わたしたち長崎県人にとって「眼鏡橋」といえば、過去記事『2024長崎ランタンフェスティバル』(2024年2月24日付)の中でもご紹介した長崎市内の中島川に架かるあの眼鏡橋のことなのですが、群馬県にもめがね橋があると聞き、早速行ってみることにしました。
それがこちらの“めがね橋”(群馬県安中市)。わ~想像していたのよりはるかに美しく、壮大な煉瓦造りの4連アーチ橋です。とにかく大きい
。
案内板によると“めがね橋”は通称で、この橋梁(きょうりょう)の正式名称は「旧国鉄信越本線の碓氷第三アーチ(橋梁)」といい、群馬県安中(あんなか)市松井田町と長野県北佐久郡軽井沢町との境にある峻険な碓氷峠(うすいとうげ)を走行するために、ドイツのハルツ山鉄道を参考に、日本で初めて“アプト式鉄道”を導入して1892(明治25)年12月に竣工した鉄道橋だそうです。
“アプト式鉄道”とは、素人のわたしには詳しい仕組みの説明はできないのですが、簡単にいうとスイス人のアプトという人が考案した急坂用の歯車式鉄道のことで、機関車に取り付けた歯車と、軌道に設置した滑り止めの歯とをかみ合わせて駆動し走行するものだそうです。
建設当時、高崎駅~直江津駅間を結ぶ信越本線のうち、碓氷線と呼ばれる横川駅~軽井沢駅間だけが、碓氷峠の急勾配に難儀して未開通だったため急ピッチで工事が進められ、当時の土木技術の粋を集めてなんとわずか二年で完成させ、高崎~直江津間の全線開通に貢献したのだそうです。
碓氷線の建設工事では26のトンネルと18の橋梁が造られ、中でもこの第三橋梁は全長91m、川底からの高さは31mもあり、使用された煉瓦の数は約200万個、現存する煉瓦造りのアーチ型鉄道橋としては日本最大級を誇るそうです。真下から見上げると、その橋脚の圧倒的な迫力に息を飲みます。
その後信越本線が電化され、新線の建設により1963(昭和38)年に鉄道は廃線となりますが、開通から100年目となる1993(平成5)年には「碓氷峠鉄道施設」として、他の4つの橋梁とともに日本初の重要文化財に指定されたそうです。今では横川駅から熊ノ平駅までの旧線の跡が“アプトの道”という遊歩道として整備されているので、めがね橋の上も歩いて渡ることができるようになっています。
国道18号線側からめがね橋をくぐると橋上へ出る石段があり、
坂道を上って行くと、
廃線敷の上をきれいに舗装した遊歩道が現れます。
ねがね橋の袂から眼下を見下ろすとこんな感じ。高いところが大好きなわたしはウキウキですが、橋の欄干はそれほど高くないので、高所恐怖症の方や子どもさんなどはどうぞお気をつけくださいね。
先ほど下から見上げていためがね橋の上を歩きます。
左手にちらっと見えているアーチ橋が信越本線の新線でしょうか。
渡り切った先の5号トンネルに入ります。入口は頑丈そうな石造り。
入ってすぐは明るいのですが、
内部は次第に暗くなり、頼りはこの小さな照明だけ。これが映画なら、どこか異次元の世界へつながっていてもおかしくないような幻想的な雰囲気です。
・・・と夫とそんなことを話しながら歩いて行くと、前方に視界が開け、
出口だ~と思ったらまたすぐに、次の4号トンネルが見えてきます。
4号トンネルの先にはまた3号トンネルが・・・。
群馬県安中市が発行する観光ガイドマップ「碓氷峠路探訪」を見ると、右下のJR信越本線横川駅近くの起点から左上の熊ノ平までつづく赤い点線が遊歩道“アプトの道”で、途中1号~10号までトンネルが10個あり、めがね橋は5号トンネルと6号トンネルの間にあることがわかります。
ガイドマップによると全長約6kmのアプトの道を往復すると一日がかりになりそうなので、今日のところはここで引き返します。
それにしても一個一個この煉瓦を人の手で積んでいったのかと思うと、先人の知恵と根気、そして情熱に胸が熱くなります。
出口が見えてきました。
トンネルの途中途中にあるこのような窪みは退避用のものでしょうか。
5号トンネルの中から見るめがね橋、その先は6号トンネルです。
5号トンネルを出たところに小道が伸びているので行ってみると、
また別の角度からのめがね橋が楽しめます。
6号トンネルの入口。
今でも軽井沢は日本有数のリゾート地として有名ですが、その発展を促したのは、もしかしたら1893(明治26)年に開通したこのアプト式鉄道碓氷線だったかもしれず、少なくともその一端を担っていたのは間違いないような気がします。
めがね橋の下を流れるのは碓氷川です。
歩いてみると安中のめがね橋は、そのかわいらしい愛称からは想像もできないような壮大な橋梁であると同時に、日本の近代化を支えた重要な文化遺産の一つであることがわかります。一時期「富岡製糸場と絹産業遺産群」の構成遺産として暫定リストに入るも、実際には生糸輸送より旅客輸送がメインの路線だったことから除外されたという経緯があり、安中市は今後改めて「碓氷峠鉄道施設群」として世界遺産登録を目指す方針だそうです。
万一世界遺産に登録されれば、この素晴らしい景観の中に国内外からの観光客が押し寄せるやもしれず、それがよいことなのかどうかは正直わかりません。ただ今目の前に広がるこの景色はほんとうに素晴らしく、アプトの道を歩くためだけにでもまた来たい・・・と思わせてくれる魅力にあふれていました。
めがね橋を後にして、国道18号線を上る途中で見つけた「碓氷湖」の看板を思い出し立ち寄ってみました。
案内図を見ると、碓氷湖は中尾川と碓氷川の合流地点を堰き止めて造られた人造湖で、湖畔に整備された散策路は一周約20分で歩けるそうなので、運動がてら歩いてみようと思います。
石段を上ると、
展望台のような広場があり、
その左手が“坂本ダム”です。
ダムの管理事務所(閉鎖中でした)を通り過ぎた先には展望デッキがあり、
ざあざあと流れ落ちる碓氷湖からの放流が間近で見られます。放水口の上は橋になっているのですが、ここから見るとまるで鉄道のトラス橋みたいです。
その橋を渡ります。
橋の上から放流を見下ろします。
おっ正面に今見てきためがね橋を模したような優美な橋が架かっています。
奥にももう一つアーチ橋が・・・。こちらは2連で、まさしく赤いフレームの“眼鏡橋”です。
その名前は“ほほえみ橋”。アーチの部分はやはり煉瓦造りですね。
ほほえみ橋の上からの眺め。
駐車場の対岸に来ました。碓氷湖は大きな湖ではありませんが、水辺のすぐそばまで行けるのがいいですね。湖畔には釣り人もいらっしゃいました。
さっき通って来たダムの上の橋があんなに遠くに。
もう一つのアーチ橋も煉瓦造りのようです。やはり先ほどの“安中のめがね橋”がモチーフになっているみたいですね。
“ふれあいトンネル”も煉瓦造り。
わっトンネルの中もアプトの道のトンネルに雰囲気が似ています。
本家めがね橋より大きな5連のアーチ橋が近づいてきました。
その手前にある“峠の橋”は木造でちょっぴりレトロ。
そして中尾川に架かる大きなアーチ橋には、“夢のせ橋”という素敵な名前がついています。
湖畔では大きなゴールデンレトリバーが嬉しそうに水遊びをしています。
豊かな緑に抱かれた湖畔を歩いていると、静かな湖畔の森の陰から もう起きちゃいかがとかっこうが鳴く カッコウ カッコウ カッコウ カッコウ カッコウ
と口ずさみたくなるくらい長閑(のどか)な時間が流れていきます。
春3月、もうすぐこの碓氷湖にも新緑や花
の季節がやってきますね
。
yantaro