私が生徒として予備校に生息していた頃から,講師としてデビューして間もない頃までのお話です。

 

 あのころの大きな予備校では,エンターテイナーのような講師の方に出会うことができました。最近は真面目な方が多く,往時のような「ぶっ飛んだ方」はいません。

 

 それが少し淋しい気もします。講義そのものの質は確かに上がっているのですが。

 

 エンターテイメント+教育。これも一つの文化だったような気がします。色々と意見はあると思いますが。

 

 私が教わった先生に関して申し上げるのですが,面白おかしく授業をしていても,実は内容がきちんとしていたものです。

 

 私は自分の日常生活をコントにしてしまうくらい,ザ・ドリフターズの大ファンですが,観客を笑わせる大人気のコミックバンドは,実は真面目に演奏するときちんと聴かせてくれるものです。

 

 私が若い頃は,パフォーマンスをして笑いを取るのを優先していた方がいました。それでも内容のある授業ができない人は淘汰されます。ミニスカートを履いて講義をしていた先生。ミニ◯カだけど内容がス◯だったのか,翌年には出講していなかったり。

 

 内容が伴って初めてパフォーマンスが生きるのです。私も昔はそこのあたりをわかっていませんでした。お寒い話ばかりしていました。

 

 一度,講義中に核爆弾級の雑談をして,女子生徒が荷物をまとめて出ていってしまったことがありました。これ以来,授業中に話すことを気をつけるようにしています。

 

 本気で反省しています。不快をかけたことは申し訳ないです。

 

 それだけのことを言ってしまったのです。男子生徒は大爆笑でした。

 

 どんな内容だったのか,本当にそんなことがあったのかも含め,ノーコメントとさせていただきます。これだけ書いておいて申し訳ありません・・・。

 

 デビュー戦の授業で,まぁまぁ上手くいったと思いきや,母校の卒業生から「難し過ぎてわからないです・・・」と言われてショックでした。

 

 もっとわかりやすく,易しく,面白く講義をしようと,考える日々が始まりました。

 

 そうすると,基本事項の話は人一倍できるのですが,予備校の授業としてはいただけない。

 

 といいますのは,なかなか本題=入試問題の攻略法に入れないからです。

 

 その点での不満の声は聞いていました。しかし,当時は開き直ってしまいました。何も知らないのだから,基本をやっておかないといけないだろう!と。

 

 もがいていた日々から10年以上が経った今になってみれば,まだまだ青かったなぁと思います。あのころは予備校講師という職業をわかっていなかったようです。

 

 ひょっとすると今もまだきちんとわかっていないのかもしれませんが。不確定性原理というものがありまして・・・。自分の言っていることの正しさを証明する手段がない,という数学の原理です。

 

 いまは実際の入試問題を使って基本の説明をするようにしています。シンプルなモデルを使って,もなるべく使って,数式や化学式だけで終わらせない説明をしています。

 

 問題を解きながら,学んでいる内容がわかるように心がけています。

 

 難しい問題でも,きちんと問題を読んで手がかりを拾う訓練ができるように。

 

 見たことのない問題に触れて,視野を広げることができるように。

 

 実際の入試問題・定期テストの問題に出会った時にどうすればいいか。そこまで余計なことを話して引っ張ることなしに,できるだけダイレクトに入試問題などにつながるお話をしています。

 

 せっかく授業を受けてもらうので,化学にしろ数学にしろ,物理にしろ,何かを手に入れたという気持ちを持って帰ってもらいたいのです。しかもそれはまやかしではない,確かな実感であってほしいと思います。

 

 習い始め,導入で使う問題は,本質以外のところではややこしい部分がないものでなければなりません。ごちゃごちゃ色々な要素が入っていると,色々なことを説明できますが,どうしても一番話したい本質がボケてしまいます。

 

 普段から入試問題をしっかり見ておかないと,なかなかいい仕事はできません。本当にいい問題を見分けられる能力を身につけないと。

 

 問題が解けるかどうかももちろん大事なのですが,それよりもむしろいい問題を見つけられる能力,どういう問題がいい問題なのかを説明できる能力が大事です。

 

 生徒の現状によって,何がいい問題なのかの基準も変わります。

 

 習い初めの子にいい問題。

 

 ある程度勉強が進んできて,慣れてきた頃にぶつけるのにいい問題。

 

 入試問題で困らないように訓練する時にいい問題。

 

 ケースバイケースで適切な課題を見つけられる講師は,これから強いと思います。課題を設定する能力が,問題が解けるかどうかよりも大事だと思います。

 

 心して,日々研鑽していこうと思います。明日の自分は今日よりもよくありますように。

 

 いつも読んでくださり,本当にありがとうございます。

 

 ご意見・ご感想などいただけると幸いです。

 

ONゼミナール代表 大手予備校化学科講師 長田 俊将