華道・生け花は「引き算の美学」であると言われています。
若い頃、日舞のお師匠さんから、よく生け花の展覧会のチケットを頂戴しました。日舞をお稽古するなら、踊りだけでなく、他の芸術にも目を向けることを勧められたからです。
どの花展でもそうでしたが、それはそれは様々な色とりどりの作品が展覧されていました。がしかし、こうした華やいだ雰囲気の中にも究極の美は「引き算」にあるのだということを学びました。
これは日本の文化の特徴とも言える思想で、西洋はもとより他のアジア諸にもないように見受けます。
僕が住む台湾もご多分に漏れず、「足し算の美学」的な発想の社会であり、卑近な例では、コンビニの陳列棚に並ぶおにぎり一つとっても、日本で販売されているような「梅干しおにぎり」とか「塩昆布のおにぎり」とかいったシンプルな具材のモノはどの店にも見当たらず、多種類の具をごてごてと入れたおにぎりが主流となっています。
サンドイッチも同様にこれでもかという具合に様々な具が挟まっています。また、かき氷などでも色々なトッピングが用意されていて、「シンプル」なモノは例外的存在となっています。
さて、台湾の話はこれくらいにして、僕がいつも叩いている「ドラム」に目を向けてみると、手数が多く、各種テクニックを駆使した演奏もそれなりに華やかでよろしいのですが、そこに「引き算の美学」によってシンプルに削ぎ落された演奏で観客を魅了するドラミングもまた素晴らしいと感じます。
だいぶ昔になりますが、和太鼓集団「鼓童」の前身で「鬼太鼓座」の台湾公演を見に行ったことがありますが、大太鼓一つだけ、そして衣装も六尺褌一丁という究極のシンプルな出で立ちで、あれだけ観客を魅了できるところにも何かヒントが隠されているようにも思えました。