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みなさんこんにちは。酒井根走遊会です。

 

今回は“成長する環境”というテーマでお送りします。

 

さて、皆さんはトレーニングもしくはランニングのために“良い環境”とはどのようなことをイメージしますか?

人それぞれ“良い環境”と言える内容は様々だと思います。

それはその選手が何を求めて“環境”を選択するのか?といったことに繋がる内容であると思います。

 

今回は環境を分析するうえで大切な4つの要素を挙げて解説していきます。

しかし、記事を読む前に偏向的に伝え方にならないように注意を書いておきたいと思います。今回の記事を読んで、自分自身のいる環境を強く肯定したり・否定したりすることがないように一つの考え方として読んでいただければと思います。

また“どの国が優れている”・“この国の方法は劣っている”ということはなく、様々な国や地域から素晴らしい選手が誕生することを考えれば、どの地域・環境でも優れていると考えられる点、逆にやや厳しいと思われる環境、もしくはある選手にとってはデメリットであってもまた別の選手にとっては大きなアドバンテージになっていたりするようなこともあります。

すべてが完璧といえるトレーニングはありません。同様にすべてが完璧という環境も存在しません。最終的に大切なことは自分自身の頭で考えて、脚を前に運び続けること。どんな環境においてもこうして未来が切り開かれていくことを忘れないでください。

 

軸として考える4要素 + その他

①     トレーニングの方向性

②     トレーニンググループ

③     コーチとの関り方

④     試合のタイミング

⑤     その他 

 

 

①     トレーニングの方向性

 

・     自分の目指す目標と環境

・     何が必要か? “プラスに働くこととマイナスに働くことを考える”

 

自分の目指す目標と環境

“自分の目指す目標“に関して、実際に自己分析をできていない選手というのは意外と多いように思われます。

最も具体性に欠ける目標というのは、例えば、ただ漠然と“速くなりたい”というようなものです。

陸上競技はすべて数値計測で競い合う競技であるために、この数値をいかに高めていくかに焦点が当たります。

そしてそう競技における数値を高めていくこと=速くなること、であるために“速くなりたい“という目標を掲げ速くなっている選手が多い環境を選択します。

自分自身の目標である“速くなる”、ために進んだ先のチーム、集団。それらの目標として、“全国駅伝に出場する”・“箱根駅伝でシード権を獲得する”といった自分の目標とはやや異なるような集団の目標が存在すると、自分自身の目標に対する取り組みを変えなければならない、もしくは目標とは離れたところで競技をしなければならない可能性も出てきます。

例えば自分自身の目標である“速くなる”を掘り下げて考えると、何の種目で“速くなる”のか?という問いが生まれます。

“5000mを速くなる”と考えたときに、この種目だけに関して言えば“箱根駅伝”(優勝・シード・出場等関わらず)に目標をおいたチームに所属した場合、目標に対して的確でない取り組みをしなければならない期間を多く過ごさなければなりません。

自分自身の専門種目とそれに対しての取り組みを基本に“速くなる”と目標を据えるのであれば、これから所属する集団の目標に左右されることのない、もしくは集団の目標が自分の目標と同一である環境を選択することが望ましいです。

 

何が必要か? “プラスに働くこととマイナスに働くことを考える”

何が必要か、何が不必要か、これらは自分の目標を明確に捉えることによって見えてきます。例えば800mや1500mを中心に競技に取り組む選手であれば、競技場やジムといった施設・同程度の走力の選手といったトレーニングパートナーが重要になり、多様なロードやトレイルのロングコースは優先順位が低くなってくる場合があります。対してマラソンを目標とする選手ではロード・トレイルのロングコースが重要になり、伴走は自転車、サポート車両などを必要とすることになるかもしれません。

そして必要な環境を設定していくと、必要でそろえた要因の中には自分の目標や計画に対してプラス要因が大きいがマイナス要因があるという状況も発生します。

例えば同程度の力のトレーニングパートナーがいることはトレーニングの質・量を向上させるという点で優位に働きます。しかし、パートナーの調子が非常に良い場合には練習でのゆとり度やパートナーとの比較によって『自分は調子が悪いのではないか』『今日は全く走れない日だ』と設定どおりの練習ができていても、心理的にマイナスに働いてしまうことがあります。これは実力が高いレベルで拮抗している選手間で起こりやすいメンタル的な側面です。

全ての環境因子をコントロールすることはできませんが、あらかじめ“プラスに働くこと・マイナスに働くこと”これらを理解しておくと、新しく生じたマイナスに働くことにぶつかった時に適切に対処できる心のゆとりを作ることができます。

 

 

②     トレーニンググループ

 

#1 自分と同じ目線でトレーニングに取り組む選手の存在

#2 自分の取り組みを理解してトレーニングを共にしてくれる選手の存在

#3 同じレベルでトレーニングに臨む選手の存在

 

上記#1・2・3、は似ていますが少しずつ違ってきます。

 

#1 自分と同じ目線でトレーニングに取り組む選手の存在

 

これらの選手は主に“同時期に同種目”でのレースに照準を合わせてトレーニングをしている選手と言えます。トレーニングブロックや期分けのタイミングが非常に似ているため、似たようなトレーニング内容・目的で練習を行えます。しかし“同時期に同種目”で目標を見据え、トレーニングに臨む感覚は似ていますが、競技レベルが違うという選手が集まっていることはよくあります。1500mで3分35秒~4分00秒前後のグループで練習するということはニュージーランドのような競技人口が少ない国では珍しくありません。むしろ、そういった状況がほとんどです。

 

こうしたトレーニンググループでのマイナス面は、グループのトップの選手は一人でプッシュしなければならない場面が多く出てきます。同じ練習を最初から最後までやりきれる走力の選手はいないことが多いので単独走になってペースを落としてしまうことがあります。特に気象状況が悪い時、調子をやや落としている時は単独走での落ち込みは大きくなります。ピンチはチャンスで、単独でも走り切れるメンタルタフネスを鍛えることができるかもしれません。グループで走力が低い方の選手では、適切なトレーニングレベルを超えて練習してしまうことがしばしばみられることです。それはオーバートレーニングだけでなく、狙ったトレーニングゾーン(例えばLT~VO2、VO2~無酸素)を外してしまうことです。

 

#2 自分の取り組みを理解してとレーニングを共にしてくれる選手の存在

 

これらの選手は“同時期に同種目”だけでなく“別シーズン・他種目”といった目標や計画の中で練習しているとレーニンググループも含みます。お互いに何を目標にして練習に取り組むかは違いますが、その練習場所におけるトレーニングの目的は同じなので、同じトレーニンググループで練習できます。

例えばマラソン選手はハーフマラソンレース期に4x3kという練習を行う場合に、1500mの選手は鍛錬期中盤でLTトレーニングとして同じトレーニングに参加して一緒にトレーニングすることができます。

 

この場合においてはマイナス面というのはかなり少なくなると思います。というのは、常に同じグループで練習するわけではなく、トレーニング内容が同じか似ているために臨時で参加したり、集まったりする場合がほとんどであるためです。こうした状況ではトレーニング目的・方法・効果・選手が設定する範囲が非常に似ているために練習効果を適切に得られる場合がほとんどで、効果に対して適切な取り組みから外れることはほとんどありません。

 

#3 同じレベルでトレーニングに臨む選手の存在

 

これらの選手は“同時期・同種目・同レベル”ということになります。こうした選手と日ごろから切磋琢磨できることは選手にとって幸せです。トレーニングレベル・競技パフォーマンスを向上させるために最も大切な環境因子といえるかもしれません。

 

マイナスな面として競技レベルに差ができ始めた時や、調子のバランスが合わない時には“劣っている”と感じた側の選手のメンタル面に対してネガティブに働きやすいという点です。こうした状況では選手が耐えて乗り切るというよりもコーチといった客観的に状況を分析できる人からのアドバイスやサポートによってマイナス面をカバーすることができると考えられます。

 

③    コーチとの関り方

 

・     コーチの経験 < 選手のパフォーマンス

・     選手とコーチが共に考えて実行していく

・     選手の感性と感覚 + コーチの分析力・洞察力

 

1990年代から2010年前後までは世界中の陸上中長距離のフィールドにおいて記録が頭打ちになっていました。しかし2010年代、そして20年代への変遷は各国で頭打ちになっていた記録が再び向上し始めたことを多くのランナーが認識していることと思います。

1人でなく、複数の選手が記録の壁を破っていくことは、多くの選手に良い影響を及ぼします。その結果、科学的なデータ・技術、選手の心理面、そしてパフォーマンスが目まぐるしく向上していく中で、最も向上が難しいと考えられる選手を取り囲む要因は、“コーチング”と言えるかもしれません。

一昔前のコーチングでは、かつて“名ランナー”と呼ばれた選手が競技を引退したのちにコーチのポジションにつき、自分の経験してきたトレーニングや感覚を選手に与えることが一般的でした。しかし近年では、多くの選手がコーチの現役時代の競技レベルを超えている状況が様々な場所で見られます。

つまりコーチは自分の経験に基づいたコーチングではなく、選手一人ひとりを観察し、各選手に適したコーチングができるという“コーチングの幅”を増やしていかなければなりません。

従来の“名ランナー”が“名コーチ”として多くの選手を抱えていく時代ではなくなっていくと思います。

かつての名ランナーであろうとなかろうと、競技経験者であろうとなかろうと、“選手を観察する目を持つコーチ“が壁を越える選手を育てる名コーチになっていくのではないかと思います。

日本の文化として、“大人”・“指導者”・“先生”・“上司”・“コーチ”・“先輩”…こう呼ばれる人は、自分の下に集まる人(基本的に教えられる側と呼ばれる人)からものを教わることをやや苦手としています。

自分が教える立場であると、“素直さを失って、聞く・尋ねるという行為を避ける”傾向になりがちです。そうしたフィールドで教わる立場の人は、教える人の天井を突き破ることは難しいです。さらに言えば、教える人の知識・経験の中でしか“思考・試行“がないので、似たようなルーティーンの繰り返しで、そこから得られる結果からの成長や新しいひらめきというのは生まれず、お互いに成長はありません。

 

中長距離の新時代を切り開いていくには、コーチの“常にどこからでも学び続ける気持ち”、そして選手がコーチをリスペクトしつつも対等な立場でディスカッションできる環境が必要です。

実際に対等にディスカッションできると感じている“指導者”・“コーチ”も多いように思いますが、その多くはある程度、“その選手が一定レベルの競技レベルをクリアしている“・”選手がそのコーチの哲学に染まっている“ことがベースにあってディスカッションしている現状であると思います。

しかし私の考えるところでは、“指導者“・”コーチ“はその選手の”レベル“・”選手の知識量“に関わらず、選手の考えや方法を聞いたり、観察したりする必要があります。たとえ観察している選手が”コーチが考える理論では間違っているような行い“をしていてもすぐに否定するのではなく、選手が何を思ってそれを行っているのか、それに対してのプラス要因やマイナス要因、新たな発見などを探っていく必要があると思います。

これは何も陸上競技のコーチング現場だけに関わらず、社会全般に言えることだと思います。自分の範囲だけで善悪・可不可・正誤を決めてしまうのではなく、多くのことに好奇心や興味をもって素直な気持ちで接してみることが自分自身そして教わる側、両方の成長に繋がります。

残念ながら、日本やアメリカのスポーツは学校・大学・企業のための“結果”を短期的に求められるために、今までやって失敗したことは排除されて“経験的に正しいと思われること”の上でコーチが選手たちを動かしている環境が多くあります。特に強豪校といわれる中学校・高校ではその方法がほとんどです。こうした学校でスクールレベルのチャンピオン、全国大会出場レベルの選手は多く生まれます。しかし、その後それ以上に突き抜ける選手は、そうした学生エリートではなく、意外と何色にも染まらなかった選手が自分で競技フィールドを開拓しながら大学・社会人となって世界レベルに至ったというような選手が多いです。

 

これから自分の目標と競技生活を見据えたうえで、個人的にワールドワイドなフィールドで自分の競技生活を駆けたいと考えている選手の場合

 

正解のベースの上で正しい(と考えられている)ことのみを行うコーチング

ではなく

→ 選手と共に成功を作り出していくコーチング

を考えて環境を整えていくことが望ましいです。

さらに選手だけでなく、“素直に聞ける”コーチは多くのことを学び・発見しながらこれからの環境の変化に対応できることと思います。

 

後編に続く