コーチングとは ~選手とコーチの関係性~ | 酒井根走遊会のページ

みなさんこんにちは。

酒井根走遊会です。

 

久しぶりの更新ですが、今回は

”コーチングとは ~選手とコーチの関係性~”

というテーマで記事を書いていこうと思います。

 

みなさんは”コーチング”と聞いてどのようなことを思い浮かべるでしょうか?

 

基本的に日本では、”コーチング”と言えば、

小学校のクラブチームのコーチが、みんなが楽しめる運動を練習内容として、チーム全体に与える。

中学校の部活の先生が、部活のトレーニング内容を、部活に与える。

高校の部活の先生が、部活の目標・トレーニング内容を、部活に与える。

大学のクラブの監督が、チームの目標・トレーニング内容を、チームの達成指標として、チームに与える。

ということを思い浮かべると思います。

 

 

日本では部活動が主な活動場所となるので、どうしても”チーム”という枠と目標の中で”選手個々の目標”を決めることになりがちです。

中学・高校・大学・実業団チームに所属していても、いつかはその所属先を離れ、自分の行っているスポーツを部活動ではなく、一人で始める時が来ます。

一人で始めると、自分の行う”スポーツ”を自分の裁量でできるようになり、”部活動”ではなくより一層”スポーツ”ということを捉えて取り組めるようになるとおもいます。今まで決められていた練習内容や試合日程を自由に自分のやりたいように選択できます。自分でトレーニング内容を決め、自分で結果・成果を追求する。もしくは運動に対する感性・姿勢を養い、心技体を磨いていくことは自分自身と語り合う時間を増やし、すべてを決められていた時よりも充実した時間を過ごせるかもしれません。

 

しかし、最初はうまくいっていたものの、少しづつ”限界”というものを感じるようになることもあります。それは今までの知識や経験で上げられる幅の上限に達しているためだと思います。今までと同じことをより増量する・より質を向上させるということが難しくなるからです。

これは選手としてスポーツに取り組むだけでなく、コーチとしてそのスポーツに関わる場面でも同じことが言えます。

過去の自分の方法で超えられなかった壁をどのように超えていくのか。選手であれば”身体的能力、生理的限界”であきらめるのか、コーチであれば自分の今までのメソッドでより強く成長する”身体的能力”に恵まれた選手に出会うまで待つのか。。。

 

”スポーツ”を上達させるポイントは、そういった”身体能力”だけに頼るのではなく、様々なアプローチから新しい発見や方法を開拓していくことだと思います。そうした新しい知識・経験を増やしていくために、”新しい方法で自分自身をコーチングしてみる”、”コーチングを受けて気が付かなかったことを発見していく”ということで、今までにない取り組みをすることもあるでしょう。今までを変えていく・超えていくために大切なコーチングと選手の関係性を考えていきたいと思います。

 

 

 

コーチングとセルフコーチング

 

部活動などの所属先を離れて、選手もしくはコーチとして活動を始めると大きく分けて以下のようになります。

① セルフコーチング : 自分一人で練習を考え、自身で取り組む。

② コーチングとセルフコーチングの両立 : 様々な選手の練習を考え、取り組みを観察しつつ、自分自身の練習を考え、自身も取り組む。

③ コーチング : 様々な選手の練習を考え、取り組みを観察する。

 

 

①のセルフコーチングで高めていくには、前述したとおり今までの知識や経験だけに頼っていてはすぐに上限に達します。そして次に行うこととしては、”新しい方法論”、”新しい知識を増やす”という行程を経て”自分の感性・姿勢”を磨いてさらにそのスポーツを追求していきます。

自分一人で自分を見る場合に最も難しいことは、成功体験に偏りがちになること。そして新しい知識や経験を増やすことに対するアンテナを張っていなければ、自ら新しいひらめきを得ることが難しいことです。

 

②コーチングとセルフコーチングの両立では、様々な選手を観察する中で、自分では得られたことのないようなフィードバックや新しい見解・視野があり、それを自分に落とし込むことによって”経験”を増やしていくことができます。また、様々な選手の個性と目標に応じた最適な道を探ることになり、”新しい知識”を得ようとする局面が多々訪れます。

多くの知識や経験を共有できる反面、選択肢の幅が広がり、”最善な道を選ぶ”ということが難しくなります。また一つ一つの選択に対しても、自信を持てなくなってしまうこともあります。

 

③コーチングが中心のコーチは、様々な選手のフィードバックと経験をもとに、自分自身のコーチとしての”経験”を増やし、”感性”を養っていくことができます。

”コーチ”としての活動を主にしていると、①と同様に自身の成功体験に偏りがちになることがあります。それはコーチ自身の経験や過去の選手とに比較によってどうしても同一もしくは似たようなトレーニングサイクルの繰り返しになることが多いためです。

 

①②③どの場合においても、自分一人で自分のコーチングというものを顧みる瞬間が訪れます。

それは、自分のなかで問題解決方法が見当たらなかったり、選手がうまく結果を出せなかったり、選手のフィードバックを理解できなかったり、多くの場面で顧みます。

また、”知識・経験”が増える分だけ、”今の自分自身の選択は本当に正しいのだろうか?”という疑念も生まれてきます。

 

その時に”ほかの人からのアドバイス”、”自分を客観視してくれる人のアドバイス”というのは、それらの疑念や迷いを振り払って、前へ進む大きな力になります。それは、今自分の置かれる状況が、①のセルフコーチング選手でも、②のコーチ兼選手でも、③のコーチという立場でも同じです。

 

 

 

コーチの役割

 

故障をすれば、理学療法士の診断とエクササイズで故障しない体を作ります。

ランニングギアに関しては、足病医に脚の傾きや故障の傾向から最適なシューズのアドバイスをもらいます。

ランニング技術・走動作に関しては、スプリントやS&Cコーチにアドバイスをもらいます。

最近では走動作の技術改善は機械の仕事になっているのでしょうか?

また、スーパーシューズの登場によって、ランニングギアによる競技力の向上もあると思います。

 

そう考えると、コーチの仕事はかなり狭いようにも思いますが、これらをまとめて選手の隣で力強いメンターになることはどの役割にも代えられない大切な役割です。

 

コーチングの最も難しい点は、

『”迷い”をどのように断ち切るか』

というところにあると思います。

また、コーチングを受けるメリットは

『迷いをうまく断ち切る』ことだと思います。

 

理学療法士、足病医、スプリント動作…などは、選手の外側に見える事象を、適切な動きや体の機能回復を促してパフォーマンス向上を目的としています。これらによってパフォーマンスを大きく改善できることもありますが、こうしたピンポイントでの改善をコーチングとは呼びません。

コーチがこうしたことを担っている場合もありますが、分業している場合がほとんどです。

コーチは外から見えるピンポイントで改善できる動作などに注力することもありますが、トレーニング計画や目標という大きな枠組みで選手を見る目も忘れません。その中で、今優先すべきことのヒントを与えたり、多くの選択肢の中で迷う選手に対して選手が集中して目標に近づいていけるアドバイスをすること。これは選手の長いキャリアの全体を通して、もしくは途中をともに歩んでいく場合の多くの局面で必要になります。結果が出ている時でも、うまくいかないときでも、コーチは選手を見守り、選手がアドバイスを必要としている時には共に考え、道を切り開ける支援をします。

 

 

 

選手とコーチの関係性

 

選手自身は成長過程で、多くの成功と失敗を経験していきます。その経験、特に成功体験は選手の道しるべになることが多いです。そうした場合、”成功体験”に偏りがちになり、他にいい方法や別の方法があったとしても選手は見向きもしなくなります。

ただ一つの方法に固執します。

また、調子を落とした時でも、”この方法で前もうまくいたから大丈夫”と人の話も聞かず、自分の体とも相談せず、ただ以前の経験のみにすがることも少なくありません。

 

選手の”自分自身を見つめる目”というものが、過去の経験と過去の体験のみをもとにしているとこのようなことが起こります。

コーチの役割は、現在の状態や状況を選手に理解させるような客観視と必要最低限のアドバイスを選手に与えることです。

選手が開けた心をもって、アドバイスを得ようとするとき、コーチが多くのことを与えすぎると、選手はそのコーチのアドバイスがすべてになってしまうこともあります。

 

選手が主観を重視しすぎると、人の話を聞かず、過去の成功体験のみに固執することになり

選手が客観を重視しすぎると、ただ従うだけで、言われた練習を繰り返すだけになります

 

コーチと選手の関係というのは、ちょうどその間、

選手が主体的に取り組み、今の自分の体や動作・パフォーマンスを意識的にコントロールする

コーチが選手からの質問を客観的に分析して、改善方法のヒント、どのような方法で目標に向かうのかをアドバイスする

といったように
選手がアドバイスを求め、聞き入れる状態に対し、

コーチは選手の不安や迷いを解消するヒントを与える。

選手はそのヒントの中から、自分の感性を磨いてパフォーマンスを向上させる。

という関係性が良い関係と言えるでしょう。

 

結局のところ、”コーチング”の行き着く先は、

コーチの ”客観視とアドバイス”

そして

選手の ”主体的な感性・姿勢とひらめき”

の相互作用だと思います。

 

コーチがもし選手の求める”答え”を持っていたとしてもあえて”答え”ではなく”ヒント”にとどめる。

それは、選手の中から”別の答え”、コーチも想像していなかった、選手の中から生まれた今まであった”答え”を超えるような別の何かを、コーチが期待しているからではないでしょうか。

そうしたコーチングが、新しい未来を切り開いていくチャンスを選手に与えていくことになると思います。

 

こうした作用で築かれたコーチと選手の関係は、過去や現在の”持ちタイム”や”タイトル”での比較といった小さな価値観やものさしで、自分たちの取り組むスポーツを測ることなく、常に次の目標に向かって挑戦していく心の支えになることでしょう。

 

優れたコーチは、コーチ自身が想像もできなかったことを、選手に想像させるきっかけを作り実現させられるコーチであり、

壁を打ち破る選手は、自分を見てくれる、そして不安や迷いを解消してくれるメンターの存在を大切にする。

そして与えられるヒントの中から、全く新しいことを生み出していける選手とコーチの関係性が未知の世界を切り開いていくのだと思います。