長い冬の眠りからようやく目覚めた春の上高地(長野県松本市)。今シーズン(2024)はバス、タクシーなど交通機関の開通日が4月17日。第54回上高地開山祭は本日4月27日に行われる予定で、その日に向けてホテルやロッジ、レストラン、お土産屋さんなどが順次営業を開始しています。
昨年(2023)の秋に初めて上高地を訪れて五千尺(ごせんじゃく)ホテルにお世話になり、まるで別天地のような山岳リゾートの景色や極上のホテルステイにすっかり魅了され、ぜひまた来たいと願っていたので、今シーズンのホテル宿泊オープンを待ちかねて初日の4月20日に泊まることにしました。
上高地は通年マイカー規制がかかっているので、今回も長野県側の沢渡(さわんど)駐車場に車を置いて、バスターミナルからシャトルバスで上高地に入ります。
沢渡(さわんど)バスターミナルから約30分で上高地バスターミナルに到着。
林間の遊歩道を歩いて行くとすぐに、
上高地のシンボルともいえる穂高(ほたか)連峰と梓川(あずさがわ)の絶景が見えてきます。
そして梓川にかかる“河童橋(かっぱばし)”。
その袂(たもと)にあるのが、どこへ行くにも便利な上高地随一のロケーションを誇る“五千尺ホテル上高地”です。
ひとまずフロントに荷物を預けてランチをすませ、
河童橋の上からの景色を堪能したら、
早速今日の目的地の“徳沢(とくさわ)ロッヂ”に向けて出発です。
上の地図はJapan Alps Kamikochiのウェブサイトよりお借りしました。
木橋の下を優雅に泳ぐマガモにご挨拶。
梓川に注ぐ清水川(しみずがわ)は小さな川なのですが、その透明度は抜群で、清流にしか育たない水草のバイカモ(梅花藻)が水中にゆらゆらと揺らめく美しい景色は、何度見てもいいものだなぁと思います。
河童橋から徒歩5分の“上高地ビジターセンター”前を通り、
小梨平(こなしだいら)キャンプ場まで来ると、さっきまでの喧騒はどこへやら。
ここから先を歩くのは、純粋にトレッキングや本格的な登山を楽しむ人たちだけのようです。
梓川左岸道をしばらく歩いて行くと、左手に明神岳(みょうじんだけ)が見えてきます。
そして突然足元が白い砂地に変わるところが“下白沢の押し出し”。
春を告げる蕗の薹(ふきのとう)があちこちに顔を出しています。
おっ野生のニホンザルも悠々と横を通り過ぎて行きます
。「こんにちは、お邪魔します」と声をかけたら振り返ってくれました
。
河童橋から約50分で“朝焼けの宿 明神館”が見えてきました。
この奥の明神池畔には穗髙(ほたか)神社の奥宮が鎮座しています。明神一之池、明神二之池とあわせて昨年(2023)9月23日付の記事『秋涼の上高地へ②~河童橋から明神池』でご紹介していますので、よろしければご一読くださいね。(手前味噌で恐縮です)
明神館の今年(2024)の宿泊オープンは4月26日なので、わたしたちが行ったこの日はまだひっそりと静かでした。
さて、昨年(2023)の9月は明神池まで歩いたので、ここから先の道は今回が初めて。標識を確認し徳沢を目指します。
上高地散策マップによると、梓川の両側に遊歩道があるのは明神橋(みょうじんばし)から下流の田代橋(たしろばし)までで、
明神橋から上流の徳沢(とくさわ)、横尾(よこお)へ向かうのは梓川左岸道だけのようです。
雲が晴れて青空に明神岳が映えます。
清冽(せいれつ)な渓流に架かる木橋を渡り、
ところどころに湧水の溜まる池もあり、
木漏れ日の降る清々しい樹林の道があらわれたかと思うと、
突然視界が開けて梓川の清流と美しい山岳景観が目に飛び込んできます。
河童橋周辺から見るのとはまたひとあじ違う景色は、ここまで歩いて来たご褒美のようです~。
明神館から先はさらにすれ違うハイカーも少なくなりますが、遊歩道は除雪も行き届ききれいに整備されているので、トレッキングシューズや雨具など最低限の装備を整えていれば、わたしたちのような初心者にもとても歩きやすい道です。
明神館前からちょうど1時間で“徳沢ロッヂ”に到着。ほんとは徳沢名物ソフトクリーム&コーヒーソフトが食べたかったのですが、こちらもオープンは4月27日からで、この日はご覧のようにベランダにはたくさんの布団が干され、お客さまの受け入れ準備に大忙しの様子でした。フライングで残念でしたけど、ここのソフトクリームを食べるためだけにでも、また来年来れたらいいなぁ~と思います
。
上高地の奥座敷とも称される“徳沢”には広々とした野原がひろがり、思いっきり深呼吸しながら足を休めるのにぴったりです。それもそのはずここにはかつて牧場があり、小梨平、明神、徳沢の三ヶ所で放牧がおこなわれていた時代があったそうです。なるほどこの野原はその牧場の名残りなのですね。ソフトクリームが美味しいわけだ・・・って、まだ言ってる
。
野原の突き当りの赤い屋根の建物が“氷壁の宿 徳澤園”で、牧場の番小屋があったところにできた山小屋ふうの宿だそうです。
散策マップを見ると、徳沢からさらに奥の北アルプスの山々への起点となる“横尾(よこお)”へ行くには片道約70分、わたしたちの足では往復2時間半はみなければならないので、やはり今日のところは徳沢までとし、次の機会には徳沢ロッヂに泊まって朝から横尾を目指して歩きたいと思います。
せっかくここまで来ているので、散策マップに徳沢から片道15分とある“新村橋(しんむらばし)”まで行ってみようと思います。
すると迂回路(うかいろ)の案内があり、どうやら新村橋は架け替え工事の最中のようです。
初めての道なのでよくわからないのですが、矢印の誘導に従って歩きます。
帰宅後調べると、新村橋は河童橋や明神橋と同じ吊り橋ながら人一人がやっと通れるくらいの幅の狭い橋らしいのですが、夏場の大雨で梓川沿いの物資運搬用道路が流されたときに、山小屋で必要な物資を人力で運んだり、怪我人や病人などを搬送するなど、緊急時はとくになくてはならない橋なのだそうです。
そしてようやく昨年(2023)、緊急車両も通れる新たな新村橋の建設が始まったそうで、“上高地 再生と安全プロジェクト”と名づけられた新村橋の架け替え及び梓川の自然な流れ「網状流路」の再生を目的とした大規模工事の完成は、2027(令和9)年を予定しているそうです。わたしたち訪問者が皆こうして安心して歩くことができるのは、こういう陰のご尽力の賜物(たまもの)なのだなぁと改めて感じます。
気持ちはもう少し先まで歩きたいのですが、徳沢から明神を経て河童橋のホテルまで戻る時間を考えると、そろそろ引き返さねばなりません。ふたたび徳沢牧場跡の広場を抜けて、
ときどき熊ベルも鳴らしながら来た道を戻ります。
梓川とくっついたり離れたりしながら歩いて、
明神岳が見えてくるとやはりどうしても、奥宮へ寄りたくなります。
お詣りだけ、長居はしないと心に決めて、向かいます。
明神橋から見上げる御神体の明神岳。
穗髙神社は明神池の畔(ほとり)にある奥宮のほか、長野県安曇野市(あずみのし)穂高に本宮(里宮)が、そして北アルプスの主峰、奥穂高岳の山頂に嶺宮(みねみや)が鎮座しており、奥穂高岳は御祭神の穂高見命(ほたかみのみこと)が降臨された場所と伝えられています。
明神橋を渡って梓川右岸道に進みます。明神館横の社号標のところから、この辺り一帯はすべて奥宮の御神域とされ、そこから上高地の語源は“神垣内(かみこうち)”に由来するとも言われています。
穗髙神社奥宮の鳥居。曇り空ですが明神岳がくっきりと見えるのが有り難い。
清らかな水で御手水をとり、
穗髙神社の奥宮に参拝します。この奥にひょうたん形の明神一之池と明神二之池があり、社務所で500円を納めて拝観することができます。
参拝の記念に。
奥宮脇の休憩所には天皇皇后両陛下が皇太子ご夫妻だったころ、愛子さまとともに奥宮を参拝されたときのお写真が飾ってありました。これを見ると愛子さまのご成長著しく、ご立派に成人なされた今のお姿がより一層ありがたく感じられます。
さて、この時点で午後3時30分を回っているので明神池には遥拝のみで失礼し、帰途につきます。
明神池からは梓川右岸道を歩きます。
梓川のエメラルドグリーンがほんとうにきれい。
そうそう、昨年(2023)は一日で大正池コース(河童橋⇔大正池)と明神池コース(河童橋⇔明神池)を歩いたので、この夕方の帰り道はふたりして疲労困憊していたのを思い出します。
途中の渓流に架かる木橋をいくつも渡らないと“岳沢(だけさわ)湿原”には出ないのよね~と夫と話しながら歩いていると、
おや ニホンザルが二匹でまったり毛づくろい中
。
・・・と思ったら、そこからお猿さんたちの群れに前後左右を囲まれて、一緒に歩くことになりました。
昨年もあちこちで遭遇しましたが、上高地のお猿さんたちは自然の中で生きていて人間から攻撃されたことがないからか、こちらが何もせず知らん顔していると、あちらも人間がすぐそばにいてもまったく動じることなく、行きたいところに行き自由に動き回っています。
どうもこの日は夕暮れの時間帯で、その辺りに散らばって遊んでいる群れの仲間たちを呼び集めながらねぐらへ帰るところのようで、
明らかに応答しているようなかけ声をかけあいながら、あっちからもこっちからもお猿さんたちが集まってきて、列をなして歩いて行くんです。
この管理用車道と遊歩道の分かれ道では、なんと群れを先導するお猿さんが一緒に歩くわたしたちの方を振り向き振り向き、ときに立ち止まりながら「こっちだよ」と言うように誘導してくれるんですよ。
このままついて行ったらお猿さんの家に着いちゃうのかなと思っていると、いつの間にか一頭また一頭と茂みの中に姿を消してゆきました。襲うのはもちろん人を威嚇(いかく)したり物をねだったりすることもなく、気づけばふつうにそこにいて、そっと一緒に歩いてくれる上高地のお猿さんたちの気遣いとマナーには、わたしたち人間も大いに学ぶことがありそうです。
半日歩いて一番しんどい帰り道も、お猿さんの群れと同行させてもらったおかげで気が紛れ、疲れが半減したねと話していると、ようやく岳沢湿原が近づいてきました。ここまで来れば河童橋はすぐそこ、やった~。
正面には六百山(ろっぴゃくざん)、立ち枯れの樹々と吸い込まれそうに神秘的な水の色・・・。岳沢湿原は河童橋や大正池のようなメジャーな場所ではないので観光客が押し寄せることもなく、ウッドデッキに座り静かに景色を楽しむことができます。
水の音に耳を傾けながらお茶を飲み、この日最後の休憩をとってから
ふたたび木道を歩きます。
岳沢湿原から約10分でホテル白樺荘近くの穂高連峰ビュースポットに到着。
五千尺ホテルも見えてきました。ただいま~っ
明るく写っていますがこのとき午後5時。上高地バスターミナルから出るバスがもうほとんどないからか、河童橋周辺の人出もぐんと少なくなりました。
朝にはくっきりと見えていた下流の焼岳(やけだけ)もうっすら霞んでいます。
おかげさまで明神を経て徳沢まで予定どおりに往復することができました。それもこのグッドポジションにホテルがあったればこそ。チェックインをして、ひとまずお風呂をいただくことにしましょうか。
yantaro