中央の岩の前に聖母マリアが座り、幼児キリストを抱いている。
そこに東方からベツレヘムの星に従ってやって来た3人の賢者が、祈りを捧げるという新約聖書の一場面を描いた作品だ。
前景右手で跪いて誕生して間もないキリストに没薬を捧げる賢者(カスパール:没薬-将来の受難である死の象徴、老人の姿)、前景左で跪きながら手に黄金を持ちキリストを見上げている賢者(メルキオール:黄金-王権の象徴、青年の姿)、そしてその奥では乳香を捧げ終えて深々と頭を下げる賢者(バルタザール:乳香-神性の象徴、壮年の姿)が聖母マリアとキリストを囲んでいる。
マリアの左側奥にいる老人は、賢者から献上された乳香の蓋を持つ養父ヨセフである。

東方三博士(マギ)の礼拝 1481~82年
フィレンツェ、ウフィッツィ美術館所蔵
キリストに没薬(受難の象徴)を捧げ、祝福を受けている賢者カスパール(右下)。
3人の賢者とは古代の天文学者(占星術?)である。

木の根元で天を指差しているのはヨハネで「私の後から来る者が救世主である」ことを示唆している。
右下の若者はレオナルドの自画像と言われている。

絵画の背景には、自身の存在を脅かす救世主の誕生を恐れたユダヤ王のヘデロが、同時期に誕生した幼児を殺していった様子が描かれている。
後のアンギアーリの戦いや、スフォルツァ騎馬像を彷彿とさせるダイナミックな動きの馬がいたるところにいる。

同じくウィッツィ美術館所蔵の緻密な「遠近法習作」では、背景となっている建築物には屋根があって廃墟にはなっていない。階段の手前にはラクダがいたりと、構想の変化が見られる。

この絵画はサン・ドナート・ア・スコペート修道院から祭壇画にするために1481年に委嘱されたものだが、その1年後には未完成のままレオナルドはミラノに旅立ってしまう。
そもそもレオナルドの父セル・ピエロがこの修道院の運営管理をしていたことが委嘱のきっかけであり、縁故による仕事が嫌になったことが原因とも言われているが、修道院との支払契約のトラブルで、当時の高価な顔料を買う資金が底を着いたという説が有力だそうだ。