韓国の名優イ・ビョンホンさん主演の韓国映画『コンクリート・ユートピア』を見ました。

 

写真はすべて『コンクリート・ユートピア』のオフィシャルサイトよりお借りしました。ありがとうございます。

 

 日本では2024年1月5日に公開されましたが、元日に起きた令和6年能登半島地震で多くの方々が亡くなられ、甚大な被害が予想される中で災害映画を見に行くのは不謹慎ではないかと胸震え、迷った挙句足を運んだのは一週間後のことでした。

 

 

 オープニングでは、まるで日本の高度成長期を見ているようなソウルの住宅事情の変遷が描かれます。経済成長に伴い次から次へと新しい団地が造成され、何とか憧れの団地住まいを手に入れようと人びとは躍起になり、そして団地に住むことがある意味「勝ち組」のステータスにもなるような時代が日本にもあったなぁ~としみじみしていると、突然轟音とともに地震なのか津波なのか隕石の落下なのか、何かわからないけれど、とにかくとてつもなく大変なことが起きているという状況がスクリーンいっぱいに映し出されます。

 

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 それはソウルだけでなく、韓半島全体を揺るがすような未曽有の大地震による地盤隆起で、みるみるうちに辺り一面廃墟と化してゆくソウル。災害パニック映画における状況描写のリアリティの高さではおそらく韓国映画の右に出るものはないと思えるくらいの悲惨な状況の中、たった一棟だけ倒壊することなく生き残ったマンションが、舞台となる“ファングン(황궁)アパート”です。日本ではアパートはおおむね2~3階建て、マンションは鉄筋コンクリートの3階建て以上の共同住宅というイメージですが、韓国では日本でいうマンションも아파트(アパトゥ)と呼び、このファングンアパートも10階建てくらいの高層マンションです。

 

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 見る限り、大統領府や行政機関などもすべて壊滅していて外からの救助など望むべくもなく、瓦礫の山と化した街はもはや無法地帯、あらゆる犯罪が横行しています。そんな中、居住者以外の生存者たちは唯一残ったファングンアパートに助けを求めて押し寄せてくるのですが、ライフラインは途絶え食料も乏しく、当然居住者とのトラブルも絶えず放火事件が起きたりもします。そこでファングンアパートの居住者たちは集会を開き、住民投票を行って、選ばれたリーダーを中心に自主防衛団を結成、居住者以外の人びとをすべてアパートから締め出して、ピサの斜塔のようなファングンアパートを自分たちだけの“ユートピア”にしようと奔走します。

 

 

 とある功績から図らずも臨時の住民代表に選ばれた902号室の住人ヨンタク(イ・ビョンホン)、念願のマイホームを手に入れて、看護師の妻ミョンファ(パク・ボヨン)とつつましく暮らす公務員のミンソン(パク・ソジュン)、あまり風采の上がらないヨンタクを住民代表に推した後も、何かにつけて仕切りたがるファングンアパート婦人会長のグメ(キム・ソニョン)など、住民たちは互いの動向を窺いながらも守るべきルールをつくり、防衛団、救護班、食糧管理班などの役割を決めて分担し、まるで共産圏の国のように粛々と、自らの手で築き上げた“コンクリート・ユートピア”を守ろうとします。

 

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 ファングンアパートが居住者のためだけの安住の地になるにつれて、最初は頼りなさげだったヨンタクの顔つきが変わり、「家族(住民)を守るのは父親(ヨンタク)の務めだビックリマーク」と叫びながら、住民代表という地位を利用して次第に権勢をふるうようになります。ヨンタクの信頼を得て防衛隊長に指名されたミンソンは、常にヨンタクに付き従いともに行動するうちに、まるで独裁者のようにふるまうヨンタクにどんどん心酔して言いなりになってゆき、そんなミンソンを妻のミョンファだけが不安そうな目で見つめています。

 

 

 そんなある日、帰宅途中に災害に遭った若い女性が命からがらファングンアパートに帰ってきます。それがヨンタクの部屋の隣の903号室に住むヘウォン(パク・ジフ)。ヘウォンの登場をきっかけに事態は思わぬ方向へと動き出し、今やファングンアパートのヒーロー的存在のヨンタクの本当の姿が暴かれてゆく・・・というのが大まかなストーリーです。

 

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 最近の若いひとたちは少し違うかもしれませんが、我々昭和世代にとって“自分の家を持つ”というのはやはり人生の中でも特別なことなので、「夢のマイホーム」は韓国でも同じなのだなと思うと、大災害の中で唯一生き残った建物が居住者それぞれの“マイホーム”だったことに大きな意味があるように思えてきます。だからこそ一致団結して守りたいし、そこに土足で入り込んでくるよそ者たちは“ゴキブリ”として排除するべき対象になっていったのではないかと・・・。

 

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 さらに居住者たちの会話の端々からはマンション同士の格差(ファングンアパートはそれほど高級マンションではなさそうです・・・)や、同じマンションの中でも分譲か賃貸かのランクづけもありそうなのが感じられて、購入するときには手の出なかった超高級マンションの住人までもがファングンアパートに助けを求めて来るのに平静ではいられないという心理的葛藤も垣間見えます。

 

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 わたしたちは見ている間じゅう、これが自分だったらどうするはてなマークと問いかけられているような気がします。ヨンタクだったらはてなマークミョンファだったらはてなマーク家を失って路頭に迷った方だったらはてなマーク・・・平常時なら冷静に判断できる(はずだ)と思うけれど、実際にあのような状況に置かれたら、ぜったいにヨンタクにはならない、彼には加担しないビックリマークと言い切れるか自信がありません。言いかえればそのくらいイ・ビョンホンさんの演技は真に迫っていて、その変貌してゆく姿には寒気を覚えるほどでした。

 

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 すべてはそこが“マイホーム”だったから・・・。

もしも舞台がマンションではなく、ショッピングモールや劇場など公共の場所だったら、きっと全く違うストーリーになっていたのではないかと思います。

 

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