☆先日10年振りに、我が子の遺した品々を再度点検していた時、大きなビニール製の買い物袋の中に、

 よれよれになった二つ折りのA4サイズの白い紙が見つかりました。それを開いて見ると、何か詩のよ

 うな文章が記してありました。詩題は「走り出したら止まることも」。

 

  本日は、この詩を掲載します。

 

 

    「走り出したら止まることも」   伊達風人   作成日未定

 

 

仕事帰りに波立つ海は

白い錠剤を私の足元に投げる

そのとき

私の右足はアクセルを踏んで

カーブを立ち上がろうとしていた

雪みたいに張り付いて取れない

随分前の錠剤なんだろう

バラックのすき間から風が吹く

町医者の細い指先から

処方された

駐車場なんて気の利いたものはなくって

草原に自転車を止め

土足のまま

受付の窓口を覗く

波ばかりが押し寄せてくる小さな部屋には

窓はなかった

ひとつきりの

窓口に放りこんだ

呼気

白い波間に揺られてドアを出ていく

 

 「また

 

 「ひとつ

 

 「見送って

 

草原の木ぎれは

あてのない旅に出てしまった

海がいまも続いている

アクセルに右足を固定して

溺れないよう

掻き分けた

肉屋の駐車場に車を止めたら

走って揚げ物を買いに行く

に波

しぶき

蹴散らし

 

走れ

 

走れ

はしれ

 

 

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 (以上)

 

 

 

 

☆本日は、伊達が遺した詩の中から「グラジオラスの咲く丘」を再掲します。

 

 

             「グラジオラスの咲く丘      伊達風人

 

 

           命果てるときに

           滅びるのはこの私だろうか

           それとも世界の方なのだろうか

 

           ついついと啼くヒンズイの

           羽に群がる斑点のように

           白と黒とに心は揺れ動いて

           残された問いを彷徨いながら

           君は苦痛にさいなまれている

 

           少しだけ人を拒んで静けさに浸れば

           音も無いこの世界にも歌が・・・・・・

           竪琴の代わりに石が天然の旋律を奏で

           調べの代わりに風が懐かしい歌をうたう

 

           君は気付いてくれただろうか

           今日も陽を浴びた丘の上には 

           グラジオラスの花が咲いていて

           風にまかせてもいいんだよと

           命の言葉で語りかけている

 

           ゆらゆらと風に揺れながらも

           その花は ひとすじの愛があるから

           確かに いつも天空を指している

 

 

            ☆「めろめろ」 94号、 2004年8月掲載

 

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私の定期購読本に「世界」という月刊誌がある。12月初めに刊行された「2021年1月号」(NO940号)の編集後記によると、この雑誌は1946年(昭和21年)の1月号からスタートしている。終戦の年の12月にスタートしたこの雑誌に、あの谷川俊太郎氏が「詩」を寄せたものである。とても貴重な詩であると思ったので、本日は勝手ながらこの詩を転載させていただく事にする。

 

            「少年と世界」   谷川俊太郎

 

    少年は世間より先に

    世界に目覚めた

    今日より先に

    永遠を知ったつもりでいた

 

    自作の短波ラジオから

    海を越えて遥かな声が聞こえ

    机の上の地球儀の世界は

    プラネタリウムの宇宙に直結していた

 

    見知らぬ地平に憧れと畏れを抱き

    目をつむって音楽に溺れ

    言葉の網の目にからまれながら

    無意味の深みに生きて

 

    落語に笑いながら泣きながら

    少年はリンネを無視して

    名もない野の花々の種子を

    言葉の土壌に蒔き続ける

 

    生の賑やかな混沌のうちに

    終末の静けさがひそんでいる

    いつか老いて神を名付けるのを拒み

    彼は落ち葉の寝床に安らぐだろう

 

     (たにかわ・しゅんたろう  詩人)

 

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     ☆いかがでしたでしょうか?

           

      2020年12月28日(月)22時45分

                   伊達風人の父