第四章 古代の合金 | レオナルド・ダ・ヴィンチのノート

レオナルド・ダ・ヴィンチのノート

万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチの活躍を紹介していきます。

「しばらく見かけなかったが、いったいどこに行っていたんだ?」レオナルドは久しぶりに会ったゾロアストロに声をかけた。レオナルドは1491年1月に行われたイル・モーロとベアトリーチェ・デステの結婚を祝うための騎馬試合の演出でてんてこ舞いだったので、例の研究は保留になっていた。「いやー、すっかり冬になっちまったな。仕事で出掛けたついでにローマに寄って例の調べ物をしていたら面白くなってさ、すっかり時間が経ってしまったよ。喜べ、レオナルド。遂に見つけたぞ!」そう言うなりゾロアストロは抱きついてきた。
「古代ローマ時代の文献でプリニウス博物誌 というのがある。あのグーテンベルグがアリストテレスを差し置いて聖書の次に出版したという全部で37巻もあるやつだ。」「ああ、もちろん知ってるさ。機会があればぜひとも手に入れたいと思ってる本だ。」レオナルドは目を細めて答えた。ゾロアストロは続けた。「第34巻にヘラクレスの石(磁石)やら金属についていろいろと書いてあるんだが、そこに古代の特殊な合金を作る方法が書かれている。もともとはエジプトで作られたものらしいんだが、ダイヤモンド並みの固さを持ちながら弾性にも優れている。念のためさらにいろいろ調べてきたけど、これはいわゆる怪しげな錬金術とは違ってまともな方法だよ。早速実験にかかってみよう。」「それは素晴らしい!」今度はレオナルドがゾロアストロを抱きしめた。


ゾロアストロの鍛冶場はまるで錬金術師の部屋のように、ガラスの管やフラスコ等が所狭しと並んでいる。鉄や火を使って科学と魔術との境界ギリギリの仕事をする部屋には、鼻を突く硫黄のにおいが立ち込めている。古代の合金の元となる金属類は、既に炉の中で溶けて金色に輝く液体となっており、今にも焔を吹き出しながら鋳型の中に流し込まれるのを待ち構えている。「さてと、お楽しみ。」と言うとゾロアストロは注意深く液体を流し込んだ。


「ところでさ、この合金の強度はどうやって測る?それからこのパーツが固まったら、次は歯車の形に削るんだけど、多分固くて鉄の工具じゃ削れないよ。どうしよう?」「。。。。」レオナルドは引きつった表情のまま答えなかった。

強度は実践で確かめるしかないとして、パーツについては極力削る必要のないように、夜を徹して鋳型の設計を全てやりなおした。翌日完成したパーツを磨き上げ、さらにその翌日、エネルギアの試作機と水車に取り付けるためのギア装置が完成、いよいよテストチャージに取り掛かった。


続く…