山の天気は変わりやすいと言いますし、河童橋(かっぱばし)を起点として大正池(たいしょういけ)とは反対の梓川上流へ歩くもうひとつのトレッキングコース、明神池(みょうじんいけ)にも、雨の心配の少ない一日目のうちに行くことにしました。

 
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 上高地散策マップによると明神池までは河童橋から片道1時間となっていますが、トレッキング初心者のわたしたちの足ではおそらく、一般的な所要時間の1.5~2倍はかかると思っていたほうがよさそうです。

 

 そのためチェックインのときに夕食の時間を午後6時にしていたのを、念のため7時に変更をお願いしてから、午後1時50分、明神池へ向かって五千尺ホテル上高地前を出発します。

 

 梓川(あずさがわ)に注ぐこの清水川(しみずがわ)は六百山(ろっぴゃくさん)の麓から湧き出す清流で、上高地の飲料水として使われている水だそうです。冷涼な清流にしか育たないといわれる“梅花藻(バイカモ)”の揺らめく姿が間近で見られます。

 

 清水橋を渡ってすぐのところにある“上高地ビジターセンター”。

 

 館内は天井が高く広々としていて、上高地の自然や風土、歴史に関するパネル展示や映像資料などが見られます。現在は改装されてこのような立派なビジターセンターになっていますが、最初に建てられたときは館内装飾に回す資金が足りず、大阪万博に携わったひとたちのアイディアを借りて、梓川の河原の石と流木を拾ってきて間に合わせたそうです。でも今見ると、それがかえってとても新鮮に感じられますラブラブ

 

 ガイドツアーやお天気情報などを提供するガイドカウンターに加え、野鳥のキーホルダーやバッチ、本、ノートなど各種グッズの販売コーナーも充実していて、ちょっと覗くつもりがついつい長居してしまいます。また館内のトイレはチップなしで利用できました。

 

 建物全体を支えるこの大黒柱は、樹齢300年を超える木曽檜(きそひのき)だそうです。床も天井も木がふんだんに使われていて、とても居心地のいい空間です。

 

 ビジターセンター前には、現在架けられている河童橋の2代前に使われていた欄干(らんかん)も展示されていて、実際に渡ってみることもできます。

 

 そしてビジターセンターを出るとすぐに、“小梨平(こなしだいら)キャンプ場”に入ります。

 

 持参のテントを張るエリア、常設テントのエリアなど広い敷地内はいくつかのテントサイトに区分けされていて、熊や猿などの野生動物対策として、食料は鉄製のコンテナに収納するよう注意書きもありました。なるほど、大切なことですね。

 

 キャンプ場の中を通り抜け、

 

 梓川左岸道を歩きます。

 

 戸隠古道(とがくしこどう)を思い出すような雰囲気音譜

 

 ツンツンしたおもしろい木ビックリマーク目。真夜中になったらゴソゴソ動き出すんじゃないはてなマークなんて想像するのも楽しいです。

 

 この辺りはまだ平坦な道なのですが、午前中大正池コースを歩きそのまま続いてなので、山歩きに慣れていない足が少しずつ重くなっていますあせる

 

 立ち枯れた倒木もそのままに。

 

 林間の道の木陰から梓川が見えてきました。

 

 明神岳(みょうじんだけ)かなはてなマーク

 

 突然足元が白い砂地になってびっくりしましたが、この辺りが“下白沢の押し出し”のようです。ガイドブックによると、六百山から押し出された岩くずが堆積してできたものだそうです。

 

 明神橋までもう少し、がんばれ~ベル

 

 歩きはじめて50分。ようやく視界が開け、建物が見えてきました。

 

 明神池には穗高(ほたか)神社の奥宮(おくみや)が鎮座しているので、この辺り一帯は明神岳を御神体とする奥宮の御神域になっています。

 

 参道脇には山小屋ふうの“朝焼けの宿 明神館”さん。

 

 案内板に従い明神池に向かいます。

 

 明神橋(みょうじんばし)が見えてきました。上高地ビジターセンターからここまで、左岸コースでちょうど1時間でした。

 

 梓川にかかる明神橋も木製の吊り橋で、河童橋より一回り大きいです。

 

 曇り空くもりですが、御神体の明神岳が姿を現してくださいましたキラキラ

 

 紅葉もみじのころはきっと絶景だろうな~。

 

 橋を渡って明神池に向かっていると、

 

 あらビックリマークここにもニホンザルがビックリマーク今日はお猿さんによく逢う日です~ニコニコ

 

 奥にひとりでしゃがんでいたこの猿はお母さんのようで、キーキーと声を出してしきりと子ザル猿を呼んでいました。

 

 その子ザルが走り寄ってくると、ふたり並んで仲良く歩いて行きました。

 

 人が集まっているところにもお猿さんが何匹かいて、外国人観光客の皆さんが一生懸命写真を撮っておられました。

 

 穗高(ほたか)神社奥宮の鳥居。菊の御紋がついています。

 

 鳥居をくぐったところに佇む“嘉門次(かもんじ)小屋”。明治時代、梓川流域の国有林の管理等で訪れる役人の道案内も務めていたという地元安曇村(あずみむら)出身の猟師、上條嘉門次(かみじょうかもんじ)が1880(明治13)年、35歳のときに明神池の畔に小屋を建てたのがはじまりだそうです。現在は5代目となる女主人が切り盛りしておられ、食事や宿泊ができて、中でも囲炉裏の薪の火でじっくりと焼き上げるイワナの塩焼きが絶品らしいのですが、わたしたちはお腹の都合でいただくことができず、とても残念でしたあせる

 

 店の向かいには、その上條嘉門次の横顔のレリーフがはめ込まれた石碑があります。嘉門次さんは、上高地の魅力をひろく世界に紹介したイギリス人宣教師で登山家のウォルター・ウェストンの登山案内人をつとめ、その著書『日本アルプスの登山と探検』の中で“名案内人ミスター・カモンジ”として賞賛されたことで一躍有名になられ、その後多くの外国人クライマーの指名を受けることになったそうです。

 

 石橋を渡って

 

 清らかなお山の水でお手水(ちょうず)をとり、

 

 穗高(ほたか)神社の奥宮へ参拝します。御祭神の穗高見命(ほたかみのみこと)は日本アルプスの総鎮守であられ、海陸交通の神、登山の守り神として信仰を集めています。また今回は奥宮のみの参拝になりましたが、穗高神社の本宮はJR穂高駅の近くにあるそうです。

 

 明神池は穗高神社の御神域の中にあるので、こちらの社務所で拝観料(おとな500円)をお納めして入ります。

 

 御神体である明神岳の土砂が湧水を堰き止めてできた明神池はゆるやかなひょうたん形をしていて、“明神一之池”と“明神二之池”の大小ふたつにわかれています。こちらが手前にある明神一之池。

 

 一之池に突き出した桟橋の突端にあるこのお社は、北アルプスの主峰、奥穂高岳(標高3,190m)の山頂に鎮座する“穗高神社嶺宮(みねみや)”の遥拝所(ようはいじょ=遠く離れたところから神仏を拝むために設けられた場所)です。奥穂高岳は御祭神穗高見命(ほたかみのみこと)が降臨された山と伝わりますが、わたしたち素人がおいそれと登れる山ではないので、ここから有り難く遥拝させていただきます。

 

 針葉樹林に囲まれた明神池は常に伏流水が湧き出しているので、冬でも全面凍結しないそうです。透明度の高い水は波打つこともなくどこまでも静かで、そこから“鏡池(かがみいけ)”とも呼ばれるそうです。

 

 帰宅してから気づいたのですが、よく見ると明の字の偏が“目偏”になっていますね目

 

 一之池から少し奥まったところに 

 

 “明神二之池”があります。

 

 池の周囲に木道が巡らしてあるので、散策しながら立ち止まってみたり、

 

 池端の岩盤に腰を下ろしてゆっくりと、澄んだ空気と静寂に包まれた幽玄の世界のような風景を堪能します。

 

 二之池はまるで枯山水(かれさんすい)の日本庭園を眺めているような趣なのですが、流れているのかいないのかわからないほど静かで豊かな水があるのですから、枯山水ではなく自然が織りなす山水庭園とでもいいましょうか・・・。

 

 木道がさらに奥へ伸びているので、行けるところまで行ってみます。

 

 別アングルから見る明神二之池と明神岳もまたすばらしく、森閑とした池端に佇んでいると、「もしかして極楽とはこういうところなのかも・・・」と思えてきます。いつの日か旅立つその瞬間に、またこの景色を見られたらいいなぁ~とこころの底から思いました。

 

 さらに奥へと進んで行くと、鏡のように静かだった池の水面が動き出し、渓流となって流れ落ちるところが見られます。静と動のコントラストに命を感じます。

 

 木道の行き止まりの丘。

 

 北アルプスの山々からの恵みの水が、こうして上高地や安曇野(あずみの)のひとびとの暮らしを潤しているのですね。

 

 二之池に戻って反対側の木道を行くと、

 

 一之池の池端に出ます。

 

 空と山影を移す水面はほんとうに鏡のようです。

 

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 透明度の高さが伝わるでしょうか。

 

 二之池側から見た穗高神社嶺宮(みねみや)の遥拝所。 

 

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 桟橋の脇に係留してあるこの雅(みやび)な舟は、毎年10月8日に行われる奥宮の例大祭“明神池お船祭り”において使われるものだそうです。

 

 祝詞(のりと)と巫女舞の奉納のあと、平安装束に身を包んだ神官や巫女たちが雅楽の調べの中、龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)の二艘の御船に乗り、山の安全を祈願しながら明神池を周遊する神事だそうです。上の写真は上高地公式ウェブサイト「Japan Alps Kamikochi」よりお借りしました。

 

 奥宮の社務所横に、御船神事で実際に使われる龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)が展示されていました。水神でもある龍は水を渡るにもっとも速く、同じく想像上の水鳥とされる鷁(げき)は風に堪えるにもっとも強いと言われているそうです。

 

 穗高神社奥宮の御朱印です。

 

 明神池の景色に後ろ髪を引かれる思いではありますが、そろそろお暇せねばなりません。明神橋をもう一度写真に収めてから、

 

 来た道とは反対側の梓川右岸道を歩いて河童橋まで戻ります。

 

 大正池コースに比べると格段にひとが少なく、

 

 とくにこの帰り道は誰にも会わず、聴こえるのは鳥のさえずりと水の音、そしてわたしたちの足音だけという静けさです。

 

 明神池から流れ下る水が梓川とはまた別の渓流となり、ところどころに出現した湿原などもあって、水辺の景色を楽しみながら歩きます。

 

 右岸コースは左岸コースに比べると起伏が多く変化に富んでいますが、要所要所に必ず案内看板が設置してあるので、わたしたち初心者でも安心して歩けます。

 

 一面の笹に覆われた樹林を抜けると、

 

 梓川が見えてきます。

 

 同じような写真ばかりですみませんあせる

 

 渓流にかかる橋を渡り、

 

 ふたたび湿原はてなマークはてなマークに出会います。

 

 手つかずの自然、とよく言いますがそれは野放しということではなく、このような登山ルートや木道の整備、トイレの確保、マイカー規制、安全管理など、大自然との共存を目指し、多くの人びとの手によってきちんと管理されているからこそ享受できるものなのだということを、歩きながらひしひしと実感します。

 

 年間約120万人もの人びとが訪れるという山岳リゾート上高地が、こうして今なお存在していることも有り難いし、これから先も少しずつ姿を変えながら存続してほしいと願わずにはいられません。

 

 誰もいない木道をふたりで占領しながら歩いてゆくと急に視界が開け、

 

 足元の広いウッドデッキから前方の六百山(ろっぴゃくさん)を見渡せるここが、散策マップによると“岳沢(だけさわ)湿原”のようです。田代湿原の混雑に比べると格段に静かで、立ち枯れの木々の風情もほどよくて、わたしはとても好きなビューポイントですラブラブ

 

 岳沢湿原を過ぎて林間の道に戻り、

 

 しばらく行くとようやく

 

 梓川と穂高連峰、

 

 そして対岸に今宵の宿、五千尺ホテル上高地が見えてきます。

 

 明神池を出て1時間10分、河童橋まで戻ってきました~。

 

 午後5時を回った河童橋周辺は、「上高地銀座」とも称される日中の賑わいから解放されて、本来のゆったり長閑(のどか)な時間が流れています。 

 

 朝5時30分に家を出て、午前10時30分から歩きはじめて延べ6時間半、老夫婦ふたりで何とか歩くことができました。がんばった記念に一枚だけ音譜

 

 穂高連峰にも重い雲が垂れ込めてきました。出会ったお猿さんたちも皆ねぐらに帰ったころかな・・・。

 

 わたしたちもやっとお部屋で登山靴を脱ぐことができそうです。ただいま~と入っていくと、ホテルのお若く礼儀正しいスタッフの皆さんが一斉に迎えてくださいました。

 

音譜音譜音譜 yantaro 音譜音譜音譜