言葉の魔術師まもるの作品展。 -2ページ目

言葉の魔術師まもるの作品展。

ネット小説や詩画、作詞集など。

感性の世界で生きているからこそ観えてくる世界がある。

言葉の魔術師 ー 神尾 守 ー

 地下鉄の階段を昇りきると小雨が降る中を傘もささずに由美は私の帰りを待っていた。微かに春の匂いがこの町にもやってきたようだ、春時雨が肌に染みて妙に心地よい。
『傘を差す程じゃないなね、妙に気持ちが良い雨というか。天気予報、雨だったっけ?』と私は由美に尋ねた。由美は、 『いいえ、今日は一日中快晴だと天気予報は言ってましたよ。ちょうど今しがた降り出した雨ですのに』 由美の顔が少し曇る、本当にタイミングの悪い雨だ、傘を持ち合わせていないからどうしようもない。 相合い傘といきたい処だが今日はお預けという事にしておこう。私は由美の肩をギュッと抱き寄せて耳元でそっと囁いた。『家まで一緒に走って帰るか』 そのまま二人は風のように一目散に家まで駆けていった。二人の心臓がすぐ傍で高鳴っているのを互いに感じながら、息を切らして。しばらく走った先に長い石段がある、そこを昇った先に二人の住むアパートさくら荘 がある。



つづく