気持ちよく晴れた秋の一日、国営昭和記念公園(東京都立川市)を訪ねました。
立川はず~っと以前にしばらく住んでいたことがあるのですが、その後の再開発による駅前やバス通り、昭和記念公園周辺の変わりようには目を見張るばかり。むかしの面影を探そうにもJR立川駅北口ロータリーの上には巨大な歩道橋が張り巡らされ、おぼろげな記憶をたどるのにもひと苦労
。改めて過ぎ去った年月の長さをかみしめたことでした。
昭和記念公園はとっても広くて、無料で入れる“みどりの文化ゾーン”と有料の“公園ゾーン”に分かれていて、公園ゾーンの出入口は上の“立川ゲート”のほか、“西立川ゲート”、“昭島ゲート”、“玉川上水ゲート”、“砂川ゲート”と5つあります。駐車場は立川口、西立川口、砂川口の3ヶ所にあり普通車一日900円、公園の入園料はおとな(高校生以上)450円、中学生以下は無料です(2023年10月現在)。
立川ゲートを入るとすぐ目の前が“カナール”です。カナールとは‘運河’や‘水路’という意味で、造園用語では細長い直線水路を配した庭園の形式を言うそうです。
全長約200mのカナールには5つの噴水が配されて、西洋庭園のような雰囲気です。
カナールの両側は銀杏(いちょう)並木で、水辺を歩いても銀杏の木の下を歩いてもとても気持ちがいいです。銀杏(ぎんなん)特有のにおいがするので見上げると、たわわに実をつけている木とまったく実の生らない木があって、不思議に思い調べると、銀杏には雄の木と雌の木があり、雌の木にしか実は生らないことを知りました。木を見るだけでは雌雄の区別はつきませんが、この時期になるとわかるのですね。
一番奥の大きな噴水。
さて、ウォーキングマップを見ながら、“森のコース”をゆっくり歩いてみようと思います。
“ふれあい広場”を過ぎると、
すぐに“ふれあい橋”。
昭和記念公園は歩道とサイクリングロードが区分けされ、園内には全長14kmの専用サイクリングロードが整備されているので、歩くひとたちと自転車が交錯することはありません。自転車は各ゲートのサイクルセンターにレンタサイクルがあり、持ち込みもできるそうです。
大きな“水鳥の池”が見えてきました。
岸辺を歩いているとたくさんの鯉たちが集まってきます。
さらに行くと花木園の“ハーブガーデン”。
ハーブの優しい香りと、
美しい花々に癒されます。
花木園を過ぎると、園内中央に広がる“みんなの原っぱ”に出ます。シンボルツリーの大ケヤキも健在。
“原っぱ南花畑”では今ちょうど“秋のブーケガーデン”が開催中です。
色とりどりに咲き誇る秋の花22品種が植えられたお花畑の中をお散歩できるようになっています。
秋らしい色あい。
こんなフォトスポットも。どこかの高原みたいです。
昭和記念公園の総面積はなんと165.3ha(ヘクタール)もあって・・・と言ってもそれだけではピンとこないのですが、東京ドーム(4.7ha)に換算すると約35個分だそうです。この“みんなの原っぱ”だけでも約11ha、東京ドーム2つ分よりまだ広い
。ここは昭和記念公園になる前は立川飛行場があったところですが、現在はこの広さを活かして災害時の広域避難場所にも指定されているそうです。
みんなの原っぱの東側に白木の木組みが目を惹くスタイリッシュなカフェがありました。昨年(2022)12月にオープンしたばかりのベーカリー・カフェ『OKA CAFE(オカ カフェ)』です。建築家の隈健吾(くまけんご)氏の設計によるものだそうで、斬新なデザインなのに周囲の自然に溶け込んでいるのが素敵です。入ってみたかったのですが長蛇の列ができていて、残念ながら遠くから眺めるだけでした。
“原っぱ東花畑”では今、大輪のコスモス“センセーション”が見ごろを迎えています。
華やかでとてもかわいい。
原っぱ東花畑にもフォトスポットがありましたが、あら、逆光。
みんなの原っぱを突っ切って“日本庭園”に向かう途中、ほのかな香りに辺りを見回すと金木犀(キンモクセイ)の大木がありました。こんなに大きくなるんですね。
しばらく行くと風情ある竹林と生垣(いけがき)が見えてきました。
波打つような曲線に刈りこまれています。
おっ“パークトレイン”がやって来ました
。広い園内を約45分で一周するそうです。乗車券は1回券が400円、一日フリーパス券は600円です。
こちらが日本庭園入り口の“南の門”。
昭和記念公園の日本庭園は池を中心に、周囲に滝や川の流れ、州浜(すはま)、四阿(あずまや)、木橋、菖蒲田などを配した典型的な“池泉(ちせん)回遊式庭園”です。
池に突き出すように建てられた四阿(あずまや)“清池軒(せいちけん)”の中から見ると、まるで額絵のような景色です。
歩き疲れたので、清池軒の隣の呈茶(ていちゃ)席“観楓亭(かんふうてい)”でひと休み。
待合の前の露地には涼し気な蹲踞(つくばい)も。
内部は立礼席(りゅうれいせき)になっていて、先に茶券(一服610円)を求め席につくと、点(た)て出しで運んできてくださいます。この日は満席で写真を撮ることができず、上の写真は国営昭和記念公園のホームページよりお借りしました。靴を脱がずに入れるよう床は本瓦張りの土間仕様、天井は茶室らしい蒲(がま)の葉天井のようです。鄙(ひな)びた味わいを持たせながら、その実とても手の込んだつくりになっています。
通常一般客が入れるのは立礼席だけですが、ホームページを見ると、亭内には床の間つきの広間や次の間、控えの間、小間などがあり、別途有料にて茶会や句会などの催し物に貸し出されることもあるそうです。
主菓子(おもがし)は、まるで栗をひと粒そのまま食べているような濃厚かつなめらかな栗きんとん。絶品でした~。
美味しいお菓子とお抹茶をいただきながら眺める景色もまた善き哉。
岸辺の景色も美しい。
ビタミン豊富なお抹茶をいただいて元気が出たので、また歩きます。
観楓亭(かんふうてい)を過ぎるとすぐに“盆栽園(ぼんさいえん)”です。
竹林をバックに、丁寧に手入れをされた盆栽の鉢が並びます。
静かに眺めていると、この小さなひと鉢の中に大木に勝るとも劣らないほどのエネルギーを蓄えているように感じます。小宇宙みたい。
色づきはじめた紅葉(もみじ)。
ちっちゃいメダカがいっぱい
盆栽園を出ると水音が聞こえてきて、辿っていくと滝がありました。
滝見の四阿(あずまや)“涼暮亭(りょうぼてい)”の奥から湧き出す水が、上下二段の石組を流れ落ち日本庭園の池に注ぎます。
10月にしては汗ばむ陽気の日ですが、水音は何よりの清涼剤ですね。
池にかかる木橋を渡ります。左手前は菖蒲田。
対岸には先ほど寄って来た清池軒(せいちけん)と観楓亭(かんふうてい)が見えます。
風がなく、鏡面のように静かな池。
大名庭園みたいです。
木橋の袂の四阿は“昌陽(しょうよう)”という名前です。
枝ぶりのよい松の木の下に船着き場。平安時代の貴族たちが、池に舟を浮かべて歌を詠みながら舟遊びをしていたというのが偲ばれるような風景です。
池の南側は芝生の広場になっていて、色とりどりの和傘が飾られていました。
華やかな傘の通路。
ひとつひとつの傘の後ろにライトがセットされているので、夜になったらライトアップされるのかもしれません。
園内マップを見ると、日本庭園のさらに奥に“こもれびの丘”と“こもれびの里”というエリアができているみたいです。以前来たときは日本庭園まででその先が工事中だったので、ここは初めて入るエリアです。上の写真は入口に建つ“こもれびの家”。
その名のとおり木漏れ日の降る“こもれびの丘”は、公園内の最北部に武蔵野の雑木林を再現したものだそうですが、いや、これが真っ平らな飛行場跡地に一から作り上げたものだなんてとても信じられないくらい自然いっぱいのホンモノの森なんです。
そして森を抜けると、そこは一面にキバナコスモスの揺れる“花の丘”。
わ~~。スキップしながら歩きたい
。
園内の週刊花だよりでは“見頃後半”となっていますが、まだまだこんなにきれいに咲いてます。
ここもフォトスポットかな。
“レモンブライト”という品種だそうです。
つづいて“こもれびの里”へ。
ここは昭和30年代の武蔵野の農村風景を再現してあるエリアだそうです。
水車小屋を過ぎると茅葺屋根の重厚な長屋門(ながやもん)があり、案内板によると、かつて東京都狛江(こまえ)市にあった石井家住宅の門を移築したものだそうです。これだけの構えの長屋門をもつ石井家は、農家といっても名字帯刀を許された格式の高い豪農だったことと思われます。
長屋門を内側から見たところ。門の両脇は使用人の住居や納屋として使われることが多かったようです。
その納屋の中に、農機具などとともに見事な龍の彫刻が施された柱のようなものが展示されているので寄ってみると、これは祭礼時に立てる大幟(おおのぼり)の支柱に取りつける飾りだそうです。
“外蔵(そとぐら)”はおもに米や麦など収穫物の保管に使われたそうです。
こちらが江戸時代中期(18世紀後半)に建てられた石井家の“主屋”。向かって左手の屋根が低く下がっているのが特徴的で、“葺きおろし”と呼ばれるものだそうです。
葺きおろしの下には薪が積まれ、
内部はお蚕さんを飼う蚕室(さんしつ)になっています。
囲炉裏の切られた居間。
中の間。
一番奥は床の間つきの座敷です。
ぐるりに巡らされた縁側は、軒下に干し柿や干し大根を吊るしたり、農作業の合い間の憩いの場になったりもしたのでしょうね。
主屋の裏手には廊下でつながれた“内蔵”まであります。漆喰の土蔵の上に茅葺屋根を載せた珍しい蔵です。
長屋門前の大幟(おおのぼり)の支柱。さきほどの龍の彫刻はこの土台にはめ込んで使うもののようです。
田んぼや畑では実際に作物が育てられていて、見学するだけではなく、田植えや稲刈り体験、竹炭焼き体験やうどん・そば作りなど四季折々のイベントも行われているそうです。
“武蔵野の農 ここにあり”と刻まれた石碑もありました。
陽も傾いてきたので、最後に公園北西部の“子どもの森”を通って帰ろうと思います。パークトレインの停留所前に、むかし懐かしい赤ポストが立っていました。
マップを見ると“子どもの森”エリアもとても広くて、入口は四つあり、ここは“かざぐるまゲート”です。風がある日ならこの風車がくるくる回るのかな。他にも“ワクワクゲート”、“谷のはしゲート、“星のゲート”がありました。
子どもの森の中央に位置する“森の家”は総合インフォメーションセンターで、中には売店や救護室、トイレ、赤ちゃん休憩室なども完備しています。
“霧の森”。むかし子どもたちと来たときは、その名の通りここには真っ白な霧が立ち込めていました。霧の発生装置があるのだと思いますが、今でも見られるのでしょうか
“地底の泉”。渦巻きの一番下には季節によって水の量が変わる不思議な泉があるそうです。砦(とりで)みたいな石垣もかっこいい
アーチ橋の下はサイクリングロードです。
“月の丘”へ登る石段。
てっぺんには大きな石の月球儀がでんと据えられています。子どもの森にはもうひとつ、月の丘より高い“太陽のピラミッド”もあるんですよ。
カラフルなタイルや石が埋め込まれた“わんぱく広場”。この他にも子どもの森には“雲の海”という巨大なトランポリンみたいなのや“虹のハンモック”、“空のすべり台”、“ドラゴンの砂山”、“森のとりで”などなど、ネーミングだけでもワクワクするような遊び場がいっぱいあるんです。孫たちを連れてきたら、一日では遊び尽くせないかもしれません
。
園内のあちこちに愉快なモニュメントも。
ハーブの丘のパンパスグラスも見ごろです。
春はフラワーフェスティバル、夏はプールに花火大会、秋はコスモスまつり、冬はイルミネーションと、いつ来ても、おとなも子どももペットも、みんなで楽しめる昭和記念公園。あちこち寄り道しながら歩いていたら、気づけば万歩計の数字は17,000歩を超えていてビックリ。じーとばーののんびりお散歩、とっても楽しい一日でした。
最後にこっそり。秋、銀杏・・・というと思い出す幸せな一枚です。かなり以前のGilstory関連のインタビュー記事で見たのですが、出処を思い出せず勝手に拝借いたしました。ごめんなさい
。穏やかな秋の日のナムギルさん、ほんとに素敵
。
yantaro