2024(令和6)年の上高地の本格的なシーズン・インはやはり4月27日の上高地開山祭からなので、17日の交通機関開通から開山祭まではまだオープンしていないところもあるのですが、河童橋の袂に佇む五千尺ホテル上高地は4月20日が宿泊初日。
昨年(2023)11月12日配信のメルマガ会員向け先行予約告知メールを見てそのことを知り、知るとあのときの感動がよみがえりどうにも行きたくなって、エイッとばかりに初日の宿泊予約をしちゃったのでした。
それから5ヶ月。指折り数えてこの日を待って、今年も来ることができました。
明るく開放的なロビーでは、いつも笑顔いっぱいのスタッフさんが元気に迎えてくださいます。そして今回嬉しかったのは「研修生」の名札をつけた新人さんが幾人もいらしたこと。緊張の中にもゲストを精一杯おもてなししようというフレッシュな一生懸命さが伝わってきて、思わず応援したくなりました。
エレベーターホールに向かう廊下。
その右手には地元の松本民芸家具でシックにまとめられた小部屋があり、
その奥はスイーツカフェ&バー『LOUNGE(ラウンジ)』の予約席で、ここは店内が満席でも宿泊客が優先的に座れるお席です。
その立地から外来のお客さんも多い河童橋に面したスイーツカフェ&バー『LOUNGE(ラウンジ)』。昨年食べてとても美味しかったスモークサーモンたっぷりの“信州そば粉のガレット”が忘れられず、メニューにないので聞いてみると、昨年の期間限定商品で今年は提供の予定がないそうです。あ~~残念。
ホテルの1階には大浴場もあります。歩き疲れた体には、何といっても手足を伸ばして浸かれる大きな湯ぶねが一番のご馳走です。
エレベーターで3階へ上がります。昨年泊まったときは宿のご厚意により、たまたまキャンセルになった4階の上高地スイート405号室へ無料でアップグレードしてくださり夢のような一夜を過ごしたので、今年は3階の松本民芸家具でコーディネイトされたツインのお部屋を選びました。スイートルームの様子は昨年(2023)9月24日付の記事『秋涼の上高地へ③~五千尺ホテル』でご紹介しています。
こちらが梓川に面したバルコニー付きの洋室、303号室。たしか4階は廊下からお部屋まで明るくナチュラルなウッディーカラーで統一されていたので、五千尺ホテルでは階ごとに雰囲気を変えてあるようです。
客室内のインテリアも廊下と同じくダークブラウンでまとめられています。オープンクローゼットに掛かっているダウン素材のちゃんちゃんこ(アウトドアメーカー・モンベルと五千尺ホテルのコラボ商品のようです)がとっても着心地がよくて、夕方や早朝の散歩に出るときなどに羽織るとちょうどいいんです。
スイートルームとは広さが違うのですべてコンパクトに収納されていますが、備えつけの備品はほぼ同じ。バスローブやシャツタイプのパジャマは室内専用です。
客室内にスペースを大きくとって設けられているこの洗面所兼水屋がとても使いやすいんです。冷蔵庫の中に入っている缶ビール、緑茶や水のペットボトル、りんごのスティックケーキは全部無料でいただくことができて、これはすべての客室に共通のサービスです。スイートルームはさらにトリュフ・チョコレートまで入っていましたよ。(そういうのは忘れないんですね~)
アメニティは“La CASTA”というブランドみたいです。
上高地は国立公園特別保護地区のため建蔽率(けんぺいりつ)に制限があり、客室をはじめホテル内の施設はすべて、下界に比べると決して広くはないのですが、それを補って余りある居心地のよさは格別です。
だって眼下には河童橋、
ベランダに出れば梓川と、
見晴るかす穂高連峰から、
焼岳までの絶景をひとりじめできるんですもの~。上高地のシンボル、河童橋を上から見下ろせるなんて、やはり五千尺ならではのスペシャル感です。
午後6時半、夕闇が迫り、山々は本来の静けさを取り戻します。
ベランダから刻々と変わる景色を眺めるのも良き。
大浴場で汗を流しさっぱりしたら、お楽しみのディナーです。ドレスコードというほどではありませんが夕食はフランス料理のフルコースなので、トレッキング用ではないそれなりの服に着替えて行きます。
2階のメインダイニング『GRAND(グランド)』。
ディナータイムはチェックインのときに午後6時、6時半、7時の中から選べます。
お品書きを見ただけでお腹が鳴ります~。
ディナーの最初に、ホテルからのお祝いですとシャンパンが届いてびっくり 宿泊予約のときに結婚記念日を書いたのを覚えていてくださって、支配人と料理長からのプレゼントですとのこと。この後食事中に頼んだ飲みものの計算書にも手書きでお祝いメッセージが添えられていて、細やかなお心遣いに感謝の思いで胸いっぱいになりながら、美味しくいただきました。
乾杯のあとは、五千尺ホテル上高地の総料理長小浜英展(こはまひでのぶ)氏による五千尺キュイジーヌの極上フレンチディナーのスタートです。最初のアミューズ(前菜の前のおたのしみ)は“熟成ハマグリと菜の花のクレープ”(左)と、“福味鶏のコンフィと新ごぼうのクロケット”(右)。コンフィは低温の油でじっくりと煮た料理で、クロケットはコロッケよりも小さな丸い揚げもののことです。
前菜は“信州サーモンのミキュイ”と“フランス産ホワイトアスパラガス”。ミキュイとは半生という意味だそうです。そしてこんなに太くしっかりとしたホワイトアスパラガスを口にするのは初めてかもしれません。アスパラってこんなに風味豊かで美味しかったと思うくらい完成度の高い一品でした。そして五千尺フレンチはメインの食材ではない付け合わせやソースまでもがどれも美味しいのが特徴で、このときのグリルした芽キャベツの味も忘れられません。
スープは“ホタルイカの清湯(チンタン)スープ”。清湯スープは濁りのない透明なスープのこと。旨味がぎゅ~っと閉じ込められたような滋味あふれるスープを飲んでいくと底に小さなホタルイカがいっぱい隠れていて、目にも舌にも楽しい一皿です。
魚料理は“真鯛のポワレ~富成(とみなる)商店の湯葉と春の野菜添え”です。単なるソテーではなくポワレという通り、皮目はパリッと香ばしく、身はこれ以上ないというくらいにフワフワで、今日のコースの中で一番と太鼓判を押せる美味しい一品でした。湯葉の浮いた透明なソースは何でできているんでしょう。そしてパンにつけていただく燻製バターがこれまた絶品なのです。
メイン・デッシュは“国産牛フィレ肉のグリエ~ジュドブフとハーブオイルのソース”。ジュドブフって初めて聞いたのですが“牛肉のジュース”という意味で、牛すじと野菜でとった出汁のことをいい、そこに焦がしバターやタイム、醤油などを適量入れてつくるとても手間のかかるソースなのだそうです。ミディアムレアのお肉とともにいただくと、全身に幸せが満ちあふれるくらいに美味しいです。
デザートは“発酵苺のソルベに三才山(さんさいやま)農園の苺のコンポートとシャンパンのムース”。ひとつひとつ味わっても、スプーンで一気にすくってあむっと口に入れても、どうやって食べても美味しい至福のデザートでした。
デザートのもう一品は“静岡県産のクラウンメロン”。上のスイーツとどちらかを選ぶので、いつものように一皿ずつ頼み、シェアして両方を味わいます。
最後は食後のお茶とパティシエ特製のコンフェクショナリー(小さなお菓子)です。五千尺ホテルの総料理長が腕を振るう正統派のフレンチ・フルコースは、お味とともにウェイター、ウェイトレスの皆さんの行き届いたサーヴィスも相まって、ここが標高1,500mの山上であることを完全に忘れさせてくれるほどに充実した素晴らしい晩餐(ばんさん)でした。ごちそうさまでした。
ディナーの後は2階の談話室でひと休み。
さて、一夜明けて翌朝午前5時半の河童橋。少し曇っています。
同じくベランダからのぞむ午前5時半の穂高連峰。
一時間後の午前6時半になると、もう眼下の梓川左岸道をザックを背負った登山客が何人も歩いておられます。
わたしたちは朝風呂をいただいてから朝食です。
メインダイニングの内装も松本民芸家具でまとめられていて素敵です。
偶然にも朝食は昨年と同じ席でした。
旅館時代からの五千尺名物、朝の豚汁はセルフサービスでお代わりもできます。またフレッシュジュースや牛乳、ホットコーヒーや紅茶も揃っています。
ローストビーフの隠れた“富成(とみなる)伍郎商店の豆腐のサラダ”とサイドメニューのパンかおにぎり、お粥を選び、豚汁とともにいただいている間に、最初に注文しておいたメインディッシュの卵料理をつくってくださり、出来立てが届きます。
卵料理はプレーンオムレツ、スクランブルエッグ、目玉焼き、プレミアムメニューとしてチーズオムレツ(+700円)、からすみオムレツ(+1,000円)、信州そばカレット(+1,000円)の中からひとつ選びます。昨年プレーンオムレツをいただいたので、今年はガレットにしてみました。
デザートはパイナップルのコンポートとフレッシュヨーグルト。朝からお腹いっぱいになりました。
ホテルステイを堪能し、チェックアウトの前にもう一度田代橋(たしろばし)辺りまでお散歩しようと思います。午前8時過ぎの河童橋は人影もまばらでとても静か。
河童橋の上から焼岳をのぞむ。
そして厚い雲に覆われた穂高連峰。
静かな朝の河童橋を目に焼きつけて、
梓川左岸道を歩きはじめます。
番(つがい)の水鳥も澄んだ梓川の水で熱心に毛づくろい中。
季節が違うとまた趣が変わるものですね。
田代橋が見えてきました。
ここから道は梓川に沿って歩く梓川コースと、川から離れる林間コースのふたつに分かれ、田代池を経て大正池までつづきますが、
わたしたちは田代橋と
もうひとつの穂高橋を渡り、
対岸の梓川右岸道へ出ます。
上高地温泉ホテル前は、眼前に迫る六百山(ろっぴゃくざん)と八衛門沢(はちえもんざわ)のビューポイントです。
明治時代、日本アルプスに魅了され、その存在を広く世界に知らしめたイギリス人宣教師で登山家のウォルター・ウェストンを讃えるレリーフ。毎年6月の第一日曜日には、ここで“上高地ウェストン祭”が開催されるそうです。
歩き始めて1時間、河童橋に戻ってきました。今もまだ確かにここにいるのに、今日は帰る日と思うと、もうまた来年はいつ来ようと悩むくらい立ち去り難い思いです。北アルプスを間近に望む雄大な景色、そして長いあいだ大切に守られてきた豊かな自然と伝統、それこそが今もむかしも人びとを惹きつけて止まない上高地の魅力なのかもしれません。
yantaro