回るとすべてのお経を読んだのと同じ功徳が得られるといわれています。前に座る像は輪蔵を発明した中国の傅大士(ふだいし)とその二子です。

 

 緩やかな坂道を上ります。

 

 右手は池。

 

 石碑などを見ながら歩いてゆくと、

 

 左手に“六地蔵”が並んでいます。

 

 六地蔵とは仏教における六道輪廻(りくどうりんね)の思想に基づき、六道(りくどう=6つの世界)のそれぞれで衆生(しゅじょう)を救済してくださるお地蔵さまです。

 

 頂上に塔が見えてきました。

 

 こちらが安楽寺の国宝八角三重塔。四重に見えるのは、初重(一番下)に裳階(もこし)という庇(ひさし)がついているからです。

 

 鎌倉時代末期の建立で日本最古の禅宗様建築であり、現存する木造八角三重塔としては国内唯一という貴重な文化財だそうです。どの角度から見ても嫋(たお)やかで精緻で、とても美しい姿をしています。

 

 八角三重塔から少し下ったところに水子地蔵尊(左)と、“傳芳堂(でんぽうどう)”(右)という建物があり、

 

 傳芳堂の中には安楽寺の開山第一世の樵谷惟仙(しょうこくいせん)禅師(右)と二世の幼牛恵仁(ようぎゅうえにん)禅師の椅像(いぞう)が並んで安置されています。わたしの撮った写真はガラスが反射して肝心の像が写っていなかったので、上の写真は安楽寺のホームページよりお借りしました。

 

 安楽寺は境内の庭園なども美しく、信州最古といわれる禅寺の面影をよく遺す古刹(こさつ)でした。

 

 参道脇にはまだきれいに桜桜が咲いていました。

 

 安楽寺の御朱印です。

 

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