何の気なしに訪れた達屋酢蔵神社で、狙い澄ましたようなタイミングで声を掛けてきた男性。果たしてその目的は──
前回の続きです。
にこやかに近づいて来る還暦を過ぎたくらいの男性。周りには僕しかいません。
ひょっとして僕、ロックオンですか?
その笑顔が怖い。
あれ? もしかして怒られるの? 看板にバイクを立てかけてるのを咎められるパターン?
僕が笑顔で身構えていると、君、観光? 地図いるかい? と抱えている茶封筒の中から、茅野周辺の観光マップを出してくれたのです。
よかった。ほっとしたよね。
あれじゃない? 滅多に観光客が来なさそう(失礼!)な小社にまで来てる奴がいるからお世話したくなっちゃう超親切おじさんじゃない?
しかし、どこから来たの? というおじさんの一声で、僕に緊張が走りました。
おっと、コロナの話でしたか。これ、もしかして揉めるの? 説教されるの? こっちはマスクしてるけど、東京から来たって言ったら、ひと悶着待ったなしなの? と逡巡するも、ここまできて嘘をついても仕方ない。
正直に言いました。早口で。
へえ、東京から! そっちは暖かいよねえ。実は昨日都内に居てね──とおじさんうれしそうに語り始めました。
どうやら娘さんに会いに行っていた模様で、へえ、そうなんですかと、内心胸を撫で下ろしました。
調子に乗って、今日は韮崎の一本桜と神代桜の写真を撮りつつ、こっちまで走ってきたんですよと話すと、これでかい? とおじさんは僕のロードバイクを目を丸くして眺めています。
そして出し抜けに、君、御札いるかい? と言ってきたのです。
僕は僕で、どんな御札かも確認せずに、頂きますと即答しました。
一枚でいい? たくさんあるよとおじさんは言いますが、一枚で十分過ぎます。
これから残りの御札を氏子に配りに行くというおじさんを見送りながら、御札という形でこんなに早く返ってくるとは想定外とは思いましたが、それでも違和感は微塵も感じませんでした。
それはおじさんが気さくだったから?
一理あります。
神社の雰囲気が良かったから?
それもあります。
というか、神社の雰囲気どころか、神社に接する道の形がまたよいのです。
聞くところによると、風水では曲がりくねった小道や淀みのない小川には龍が泳いでいるそうです。
正に目の前の上社へと続く道は、両端に水路を従えて、龍の泳ぐが如く曲がりくねってきて、達屋酢蔵神社に当たって向きを変え、上社方面へと伸びていきます。流れてきた気が、神社の湧水とぶつかり散じて、新たな気を生む吉相なのでは──
だからこそ、かつて酢蔵社が伍龍姫宮と呼ばれていたのでしょう。龍が通うこの地形に由縁がありそうですね。
さて、氏子でもない僕が、手持ち無沙汰のタイミングで、諏訪大社の末社の内でも筆頭とも言える神社の吉地で、諏訪大社の御札を授かったという出来事は、これだけ見ても偶然とは言い難い様相ですが、実はまだあるのです。
降って湧いてきたような御札の出現を即座に受け入れることが出来た一番の理由は、当日の早朝に遡ります。
まだ続きますが、お付き合い頂ければ幸いです。
次回、最終回!
