今回は練習の距離と速度という視点から、練習内容の選択について記していきます。
さて私の練習ですが、故障復帰後から少しづつ練習量を増やしています。
その結果、いわゆる『距離を稼ぐ』という練習に陥っていました。
スピード練習の前後の練習、スピード練習でない日の軽いランでは3分50秒前後のペースで⒑㎞~20㎞を一日二回行っていました。
この結果、何年かぶりに週間走行距離は200㎞を超える状態にまでなっていました。
このペース範囲では体に対する負荷はあまりなく、遅筋繊維を刺激し続ける分には効果的だと考えられます。
しかし、有機的代謝・無機的代謝に対する刺激はほとんどなく,
ある程度行った後はあまり効果がない練習です。
そして効果がないどころか、練習の効率を著しく悪くしていきます。
というのも遅筋繊維が刺激を受け続けることによって、低速の負荷には長時間耐えられるようになります。
その結果『筋疲労』を感じにくくなりオーバートレーニングに陥ることがしばしばあります。
オーバートレーニングにならなくても、自分の持てる最大スピードが長期間(一週間以上)出せないようになっていれば、練習の効果はほぼなくなっていると考えてよいでしょう。
というのも、『最大スピードが出せる状況にある』ということは、そこからペースを落として、『最大化スピードを出せる・コントロールできる』ということになります。そして最大化スピードをコントロールできることは、『閾値(テンポ)・マラソンペースを作れる』ことにもつながります。
さて、最大スピードが出せなくなる場合にはどのような弊害が生じるのでしょうか?
『軽いランでも無理に動かしている感覚がある』
『全力で走っているつもりでも全力が出せない』
『疾走感がない』
『ばねを感じない』
『軽いランでペースが一定か落ちる』
このような感覚を得ます。さてその影響はどのようにトレーニングプランに現れるのでしょうか?
それでは今回の私の状況と合わせながら考えていきたいと思います。
最近、心拍計付きGPS時計を購入しました。
これにより走っている速度と、心拍数を自動で計測・確認出来ることが可能になりました。さて9月4週目の190㎞走り終わった土曜日後、
日曜日 36㎞
月曜日 軽いランニング + 1㎞
という練習を行いました。
36㎞では特にペースは決めず、マラソンを意識してリズムで30㎞走り、残り6㎞はアップダウンを走る練習でした。
結果は3分35秒から3分25秒あたりを推移し、27㎞~30㎞あたりは3分20秒前後に上がりました。この時の心拍数は141~143で登りに入っても同じ心拍数を維持していました。私の100%の心拍数を190とすると心拍数は73~75%くらいで走っていることになります。特段きつくはないのでその程度の負荷なのでしょう。
36㎞を終えた次の日の練習では、1㎞を流しました。今出せる全力に近い形で走りましたが、結果は3分2秒で心拍数は156となっていました。心拍数はおよそ82%くらいということになります。
この結果から考えられることはどのようなことでしょうか?
私の参考書、Daniels Running formula から引用すると、
心拍数73-75%はVO2maxに対する刺激が67-69% のEasy run のランクに位置します。
心拍数82%はVO2maxに対する刺激が77%のMarathon-paceのランクに位置します。
ここから考えられることは、現在の体の状態で狙った効果に対する練習を行っても、狙った効果は得られないことになります。
なぜなら、マラソンペース感覚で行っている練習がイージーランの位置、
インターバルペース感覚で行っている練習がマラソンペースの位置に入っているからです。
無理に設定ペースを守れるようにペースを上げたらよいのでは?と思う方も多いと思いますが、マラソンペースはマラソンのリズムで走ることに意味があり、前述したとおり、1㎞は全力のような感覚でした。
この感覚はすでにオーバートレーニングの状態であり、早期に練習量を減らす、もしくはそれ以前に、低下しないように練習計画を改める必要があります。
心拍計はまだ使用回数が少ないのでデータがあまりとれていませんが、私自身は心拍数が上がりにくいタイプのランナーであるのかもしれません。
というのも、トラックレースやスピード練習の中で前を走る選手が、『後ろについてきていないと思った』ということがしばしばあります。呼吸音があまりしていないのです。5000mを走る中では、心拍数は94-100%あたりを記録しますが、私はその範囲がやや低いのかもしれません。そのため1500よりも5000m、5000mよりも10000mに適正範囲が近づいていくのだと考えられます。
こうした心拍数の上がりにくいランナーにとって、やや負荷を抱えたまま練習をすると、さらに心拍数は上がらず、練習の効果は半減どころか、全く狙った範囲に入らないことになります。この状態でいくらインターバルや閾値トレーニングを行っても効果はありません。適切に最大スピードを発揮できる状況まで体を休ませる必要があります。
しかし、心拍数の上がりにくいランナーはレースの終盤に近づくにつれてピークが来る傾向にあります。先々週の36㎞では同じリズムでも30㎞付近でペースのピークが来ています。5000mや10000mではかなりきついペースで入って後半落ち込まない(同じペースに落ち着く)傾向があります。こうしたランナーはトラックよりもロードのやや長めのレースに適正範囲があると考えられます。酸素を摂取してエネルギーを生産し体を動かし続ける長距離種目では、有機的代謝で作ったエネルギーで進み続けることが筋肉に対しての負荷を軽減できるためです。無機的・有機的を両立し補い続ける5000mや10000mにおける筋肉に対する負荷はマラソン等の長長距離に対してはややエネルギーを消費しすぎる傾向にあると考えられます。『追い込み過ぎないポイントでエネルギー代謝が一定になる選手と練習がマラソンに適している』と考えられます。
やや話が逸れましたが、練習の継続と過負荷によってスピードが発揮できなくなった状態と過負荷と負荷の適正範囲について考えていきたいと思います。
『スピードはなくなるのではなく隠れている』
という言葉を雑誌で見て、県民大会の時に酒井根走遊会初代メンバーと話したことが思い起こされます。
この『スピードを発揮できる状態を絶えず維持する』
ということはもちろん、
『どのような計画を持てばスピードを常に発揮できるのか』
ということを考えて練習計画を見直すとよいと思います。
私の場合、10代から20代前半にかけての長長距離の練習により、遅筋繊維が発達していると考えられるため、軽いランはとめどなく走り続ける、繰り返すことができます。そのため、全力が出せなくなることが多々あります。『全力を出す』という意識から、全力走を毎日または頻繁に行っていれば、スピード能力は維持できると考えられるかもしれませんが、私はできない体のようです。ある程度走る距離を抑え、中間繊維と速筋繊維が刺激を受ける状態を維持するために、練習を短く切ることが必要になってきます。
逆もまたしかり。どのような状況で最大スピード・最大化スピードが発揮されているのかを確認して、その状況を自ら作り出せるようにする。これはレースに臨むにあたっての調整とテーパリングに役立ちます。
こちらも10代の頃からの習慣になっていたことですが、
『疲労がたまった中で強めの練習を行い効果を高める』
ということが一般化していましたが、これは逆効果です。
効果が出ないどころか、故障にもつながります。
『体をフレッシュな状態にし、さらによい動きを維持してこそ練習効果が上がる』
ということをメンタル的な部分で一般化していきましょう。
とはいうものの具体的に見直すとはいったいどのようなことを行えばよいのでしょうか。
例えば
① 朝・夜の練習が日課になっている人は、朝か夜のどちらか速く走っている方だけを選択し、一回練習にする。
② 二回練習したい場合には、朝・夜の練習時間を半分にして、ペースを上げる。
③ 練習日誌を見返して、疲れてペースが遅い日はすべて休養日(もしくはジムトレ・プールなど)にする。
④ 練習中ペースは常に上がり続けるもののと考え、落ち込み始めたらやめる
⑤ 全力疾走をする日を作る
このような点が挙げられます。
みなさん練習を疲れた状態で行っていませんか?距離と習慣に縛られた練習を見直して、気持ちよく・速く・全力で走ってください。
今回は『距離とスピード』というテーマですが、距離の中で、『最大スピード』『最大下スピード』という言葉が出てきました。この言葉の解説に関しては今回は省略したいと思います。(参照)
このスピードを発揮することによって、VO2maxを高める練習・高い心拍数を維持する練習が可能になるということなのですが、階段を登ったり、長い上り坂を登り続けたり、Elgobikeによる練習で最大酸素摂取量を高める、高心拍数を維持することは、トラックレースにおける中長距離の練習に対して効果を発揮するのでしょうか?
結論から言いますと、有効であると考えられますが、それだけではレースを速く走れないということです。前回のブログは『ランニングフォームを鍛える』でしたが、ランニングフォームが悪く、走効率が悪ければ、消費量は大きくなりたとえ最大酸素摂取量などの能力が高かったとしてもタイムは思ったように上がりません。
そして効率の良いランニングフォームを維持するには、反復した動き作りと走る練習が必要になるということです。またそうした練習・レースを維持していくためには、走るために必要な筋肉を鍛えることが必要であるということです。
自転車をこいだり、水泳で泳いだりという練習では、本来走るために必要な筋力を養うことは難しいということです。またトレイルランのように急こう配の上りや階段のような登り下りの中で、脚筋力に筋疲労を起こした状態で走り続ける運動は低速かつ、発揮されるべきではない動きを維持しているために、トラックレースでいうところの『走り』とは違う運動になっていることがわかります。こうした練習を常に行い続けてレースで結果を出すということは非常に難しいと考えられます。
つまり、自分の走りに対する練習の効果を考えて
・動きを効率的にする練習(ドリル・ストライド・レペティション)→走動作を改善
・効率的な動きを維持する練習(Jog・マラソンペース・ジムワーク)→走るための筋力を鍛える
・最大下スピードを維持する能力を高める練習(インターバル・閾値トレーニング・ヒルトレーニング・ELGOBike)→VO2max ・最大心拍を刺激する
・最大下スピードを維持する(インターバル・レース)→レースですべての能力を発揮する
このようなことを考えてスピード練習を効果的・効率的に行っていきましょう。
次に先日のメルボルンマラソンの結果と考察です。
結果は2:27:19 8位
ということでした。
故障や脱水におけるペースダウンを除いては過去最低の記録を記録する結果になってしまいました。
この原因としては、オーバートレーニングとテーパリングミスが挙げられます。
前項で記したように、週間走行距離が200㎞を超える練習を継続することは約8年ぶりで体の反応をうまく休養日につなげられなかったことにあります。
またスピード練習時のスピードの低下は向かい風によるものだと考え、あまりペースダウンを筋疲労と結びつけられなかったことが、練習の変更につなげられなかったことにあります。
テーパリング時に1㎞を全力で行う日がありましたが、体は軽く感じられたのは、オーバートレーニング状態からやや疲労が回復したため軽く感じられただけであり、『体が完全に疲労状態から抜けるまでの感覚』と、『軽い感覚』の違いを感じられなくなっていました。
このような要因から、16'33"というゆったりとしたラップで入りながらペースは下降の一途をたどっていきました。
さて今回のメルボルンマラソンですが、次のマラソンに対する練習の一環で出場しました。これは前々回のクライストチャーチマラソンと同じ意味合いです。
故障からの復帰後、約2か月での実戦練習です。
今回と前回で違うところは、約2か月間における練習のアプローチです。
前回はクロスカントリーシーズンの中、スピードを中心にした計画で、ロングランを行わずに臨みました。
(最も長く走った距離で21㎞、1㎞は2’40”切りのスピードを回復)
その結果は、2:24:13(5km 16:40 half 70:40 2lap 73:33)
今回はロードレースシーズンの中、スピード練習を抑え、ロングランを中心に行い臨みました。
その結果は、2:27:19(5km 16:33 half 70:30 2lap 76:49)
スピード練習のアプローチで臨んだ5月は、前半のハーフでややきつく感じましたが、後半の3:30切りの動きは、いい動きを保つことで、42㎞の距離を克服しました。
ロングランの練習で臨んだ今回は、前半のハーフでのきつさと動きの悪さを後半のハーフで修正できなかったこと、疲労の蓄積を改善できなかったことが、後半の失速を招き、結果同じ練習期間であっても、3分の違いを作りました。
さて、今回・前々回のレースは練習の一環でしたが、本番のレース(2:18を狙ったレース)ではどのような結果になるのでしょうか。
5月のマラソン(2:24)から中1か月のゴールドコーストマラソンは脱水症状により(2:32)となってしまいました。またここでは中1か月で故障・オーバートレーニングとテーパリングがあり、ネガティブな条件で狙ったレースと練習ができなかったことが5月のマラソンを活かせなかった要因です。
今回10月のメルボルンマラソン(2:27)から中2週間でオークランドマラソンに臨みます。疲労からの回復、スピード(ランニングフォーム)の改善が残された10日間の課題になりますが、時間が限られているので、必要なことのみを行っていくように練習する必要があります。
どちらに関しても、練習を継続的に行い、段階的にあげていくというよりも、
練習のスピード練習(中間テスト○)→中断と下降→オーバートレーニング
練習のロング練習∔オーバートレーニング(中間テスト×)→中断と下降→?
という本来持つべき練習の在り方から外れてしまいましたが、それでも自己ベストを出せる修正力も磨いていきたいと思います。
マラソンという競技の特性上、レース中の不測の事態に対する修正力、トレーニングプランにおける不測の事態に対する修正力、これらを磨くことは自身の走りの能力を磨くためのプランを決定づける大切なことだと思います。
みなさんもぜひ、自身の練習とレースの計画の考察と修正・改善を行ってみてはいかがでしょうか。
チームのスピードスター、ハーミッシュ
自己ベスト 1500m 3'36" 1mile 3'56"
毎週日曜日にロングラン20㎞~30㎞を行っていますが、スピードは常に発揮できる状態。
ニュージーランドのランニングコーチ、アーサー・リディアードのプログラムを引き継いでいます。
走りの特性と練習計画については次回のブログにて。
