赤い服を着て
赤い靴を履き
緑のズボンを履き
緑の帽子をかぶる。
髪を伸ばし始め
帽子の間から少し髪の毛がなびく。
田舎の駅で電車を降り
駅に停めてあった自転車に乗る。
川沿いの道を走り
さびれた映画館の看板を見上げる。
古い邦画の女優が微笑む。
どんな映画なのかは
良く知らない。
映画館の前には
見慣れた人の姿がある。
自転車を停めて
こちらを見ている。
その女性と目が合った。
パン屋でたくさんパンを買った。
クロワッサン、メロンパン、あんドーナツ、塩パン。
家に帰ったら
コーヒーを淹れよう。
その前に
老猫にエサをあげなければ。
老猫は
コーヒーには興味がない。
毎回、パンの匂いを嗅ぎにくるが
パンをくれとは言わない。
交差点を曲がると
古い映画館がある。
もう何年も映画は見ていない。
ふと見上げると
古い邦画の女優が微笑む。
名前は知らない。
遠くから
自転車でこちらに向かう姿が見えた。
その男性と目が合った。
誰かが私を見上げている。
中年女性が無表情の目で見ている。
私を知らなそうだ。
私から目を反らし
川沿いの道から来る男性を見た。
男性は一緒
私を見たけど
すぐに関心がなくなり
眼下の女性に興味を持った。
微笑んであげたのに
失礼な人だ。
これでも
50年前は
知らない人がいないくらい有名だったのに。
二人は知り合いなのか
ずっと見つめ合っている。
しかし
二人とも笑顔ではない。
映画館の横の駐車場に
木製の犬小屋があった。
生まれて12年になる雑種犬は
この様子を眺めていた。
男性が女性に近づき
何やら話しかけると
看板の女優の微笑みが消え
眼下の二人を興味深そうに見つめていた。
やがて女優は
視線に気づき
雑種犬と目が合った。
そのとたん
思い出したように
女優は微笑んだ。
雑種犬は
興味を失い
ごろんと横になり目をつむった。