伊豆旅二日目は朝から雲の多い天気ですが、予定どおり大室山(おおむろやま)(静岡県伊東市)へ行くことにします。

 

 おっ目、駐車場に車を停めると目の前に大きな鳥居がビックリマーク。昨日行った小室山にも山頂に神社があったので、これを見ると大室山にもあると予想され、それだけで何だかウキウキします音譜。リフト乗り場の建物の屋根が明神(みょうじん)鳥居の笠木(かさぎ)の反りにあわせてあるように見えますが、気のせいかなはてなマーク

 

 こちらがガイドブックで見た大室山。つるんとしたきれいな円錐形(えんすいけい)の山は一見人工的にも見えますがそうではなくて、今から約4千年前、縄文時代後期の噴火でできた自然の造形なのだそうです。小室山と同じく伊豆半島ジオパークのジオサイトのひとつで、どこから見ても美しいその姿は伊豆高原のシンボルにもなっているそうです。

 

 リフト乗り場に掲示されている写真を見ても、山の形状も山肌もとても美しいですねキラキラ。真ん中にぽっかりと空いた穴は噴火口の跡だそうです。

 

 大室山は山野草の保護と山肌の保全のため登山で入山することができないので、往復ともにリフトを利用します。小室山はシングルリフトでしたが大室山は二人乗りで、料金はおとな往復700円です。

 

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 山頂駅でリフトを下りて、案内板に従って遊歩道のほうに行きます。この展望テラスからも遠くの遊歩道を歩くひとたちの姿が小さく見えています。

 

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 噴火口の上を周回する遊歩道に出る前に、火口の中腹に鎮座する“大室山浅間(せんげん)神社”を参拝します。

 

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 左手の建物はとてもきれいな最新式の多目的トイレで、屋根の上に載っている岩のようなものは、トイレ工事のときに掘り出されたスコリア(火山噴出物)だそうです。浅間神社の社殿へと下りる参道はその脇にあり、赤い鳥居が立っているのですぐにわかります。

 

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 参道の階段を下りながら見ると、すり鉢状の噴火口内部の様子がよくわかります。

 

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 一度下って、少し上ったところに社殿があります。

 

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 噴火口の底はアーチェリー場になっていて、等間隔に置かれた8個の四角い箱のようなものはその的です。リフト山頂駅の売店が受付で、入場料は1時間の利用で中学生以上ひとり500円、道具代は弓と矢5本が1セットで千円だそうです。

 

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 浅間神社の社殿手前の岩陰に小さな祠(ほこら)もありました。きれいに手入れがされていて、大切に祀られているのがわかります。

 

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 “大室山浅間(せんげん)神社”の社殿です。浅間神社は全国各地に数多くあり、そのほとんどが総本社である富士山本宮(ほんぐう)浅間大社と同じ“木花開耶姫命(このはなさくやひめのみこと)”を御祭神としていますが、添えられた由緒書によると、ここ大室山浅間神社の御祭神は磐長姫命(いわながひめのみこと)となっています。

 

 磐長姫命は木花開耶姫命の姉でふたりはとても仲の良い姉妹なのですが、絶世の美女と謳われた木花開耶姫命に比べて磐長姫命は容姿が醜く、姉妹の父親の大山祇命(おおやまつみのみこと)は、木花開耶姫命に一目ぼれして求婚してきた瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に姉も一緒にと条件をつけ、ふたり同時に嫁がせます。

 

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 しかし神代のむかしも今も変わらないのか、瓊瓊杵尊は美しい木花開耶姫命ばかりを愛して磐長姫命を疎んじるようになり、ついには子を宿した磐長姫命を大山祇命のもとへ送り返してしまいます。磐長姫命は大室山の山頂に萱(かや)で産屋をつくらせて、火を放ち炎の中で火の神三柱を出産されたところから、大室山浅間神社は安産と縁結びに御利益があるといわれているそうです。磐長姫命だけを祀る神社は全国的にもとても珍しいのではないかと思います。

 

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 古来より伊豆地方には、磐長姫命を祀る大室山で木花開耶姫命を祀る富士山の美しさを褒めるとよくないことが起きるという言い伝えがあるそうです。今日は曇り空で富士山は望めませんが、失意のうちに出産された磐長姫命の心中を察すると、仲の良い姉妹だったからこそ単なる嫉妬だけではなかったのではないかとも思えて、自身の恋は実らずとも後世のひとびとの縁を結ぼうとしてくださるその思いが切なくて、どうぞ安らかにと今一度こころを込めて手を合わせずにはいられませんでした。

 

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 参道を引き返し、そこから噴火口の外周に設けられた遊歩道に出ると、眼下には相模湾、そして遠く伊豆諸島を望む絶景がひろがりますラブラブ。惜しむらくはこの曇天くもりですが、360度のパノラマは何度見ても胸のすく景色です。

 

 改めて山肌を見ると、大室山は木がほとんど生えていない草の山であることに気づきます。パンフレットによると大室山では今でも毎年山焼きが行われているそうで、そのおかげで雑草や木が成長せずこの美しいシルエットが保たれているのかもしれません。

 

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 そういえばリフト乗り場で何気なく撮った写真に、山焼きは“毎年2月第2日曜日”と写っていました。調べてみると、むかしから大室山に生える茅(かや)は屋根を葺いたり牛馬の餌にするなど人びとの暮らしの一助になっていて、大室山はその茅を育てる“茅場”のひとつとして、良質の茅を得るため毎年茅の根だけを残して、草や木の芽を焼き払う山焼きを行ってきたそうです。茅の需要減に伴い昭和30年代に途絶えますが、その後1980(昭和55)年からは観光行事として復活させ、毎年3万人もの人びとが訪れる名物行事になっているそうです。

 

 ガイドブックによると、直径約300mの噴火口跡を囲むこの遊歩道を周回することを“お鉢(はち)めぐり”と呼ぶそうですが、火口がすり鉢状なのでそういうのかと思っていたら、富士山頂にある八つの峰(八神峰=はっしんぽう)をすべて巡ることを“お八(=鉢)めぐり”と読んでいたことに因むそうです。

 

 しばらく上っていくと八体の“八ヶ岳(やつがたけ)地蔵尊”が海に向かい立っておられます。案内板によると1984(昭和59)年、海上安全、海難防除、大漁祈願のため地元の漁師さんたちによって奉納されたものだそうです。背後の石造りの覆屋のなかには、再建前の古い地蔵尊八体も一緒に安置されています。近代装備を持たないむかしの漁師さんたちは、八丁櫓(はっちょうろ)で威勢よく海に乗り出し、大室山を目印にして漁場を決めていたそうです。

 

 俳人鷹羽狩行(たかはしゅぎょう)という方が当地を訪れたときに詠まれた句、「伊豆は日のしたたるところ花蜜柑(はなみかん)」の句碑もありました。

 

 大室山は標高が580mあるので、やはり昨日の小室山(標高321m)に比べると一段と景色の雄大さが増す気がします。お鉢の反対側のリフト山頂駅も浅間神社も、遥か遠くになりました。

 

 あららあせる、かんじんの標石が写っていませんが、ここが大室山山頂の三等三角点です。

 

 少しだけ雲が切れて一瞬明るくなりました。お鉢めぐり4分の3くらいのところです。

 

 さらに下ると、大室山山頂を背に“五智如来(ごちにょらい)”が鎮座しておられます。五智如来とは、密教でいうところの大日(だいにち)如来が備える五つの智慧(ちえ)を象徴する金剛界(こんごうかい)の五大如来のことですが、案内板によるとこの五智如来は1663(寛文3)年、武州岩村の網元の娘が9歳で身ごもり、その安産を大室山浅間神社に祈願したところ無事に出産したので、そのお礼に奉斎(ほうさい)したものだそうです。

 

 今日はあいにくの曇り空で見えないのですが、おそらくこの五智如来は霊峰富士山の方を向いておられるのではないかと思います。

 

 ゴルフ場の向こうに見えるのは伊東市街でしょうか。

 

 お鉢めぐりは一周約1km、遊歩道を歩くだけなら20~30分、写真を撮り神社を詣で、休憩しながらゆっくり歩いても1時間もあればじゅうぶんでした。春から夏のこの緑の季節もとてもきれいですが、2月の山焼きをぜひ一度、見たいものですおねがい

 

 ここは絶好のフォトスポットのようで、観光客の方々が入れ代わり立ち代わり写真撮影をしておられました。

 

 売店で大室山浅間神社の御朱印がいただけるというので行ってみると、なんと印刷ですがここまで墨書きされた御朱印を買い求め、見本を見ながらじぶんで朱印等を押して完成させるというものでした!!

 

 これまでずいぶんたくさんの御朱印をお受けしてきましたが、朱印をこの手で押すのは生まれてはじめての経験で、感激ひとしおの瞬間でした合格

 

 土のひとかけらも見当たらないこんなところに菫(すみれ)の花がラブラブ

 

 下界は暑くなく寒くなくちょうどよい気温なのですが、このリフトと山頂は吹きさらしのせいか少し肌寒く感じたので、ウィンドブレーカーなど羽織るものが一枚あると便利です。また夏は遊歩道には陽を遮るものが何もないので、帽子もお忘れなく~ニコニコ

 

 つづいて伊豆半島ジオパークつながりで、大室山の噴火により流れ出た溶岩が海岸線で冷え固まり、太平洋の荒波に削られてできた景勝地、“城ヶ崎海岸”(静岡県伊東市)へ行ってみます。大室山から車で約20分の距離です。

 

 市営駐車場に車を停めるとすぐに見えてくるのは城ヶ崎のシンボル、“門脇埼(かどわきざき)灯台”です。ここは以前にも幾度か来ているので、今日は見上げるだけで通過します。

 

 城ヶ崎海岸きっての観光スポット、“門脇吊橋(かどわきつりばし)”。

 

 “半四郎落とし”と呼ばれる海蝕洞(かいしょくどう)と門脇埼の間にかかる全長約48m、高さ約23mの吊橋の上からの眺めはダイナミックそのものビックリマーク

 

 高いところが好きなわたしは吊橋にウキウキ、ワクワク音譜、少し苦手な夫はさっさと渡って海岸線のほうに行きましたとさニヤリ

 

 ゴツゴツした岩場に下りて波打ち際の近くまで行くひとたちがいっぱいいます。

 

 ウッドデッキの脇に“江川太郎左ヱ門の砲台(ほうだい)跡 ここから500m先”という看板を見つけて、行ってみることにしました。

 

 途中、磯釣りをする人たちも見えました。

 

 ここは“ニューヨークランプミュージアム&フラワーガーデン”から“ぼら納屋”という食事処まで、片道約3kmの“城ヶ崎ピクニカルコース”の一部なのですが、門脇吊橋周辺は観光客でいっぱいなのに誰ひとりすれ違うこともなく、一本道でなければ少し不安になるくらいの静けさでした。

 

 ところどころ海岸線の突出したところに名前がついていて、ここには“もずがね”という石碑が立っています。漁師さんたちが名づけたものなのか、ガイドブックを見ると、城ヶ崎ピクニカルコース上には東から西へ向かって“まえかど”“こづり”“おおづり”“ふたまた”など独特の名前がついています。視界の開けたこの“もずがね”では、百舌鳥(もず)ではなく鶯が美しい声を響かせていました。

 

 なかなかのアップダウンに難儀しながら、歩きはじめてすでに15分経過、門脇吊橋から500mとはとても思えないなぁ~と首をかしげていると

 

 ようやく砲台跡にたどり着きました。

 

 江戸時代、黒船の来航により沿岸警備の必要に迫られた徳川幕府が、韮山(にらやま)代官・江川太郎左ヱ門英竜(ひでたつ)に命じて伊豆、相模(さがみ)、下総(しもうさ)、上総(かずさ)、安房(あわ)の五ヶ国に築いた台場のひとつで、ここに残されているのは台座の石垣のみで、大砲はレプリカだそうです。ここから直接海は臨めませんが、高台なので木立の間から海は見えても、黒船からは砲台は見えないという絶好の位置にあるように思います。

 

 ぼら納屋の少し手前の“こづり”まで歩いて引き返します。海風の吹きすさぶ海岸線は、“火サス(火曜サスペンス劇場)”のロケ地にぴったりビックリマークという感じです。

 

 門脇吊橋まで戻ってきました。

 

 断崖絶壁!!

 

 門脇駐車場から望む吊橋もいいですねラブラブ。小室山にはじまって、大室山、城ヶ崎と、伊豆半島ジオパークのほんの一部を歩いただけですが、山あり富士山、海あり波、高原あり霧と、ひと粒で二度も三度も美味しいグリコみたいな伊豆の大自然を存分に満喫できる道行きでした。

 

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