言葉の魔術師まもるの作品展。 -3ページ目

言葉の魔術師まもるの作品展。

ネット小説や詩画、作詞集など。

感性の世界で生きているからこそ観えてくる世界がある。

言葉の魔術師 ー 神尾 守 ー

  2010年の12月15日午前2時頃、私は交通事故に巻き込まれて死んだ。冷たくなった私の体を白衣を着た医師や看護婦が取り囲んでいる。その傍らですすり泣く1人の女性がいた、彼女の左側にはスーツ姿の若い男性が居てまるで彼女をそっと見守るかのような佇まいで肩をぎゅっと抱きしめている。御臨終です、そんな無機質で冷たい言葉が彼女の心を抉るように傷つけた。
  ついに彼女は大声をあげて泣きだしてしまった。そう、彼女は私の婚約者だったのだ。彼女の住む家を出てから数時間後の出来事、私の身に不幸が起きたのだ。

『明日はどうしても外せない仕事があるから今夜はもう帰るよ』
『もう夜も遅いから無理しないで。せっかく両親に挨拶に来てくれたのに…今晩は泊まってったらどう?』と奈々子は私を引き止めようとした。私は、
『泊まって帰りたいけど、明日は早いんだ。せっかくだけど今日はもう帰らせて欲しいんだ、仕事の準備もあるし…』
奈々子は寂しげな顔を下に向けて、
『しょうがないわね。でも式まで後、一週間。体には充分気をつけて下さいね』と気丈に振る舞っていた。奈々子は、とても寂しがり屋で気の小さく優しい人だった。少し普通の人より体も弱い為、誰よりも繊細で感受性も豊かな方でもあった。彼女が私を引き止めたのはもしかしたら私の身に起きる不幸を予知していたからなのかもしれない。
『愛してるよ、大丈夫』と私は掛けていたコートを羽織りながら囁いて彼女の家を後にした。まさかの偶然か、はたまた神様の悪戯だろうか私の体は今、目の前で、物言わぬ冷たい人形と化してしまっている。もし戻れるなら奈々子の言う通りに泊まって帰るべきだったと後悔している。


つづく