かねてから夫が行きたい、行きたいと言っていた首都圏外郭放水路(埼玉県春日部市)の見学ツアーにようやく参加することができました。首都圏外郭放水路とは、埼玉県を通る国道16号線の地下約50mの場所に、近隣の洪水被害等を軽減するために人工的に造られた世界最大級の排水施設(地下河川)で、その一部である巨大な調圧水槽の様子が古代ギリシアのパルテノン神殿を彷彿とさせるところから、“防災地下神殿”とも呼ばれています。

“防災地下神殿”の名の由来にもなっている幻想的な調圧水槽の内部。地底の神殿そのものですビックリマーク

 

 埼玉県春日部市と千葉県野田市の境を流れる江戸川のほとりに、首都圏外郭放水路管理支所の庄和(しょうわ)排水機場があります。我が家からは圏央道(首都圏中央自動車道)を使って幸手(さって)ICまで約1時間、そこから早苗が風に揺れる一面の田園風景のなかを走って約20分くらいで到着。渋滞もなく、ほどよいドライブの距離です。

 

 この庄和排水機場の建物のなかに“地底探検ミュージアム龍Q館(りゅうきゅうかん)”が併設されていて、首都圏外郭放水路全体に関する資料・模型の展示に加え、見学ツアーの受付・集合場所にもなっています。

 

 見学コースは一番人気の『迫力満点ビックリマーク立坑(たてこう)体験コース』(所要時間約1時間50分・見学料3,000円・定員20名)、調圧水槽から江戸川へ放水するときにつかうポンプ設備がメインの『深部を探るビックリマークポンプ堪能コース』(所要時間約1時間40分・見学料2,500円・定員20名)、調圧水槽と第一立坑の見学を約60分に凝縮した『気軽に参加できるビックリマーク地下神殿コース』(見学料1,000円・定員50名)の3つで、いずれも事前予約が必要です。また見学の性質上小学生未満は不可、中学生以下は保護者の同伴が必要です。上の写真は、龍Q館でもらえる“るるぶ特別編集 首都圏外郭放水路”の冊子よりお借りしました。

 

 龍Q館の1階には施設の全体図がパネルで紹介されています。大雨による増水で近隣の中小河川の水位が上がると、その水は上図の①流入施設→②第2~第5立坑(たてこう)→③トンネル→④第1立坑→⑤調圧水槽→⑥ポンプ設備→⑦排水機場→⑧排水樋管(ひかん)の順に送られて、最終的に江戸川へ放水される仕組みになっています。そしてその横には、ドラマや特撮映画のロケ地になったときの出演者の皆さんのサインや撮影風景なども展示されています。

 

 受付と同意書の提出を済ませて龍Q館の2階に上がると、見学ツアーの案内人である地下神殿コンシェルジュの女性が、地図やパネル資料をつかって施設の概要や、どうしてこの場所に地下水路が造られたのかなどをわかりやすく説明してくださいます。また精巧な小型模型に実際に水を流しながら、増水した河川から水が立坑(たてこう)に流れ込み、調圧水槽に貯められたのち安全に江戸川へ放水される様子を見ることができて、このデモンストレーションのおかげで、より見学の内容がイメージしやすくなります。向かって左側が立坑と調圧水槽、右側が放水時の心臓部となるポンプ設備の模型です。

 

 2階奥には施設全体を監視及び管理している中央操作室があり、ガラス越しになかの様子を見ることができます。通常時はここに1名勤務、施設稼働持には全員出勤で、大小あわせて26個ものモニターとコンピューターを駆使して、24時間体制で水量のコントロール作業にあたるそうです。またこの中央操作室は、映画『仮面ライダービルド』や『ウルトラマンコスモス』の司令室、ドラマ『下町ロケット』のオペレータールームなどにもつかわれているそうですよビックリマーク実際に見ても、まるで撮影のセットのような雰囲気の部屋です。

 

 わたしたちが申し込んだのは一番人気の『立坑体験コース』で、ここからがいよいよ実際の見学コースになります。まず最初の見学ポイントの調圧水槽へは、龍Q館を出て約200mほど歩いて移動します。青空の下、サッカーゴールも置かれたこの見渡す限りの芝生広場、運動場にしてはずいぶん広いなぁ~と思っていたのですが、見学を終えてみて、この下こそが巨大な地下神殿だったことが判明しました。なるほどビックリマークだからこんなに広いんですね~。

 

 その広大な芝生広場の片隅に、調圧水槽への入り口があります。ソーシャルディスタンスを保つため、コンシェルジュの女性の誘導に従って1グループずつ、地底深くに眠る神殿へとつながる階段を下りて行きます。もう、ここからワクワクです~~爆  笑ラブラブ音譜

 

 安全のため、階段等移動中の写真やビデオの撮影は厳禁ですが、それ以外の見学エリアは自由に撮影できて、またその時間もたっぷり確保してくださいます。階段は狭く急で、ところどころ濡れていて滑りやすいので靴はスニーカータイプ、手すりをつかめるよう荷物はリュックサックにして両手を空けておくのがおすすめです。ここが116段の階段を下り切ったところ、すでに空気はひんやりしています。

 

 そして目の前にひろがるこの圧倒的な景色!! 調圧水槽とは、大雨による増水時、中小河川に設けられた流入施設から四つの立坑(第2立坑~第5立坑)に流れ込んだ大量の水が、トンネルをつたって最終的にすべて集まってくる巨大なプールで、長さ177m、幅78m、高さは18mもあります。サイズだけ聞いてもイメージしにくいのですが、ここに溜められる水の量は約67万立方メートル・・・よけいわかりづらいですねあせる・・・池袋のサンシャイン60ビル一杯分くらいの容量だということです。

 

 パンフレットによると、この首都圏外郭放水路のある中川・綾瀬川流域は盆地で水が溜まりやすい地形のため、過去に何度も深刻な洪水に見舞われていたそうですが、上図のように全長6.3kmのところどころに立坑(たてこう)という内径約30m、深さ約70mもの巨大な円形の筒を設置し大量の水を取り込むことで、2006(平成18)年の全面稼働後は浸水被害が激減しているそうです。立坑は全部で5本あり、それぞれの間はトンネルでつながれています。調圧水槽に一番近い第1立坑だけが流入施設を持たず、第2~第5立坑から流れてきた水を調圧水槽へ送り込む役目を担っています。

 

 調圧水槽から見た第1立坑。第1立坑は深さが72.1mあり、ここに見えているのは全体のほんの三分の一くらいなのですが、これ以上は近づけないので、この後の第1立坑見学に期待ビックリマークです。約72mって、スペースシャトル(55m)やディズニーランドのシンデレラ城(51m)がすっぽり収まってもまだ余裕があるくらいの深さだそうです。

 

 調圧水槽内に今は水がありませんが、当然河川の水が流れ込むと排水後には土砂が残るので、この見学エリアの清掃は職員の方々が手作業でしてくださるそうです。ただ調圧水槽内全体の清掃はとても人の手では追いつかないので、年一回ブルドーザーが活躍するそうですが、さて、そのブルドーザーをどうやってこの地底深くに運び込むのでしょうかはてなマーク

 

 その答えは頭上にありました。ライトの横のほんの少し光が差し込んでいるところが開いて、そこからクレーンでブルドーザーを吊るして入れるのだそうです。お掃除だけでも大変ビックリマークさらにそうして集められた土砂はクレーンとともに地上に運ばれて、江戸川の堤防の補修などに再利用されるのだとか。無駄を出さないそのアイディアに脱帽です。

 

 ちなみに柵で囲われたこの場所が、ブルドーザーの地上からの投入口です。

 

 調圧水槽内の巨大な柱の上部には“定常運転水位”の文字が見えますが、このラインより水位が上がらないよう、排水ポンプを操作するときの目印にするのだそうです。逆に水が下の“ポンプ停止水位”のラインを下回ると、排水ポンプが空回りして排水できなくなってしまうので、それ以下の水は江戸川へ放水するのではなく、再び第1立坑からトンネルを通って第3立坑へ送られ、そこから別のポンプをつかって元の河川へと戻されるのだそうです。水は溜めたままだとすぐに悪くなるので、江戸川への放水も元の川への放水も、できる限りスピーディに行えるよう工夫されているのですね。

 

 調圧水槽を地下神殿たらしめているこの巨大なコンクリートの柱一本の重さはなんと500tで、それがぜんぶで59本もあるそうです。柱はただ単にこの空間を支えるためだけではなく、各立坑からトンネルを通ってきた水の勢いを弱め、調圧水槽内で落ち着かせてからスムーズに排水ポンプへ送り出す役割を担っているそうです。それこそが“調圧”の名の所以ですね。さらにこの巨大な地下空間そのものが、周囲の地下水による浮力で浮き上がることのないよう重石の役割を果たすためにも、これだけの大きさと数が必要なのだそうです。なるほど、理屈を聞くとよくわかりますねビックリマーク

 

 近年のゲリラ豪雨の多発や台風の巨大化などにともない、首都圏外郭放水路は通水後すでに100回以上の稼働実績を持ち、年平均にすると約7回、今までで一番放水量の多かったのが2015(平成27)年9月の台風17号・18号直撃のときで、東京ドーム約15杯分の水(約1,900万立方メートル)を安全に処理したそうです。都市化によってアスファルトが増え、むかしのように雨水が自然に土中に浸透しなくなったのも原因のひとつかもしれませんね。ちなみに直近の稼働は今年(2021)の3月13日ドキドキだそうです。

 

 調圧水槽からの帰り道は、あたりまえですが下りたぶん116段を自力で上らねばならず爆  笑、グループごとのソーシャルディスタンスを崩せないので立ち止まることもできず、地上に出てきたときはもう、息も絶え絶えでした~汗足腰、大事です、ほんと。

 

 さて次は、調圧水槽側から一部だけ見た第1立坑のなかに入ります。この入り口を入ったところで全員ヘルメットと安全ベルト(ハーネス)を装着し、ふたたび地下への階段を下りてゆきます。ここでも移動中の写真撮影はできません。

 

 まずこの立坑側面に取り付けられた階段の上から三分の一くらいのところまで、コンシェルジュの女性の誘導に従って1グループずつ下り、立坑全体の大きさを体感します。高所恐怖症の夫はかなりビビッていますが、わたしはわくわく、ぴょんぴょんしたいくらい楽しいです音譜

 

 その位置から立坑の下をのぞいたところです。溜まっている水の深さは1.5~2mくらいで、溜まりっぱなしではなく随時パイプで吸い上げて入れ替わっているので、濁り水のように見えますが、立坑のなかにいてもまったくにおいはありません。たまに藻や魚を取り除く網を潜り抜けた小さなお魚が紛れ込むこともあり、また写真撮影に夢中になった見学者が落としてしまったiPhoneもふたつ、この下に眠っているそうですよ笑い泣き

 

 立坑の一部に大きな口が開いていて、そこがさきほどまでいた調圧水槽につながっています。次の見学コースのひとたちも見えますね目

 

 さて、『立坑体験コース』のハイライトビックリマーク立坑最上部の作業用通路(キャット・ウォーク)を、ハーネスに繋がれてゆっくりと一周します。調圧水槽の入り口まで水が上がるので、そこまでの壁の色が変わっているのが見てとれます。また階段のオレンジ色の色褪せ具合から、最大でそこまで水が来たこともわかります。

 

 立坑の上部には明り取りがあって、そこからの陽の光があたる部分にだけ緑色の苔が生えるのだそうです。ひとつ上の写真の階段の右側がそれですね。

 

 深さ70mの最上部にあるキャット・ウォークからのこの眺め、いつまで見ていても見飽きることがありません音譜。5本の立坑のうち見学できるのはこの第1立坑のみですが、流入量の多い第3立坑と第5立坑では一気に水が落ちて底部を痛めることのないよう、壁面に沿って流れ落ちる渦流式ドロップシャフトが採用されているのだそうです。どこまでも水をコントロールするようにできているのですねビックリマーク

 

 第1立坑を出てヘルメットと安全ベルト(ハーネス)を返却したら、見学コースは終了です。ほんとうに1時間50分もいたかしらはてなマークと思えるほど充実した内容で、治水の大切さや防災について再認識することになりました。そして第1立坑と調圧水槽を見たので、次はその水を江戸川へ放水するための4基の巨大なポンプ設備の詳細もぜひ、知りたくなりますラブラブ。さらに施設稼働時の見学は内容が一部変更になるそうなので、できることなら調圧水槽に水が入っているところも見てみたいなぁと思います。夫につきあうつもりが、わたしのほうが一生懸命になっちゃってます(笑)。

 

 梅雨の晴れ間の暑い日でしたが、龍Q館玄関脇の咲き始めの紫陽花が、とてもきれいでした。

 

https://www.ktr.mlit.go.jp/edogawa/gaikaku/左矢印首都圏外郭放水路ホームページ

 

音譜音譜音譜 yantaro 音譜音譜音譜