漢陽都城(ハニャントソン)の東の小門、惠化門(ヘファムン)まではすべて、キム・ナムギルさんが主宰しておられる文化芸術NGO団体Gilstory(ギルストーリー)の漢陽都城のキャンペーンの中で、ナムギルさんが話してくださるオーディオガイドや連載などのどこかに出てくる場所だったのですが、帰国の日の最後に訪ねた雲峴宮(ウニョングン)と曹渓寺(チョゲサ)はそこには登場していないので、別途番外編としてご紹介させていただきます。

 

 韓国の伝統文化が薫る街、仁寺洞(インサドン)にもほど近いここ“雲峴宮(ウニョングン)”は、朝鮮王朝第26代国王の高宗(コジョン)の父である興宣大院君(フンソンテウォングン)の私邸で、高宗が生まれてから即位する12歳までを過ごしたところでもあるそうです。

 

 最寄り駅は地下鉄3号線安国(アングㇰ)駅の4番出口。惠化門(ヘファムン)近くの4号線漢城大入口(ハンソンデイプㇰ)駅からは、調べるとバスより地下鉄の方が所要時間が短かったので、忠武路(チュンムロ)駅で3号線に乗り換えて来ました。4番出口から地上に出るとすぐ目の前が雲峴宮(ウニョングン)です。

 

 雲峴宮の정문(チョンムン=正門)。個人の私邸なのに“宮”とつく訳は、第25代国王哲宗(チョルジョン)が世継ぎのないまま崩御し、さまざまな経緯を経て高宗(コジョン)が王となったことでその父興宣君(フンソングン)にも大院君(テウォングン)の称号が与えられ、それにともない邸も王宮のひとつに格上げされて、雲峴宮と呼ばれるようになったそうです。

 

 正門を入るとひろびろとした前庭。

 

 右手に小さな“観覧案内所”がありますが無人で、奥に職員らしきひとが見えたので尋ねると、見学料は無料とのことでした。

 

 日本語のパンフレットは品切れだそうなのでハングル版をいただき、上の配置図を参考に反時計回りに歩いてみようと思います。

 

 先ほどの職員さんがいらした横長の建物が“수직사(スジㇰサ=守直舎)”で、雲峴宮の警備や管理を担当する人たちが暮らしていたところだそうです。漢字からすると詰め所兼宿直室みたいなものでしょうか。その一部が今は事務室になっています。

 

 内部には当時使われていた品々が展示されています。

 

 興宣大院君(フンソンテウォングン)がもっとも権勢をふるっていたときには、この雲峴宮(ウニョングン)の敷地はなんと2万坪もあり、正門のほかに大門が3つもあったというのですから、まさに王宮にもひけをとらない規模だったことでしょう。そうすると警備には当然多くの人員がいるし、高宗(コジョン)が即位してからはさらに宮廷からの官吏も派遣されてきたそうなので、この守直舎(スジクサ)では手狭だったかもしれませんね。

 

 守直舎(スジクサ)の全景。柱聯(ちゅうれん=柱に掛けられた書の板)がいいアクセントになっていますね。

 

 守直舎を過ぎ、

 

 その奥の솟을대문(ソスルデムン=回廊屋根より高くつくった門)から邸内に入ります。

 

 ここから見る景色がとてもいいですねラブラブ

 

 最初の建物は“노안당(ノアンダン=老安堂)”です。

 

 風格漂う老安堂は、パンフレットによると雲峴宮(ウニョングン)の사랑채(サランチェ=客間を兼ねた主人の書斎)として、客人を接待したり政治的な議論を戦わせたりする場だったそうで、興宣大院君(フンソンテウォングン)の執務室のような役割もあったかと思われます。

 

 ふたつ前の水標橋(スピョギョ)の記事でも少し触れましたが、ここ雲峴宮(ウニョングン)を訪ねたかったのは、われらがキム・ナムギルさんが映画『도리화가(桃李花歌・邦題:花香る歌)』で興宣大院君役を演じられたというご縁が大きくて、この部屋を見ると、映画の中で大院君役のナムギルさんが蘭の花を描いておられたシーンを思い出します。

 

 

 “老安堂(ノアンダン)”という名前は、論語の一節『子曰(しのたまわく) 之(ろうしゃはこれをやすんじ) 朋友信之(ほうゆうはこれをしんじ) 少者懐之(しょうしゃはこれをなつけん)』からとられたものだそうです。

 

 “老人の心を安らかにする”というその意味は興宣大院君の望みでもあったのか、高宗(コジョン)を国王にするという大役を果たして得た心の安定だったのか・・・。大院君が78歳の生涯を閉じたのもこの老安堂の奥の一室だったと聞くと、より意義深い名のように感じます。

 

 ソスルデムンからつづく“노안당 서행각(ノアンダン ソヘンガㇰ=老安堂西行閣)”は、訪れたひとたちのちょうどよい休憩スペースのようです音譜

 

 老安堂を反対側から。

 

 右が老安堂、左が次の“노락당 남행각(ノラㇰダン ナメンガㇰ=老楽堂南行閣)の後ろ側になります。真ん中の塔屋のようなものが韓国式床暖房“온돌(オンドル)”の煙突で、その向こうが薪の焚き口だと思われます。

 

 間にある長屋門のようなところを抜けると、

 

 “노락당(ノラㇰダン=老楽堂)”です。右手が老楽堂をぐるりと囲む南行閣(ナメンガㇰ)。

 

 左手が老楽堂の主屋です。

 

 老楽堂(ノラㇰダン)は雲峴宮(ウニョングン)の中核を成し、老安堂(ノアンダン)よりさらにひとまわり大きい建物です。老安堂を客間とすると老楽堂は家族の住まいであり、また当時は一族の還暦祝いや祭事の宴会など、大きな行事を行うときにも使われたそうです。

 

 高宗(コジョン)と明成(ミョンソン)皇后との婚礼(嘉礼・カレ)が盛大に執り行われたのもこの老楽堂(ノラㇰダン)だったそうです。

 

 口の字型にずらりと居室が配置されています。

 

 それぞれの場所に展示されている品々からは、当時のひとたちの暮らしを垣間見ることができます。

 

 建物そのものも調度品の数々もとても保存状態がよく、もちろん修復の手は入っていると思いますが、今でもふつうに生活することができそうです。

 

 興宣大院君(フンソンテウォングン)は第25代国王哲宗(チョルジョン)亡き後、直系の世継ぎがいなかったのをよいことに、第24代国王憲宗(ホンジョン)の母神貞大妃(シンチョンテビ)と結んで、王孫の一人でしかなかった我が子イ・フィを神貞大妃の養子に差し出した上で王座につかせようと画策します。

 

 いわゆるロビー活動に神経をすり減らすわけですが、先の映画『도리화가(桃李花歌・邦題:花香る歌)』の中でもナムギルさん演じる興宣君(フンソングン)が、そういう自身のはかりごとを絶対に周囲に悟られぬよう、わざとみすぼらしい身なりをして市井の酒房でパンソリ塾の師匠シン・ジェヒョと酒を酌み交わし、語り合うシーンが出てきます。

 

 息子が王位に就くまでは、決して自身が目立つことのないよう鳴りをひそめ、裏では我が子を王にしようとやっきになって奔走する姿は涙ぐましくもあり、そこまでしてでも手に入れたいものが摂政という地位、そして権力なのかと愕然としながら見た覚えがあります。

 

 一度門を出て、

 

 老楽堂(ノラㇰダン)の主屋と、もう片方の北行閣(プッケンガㇰ)に囲まれたところに入ります。

 

 こちらの門は少し略式なので、家族用の通路かもしれません。

 

 老楽堂(ノラㇰダン)。

 

 そして老楽堂の北行閣(プッケンガㇰ)。

 

 裏手にも出られます。

 

 老楽堂の先は、同じく家族の住居部分の“이로당(イロダン=二老堂)”です。

 

 左の建物が“二老堂”で、ここは男子禁制の女性だけの場所なので、特に外部の男性が進入することのないよう、建物は中庭を囲むロの字型になっているそうです。また雲峴宮(ウニョングン)の中でこの二老堂だけ建物の基壇が二段ではなく三段になっているのですが、それはここは王の父の住まいなので、王の住まいの昌慶宮(チャンドックン)の二段よりもう一段高くしたのだそうです。そんなところにも権力へのこだわりが見えますね。

 

 ここは右の老楽堂(ノラㇰダン)北行閣(プッケンガㇰ)と二老堂(イロダン)に囲まれたところで、老楽堂と二老堂は、正面の이로당 동행각(イロダン トンヘンガㇰ=二老堂東行閣)という渡り廊下でつながれているのを見ることができます。

 

 二老堂の主は興宣大院君(フンソンテウォングン)の夫人の驪興府大夫人(ヨフン プデプイン)閔(ミン)氏で、日常の家事はここでされていたそうです。また明成(ミョンソン)皇后が宮中に上がる前に、宮中作法を学ばれたのもこの二老堂だったそうです。

 

 二老堂東行閣(イロダン トンヘンガㇰ)の下をくぐり、

 

 裏手に回ります。

 

 正方形の二老堂(イロダン)。

 

 現在の雲峴宮(ウニョングン)の敷地は興宣大院君最盛期の頃に比べると10分の1の約2,100坪だそうですが、それでもじゅうぶんに広いです。

 

 当時の雲峴宮(ウニョングン)には四つの大門があり、そのうちの敬勤門(キョングンムン)は高宗(コジョン)専用、恭勤門(コングンムン)は興宣大院君専用で、それぞれ王宮への出入りの際に使われていたそうです。改めて地図を見ると、雲峴宮は景福宮(キョンボックン)と昌徳宮(チャンドックン)のちょうど中間というベストポジションに位置していることがわかります。

 

 二老堂の外周をぐるりと回ってまた戻ってきました。

 

 老楽堂(ノラㇰダン)南行閣(ナメンガㇰ)から続いて老楽堂と二老堂をぐるりと囲む塀の門から外へ出ます。

 

 門を出ると右手に“유물전시관(ユムㇽチョンシグァン=遺物展示館)”があり、

 

 興宣大院君(フンソンテウォングン)李是應(イ・ハウン)と雲峴宮(ウニョングン)に関する各種資料が展示されています。

 

 

 

 

 

 

 周辺の仁寺洞(インサドン)、景福宮(キョンボックン)、昌徳宮(チャンドックン)などは観光客であふれ返っていても、現在の雲峴宮(ウニョングン)はソウルの真ん中にあるにもかかわらずとても静かで、建物の縁側に腰かけて読書をする人、散策するひと、友と語り合う人びとなど、観光地というよりも地元のひとたちの憩いの場のような感じです。

 

 以前の記事にも書きましたが、わたしは映画『도리화가(桃李花歌・邦題:花香る歌)』のラストシーンの年老いた興宣大院君を演じるナムギルさんがとても好きで忘れられなくて、大院君が最期のときを迎えられたという老安堂(ノアンダン)にもう一度黙祷を捧げて、雲峴宮を後にしました。

 

 帰国便の時間を気にしながらですが、雲峴宮(ウニョングン)から歩いて行けるので、以前より一度詣でたいと思っていた曹渓寺(チョゲサ)まで足を伸ばします。

 

 日本でいう山門がここかと思うのですが、まぁ無数のカラフルな提灯と、山門前には清渓川(チョンゲチョン)のランタンフェスタの飾りのようなものまであって、静かなお寺さんを想像して来たわたしは入口からまずびっくりです目ビックリマーク

 

 おそらく山門には寺号を入れた扁額などが掲げられているはずですが、提灯で何も見えませんあせる

 

 何の像でしょうはてなマーク。帰国後夫に聞くと、足下に天邪鬼を踏んでいるようにも見えるので、四天王ではないかはてなマーク・・・というのですが、やはりわかりませんあせる

 

 同じく帰国後調べたところ、この無数の提灯は毎年5月頃、旧暦4月8日の석가탄생일(釈迦誕生日)を祝うお祭り“영등축제(ヨンドゥンチュㇰチェ=燃灯祝祭)”で飾られるもののようです。山門の天井の四角いものもすべて提灯ビックリマーク

 

 ここも提灯に囲まれてよく見えませんが、かわいらしい仏像の後ろにあるのは樹齢500年を超えるという珍しい白松のようです。

 

 本堂にあたる“大雄殿”。

 

 ひとまずお線香を上げるところを探します。

 

 大雄殿ではちょうど夕刻のお勤めがはじまっていて、内でも外でも多くのひとたちが祈りを捧げておられます。

 

 日本の十三重塔みたいなものかな。

 

 以前江華島(カンファド)の伝燈寺(チョンドゥンサ)へ行ったとき、白い提灯はいわゆる新盆を迎えるひとたちのものと聞いた覚えがあります。

 

 曹渓寺(チョゲサ)は韓国仏教の中の最大宗派である大韓仏教曹渓宗(チョゲジョン)の総本山で1395年に創建され、1910年までは覚皇寺(カㇰクァンサ)、その後日本の統治時代には太古寺(テゴサ)と呼ばれたこともあったそうですが、1954年の“仏教浄化運動”により改称され、現在の“曹渓寺”になったそうです。

 

 参拝を終えて中を見ると、とても大きく金色に輝く釈迦牟尼仏が三体安置されています。

 

 日本でいう御朱印のようなものが韓国にもあるのか聞いてみたかったし、境内巡りもしたかったのですが、たった一日の中に予定を詰めすぎて時間切れとなり、ほんとうに参拝のみで失礼することになりました。

 

 曹渓寺(チョゲサ)を出て大急ぎでソウル駅行きのバスに乗り、ひとつ手前の南の大門、崇禮門(スンネムン)で下りて、最後はやはりナムギルさんの『漢陽都城オーディオガイド3・南山(ナムサン)区間』のラストに出てくる“南池址(ナムヂト)”へ行き、楽しく幸せだったソウル旅の感謝をお伝えしますラブラブ

 

 ナムギルさんのファンコンサートがもちろん一番なのですが、それと同じくらいナムギルさんの歩かれた跡をたどってソウルの街を巡るのもほんとうに楽しいです。そしてそれはひとりではなく、ともにこの道を歩んでくれる友がいるからこそ照れ合格。くまさん、そして今回のソウル旅はご一緒できませんでしたがNさん、いつもほんとうにありがとうございます。

 

 崇禮門(スンネムン)からソウル駅へ向かっていたら、ドラマ『명불허전(ミョンブルホジョン・邦題:医心伝心~脈あり!恋あり?)』でナムギルさん演じる主人公ホ・イムがタイムスリップしてきたソウル路7017も見えました。

 

 夕方18時40分金浦(キンポ)国際空港発の大韓航空機で帰国の途へ飛行機。ナムギルさんのファンコンサートAGAIN inソウルにつづき、二泊三日のソウル旅におつきあいくださいました皆さま、ほんとうにありがとうございました。こころより御礼を申し上げます。

 

クローバー チューリップ黄 クローバー チューリップ赤 クローバー チューリップ紫 クローバー チューリップピンク クローバー チューリップオレンジ クローバー

 

音譜オマケ~音譜

 

 飛行機に乗って座席前のモニターをあれこれ検索していたら、オモビックリマークナムギルさんもご出演のイ・ジョンジェさん監督デビュー作の映画『HUNT』を発見目!!

 

 かっこいいオーラ全消しでめっちゃ昭和~な男に扮するナムギルさん(笑)。

 

 それでもかっこいいんですけど・・・。

 

 思いがけず行き帰りの便でぜんぶ見てしまいましたが、日本での公開が楽しみです飛び出すハート

 

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