『刺激』について | 酒井根走遊会のページ
酒井根走遊会AUS支部からの更新です。

今回はレース前の『刺激』について。
みなさんはレース前にどのような刺激を行っていますか?
中学・高校・大学…
走りを学ぶ中で基本的にレースの前日か前々日に1000mを行うことが日本の練習プランでは習慣化していますね。

さてこの刺激ですが、どのような効果があるのでしょうか?
基本的には、『刺激』の名前の通りレースで発揮する心肺機能の9割~10割を使い心肺機能に対して負荷をかけることによってレースペースでの苦しさに対応できるようにすることが大きな目的として考えられています。
またレースの入りをイメージすることによって、レース序盤でのミスを少なくすることも目的としています。

この二つを常に教育されてきた背景があり、前日か前々日に『刺激』というものをしなければ安心できないランナーがほとんどだと思います。
またレース後に
「刺激をしないで走れたから、刺激を入れたらもっと走れるかもしれない。」
というコメントも聞かれるほど、刺激というものは私たちのレースにとって切っても切れないものになっています。

しかし実際のところ、『刺激』は本当に必要なのでしょうか。

世界的に見てナショナルレベルで競技を行う選手で、レース週の練習プランに『刺激』と呼ばれる1kも高強度で走る練習を取り入れている選手はあまり見られません。

なぜでしょうか。
その理由は単純で、
「疲れるから。」
ということです。

確かに言われてみると、レース週の練習プランは『軽く』という前提があり、徐々に練習量を落としていきます。そしてパフォーマンスレベルを上げていきます。その最終段階で、『刺激』と呼ばれる疲れることを行うのは賢明とは言えないでしょう。

しかし、『刺激』を行うことでレースが楽に運べることは多々あります。
また、レースの次の日に体が非常に軽く動いたときに、
「刺激が足りなかった」
という反省が聞かれることもあります。

このようなことから、『刺激』には『意味と効果』が確実にあることがわかります。
この『意味と効果』を実感できているからこそ、習慣化して行っているのでしょう。

しかしここで疑問が生じます。
なぜレース前日に『刺激』と呼ばれる疲れることをしているのにパフォーマンスは向上するのでしょうか。

それは、レース週の練習プランの考え方にあります。
レース週の練習プランの考え方は
『動きを洗練していく』+『疲労を除去する』
が最も大切なことです。

しかし日本の練習は、
『120%を発揮せよ。』
を毎日繰り返しています。

その結果は毎日疲労で、
『80%(全力)が120%(全力)』
だと思っています。

結果レース週の練習プランで考えることは、
『疲労を抜く』=『動きがよくなる』
という考えに陥ってしまいがちです。

そのため、動きを洗練する練習が極端に減るために、レースの前日になってもパフォーマンスを発揮できる状態に体が準備できていません。
その結果、『刺激』という練習で体を無理やり動かすことによって、
疲労の抜けた状態とレースの動きをつなぐことをしています。
つまり『刺激』という高負荷の動きつくりをレースの前日に行っているということです。

レース週で大切なことは
『動きを洗練すること』
が第一にあり、練習量の減少とともに疲労は二次的に軽減されていくものと考えたほうがいいでしょう。


それでは実践に入りましょう。

『刺激』というものを前日・前々日に入れなくても走れるようになるには、どのようにレース週の練習プランを組み立てればよいのでしょうか。

① 高負荷の練習をする→休養する→トレーニング効果を得る→
まずは日々のトレーニングサイクルでこの流れを作ることです。フレッシュな状態を日々のトレーニングサイクルで作ることで、動きのいい状態を確かめます。

② 動き作り・ピュアスピードセッションを取り入れる
日々のトレーニングサイクルの中に、これらを取り入れましょう。メイン練習ではないのでリラックスして行うことが重要です。この練習の中で、疾走感100%と努力感100%が近づけば近づくほど、この練習をレース週で取り入れることができると思います。
ピュアスピードセッションはファルトレクや30m~50mスプリントのインターバルです。スピードを出すことは脳に『速く体を動かせ!』という指令が入ります。その結果体がナチュラルにスピードに反応できるようになります。

③ レース週の練習プランは『練習量を減少させていく』を前提に
レースに向けて1週間の練習プランがあれば、日に日に練習量が落ちていくことが理想です。量は距離と考えてもいいと思います。

日曜日 40’easy 3000m+1000m 走行距離 15㎞
月曜日 50' easy 動きつくり   走行距離 13㎞
火曜日 40' ファルトレク    走行距離 10㎞
水曜日 40’easy 動きつくり   走行距離 10km
木曜日 30' easy 動きつくり   走行距離 6㎞
金曜日 10'up 200×2 動きつくり 走行距離 4km
土曜日 10'up ドリル     走行距離 2km
日曜日 5000m

動きつくり・スピードセッション・ドリルが確実に身についていれば、このような練習の流れで、十分にレースでパフォーマンスを発揮できると思います。



前回のブログでも述べたように、最も大切なことは
『努力感』と『疾走感』です。
「もっとスピードがでる!」
「この感覚だとこのタイム。」
こういった体の感覚を研ぎ澄ませていくことが、レース週は特に重要になってきます。


タイムを狙って体を動かす種目にとってこの『努力感』は常について回るもので、オリンピック選手が言う通り
『レースで楽をしたいから、練習を厳しく。』
という言葉に従って、体に厳しくし過ぎて、体の反応が聞こえなくなっている選手は多々います。
また高負荷の練習を長く続けて、レース前に疲労だけ抜いて、いい感覚を味あわせる、ばねのような反作用によって努力感をコントロールしようとする指導者が非常に多いことも影響しています。

こうした中で選手達は、練習によって得られる練習の効果がわからなくなっています。
それは、自分の限界・努力感・疾走感、すべてがかみ合っていないからです。
その結果、練習の方法は『よかった時の経験論』から固定化されます。
最終的にレース週は『疲労抜き+刺激』が定着したのではないでしょうか。
ここまで完全に練習プランが重なってしまう風潮は非常に珍しいことだと思います。
つまり出される練習プランに対して客観的にしか取り組めていない選手が中高大学生でほとんどだということです。
チームでやるから仕方ないというのではなく、常に自分の体の反応を聞く主観的な体と心を準備して練習に臨むことが大切ですね。
オリンピアンが行っている『練習』にばかり目を向けるのではなく、彼らが体感・体現している感覚とはどんなものなのか。そういったことを考えながら練習してみてはいかがでしょうか。

私の経験論からいうと、
『こんなきつい練習をした。』『いや俺のほうがこんな練習をしてきつかった。』
と言い合うよりも、

『こんな感覚の時に気持ちよく走れる。』『その感覚は体がたまに感じる。』
『それはどんな時…』『この感覚はよくわかる。』
といったように、数値では計れない走りの感覚を共有できた時にランナーとしての幸せの中にいられるような気がします。

勝利への方程式はその時々で、自分の体の中にあることを忘れずに、体の反応を探し続けましょう。



そして私はGold Coast marathonに向けて最終週に入りました。
実際のところ4月に練習に復帰してから、体調不良や怪我であまり練習通りには運べていないのですが、体が感じる反応は非常にいいです。
そうした結果が、先月のマラソンの走りにも現れています。
また今週の練習では、
月曜日に3000+1000(8'46-2'49)
木曜日に2000+1000(5'56‐2'52)設定6’00-2’55
金曜日に2000∔1000(5'54-2'50)設定 上記と同じ
といったように調子はまずまずです。
木金は『同じ努力感で』といった走りで向上しているのでよい傾向だと思われます。
このように二日続けて疲労がたまってきているにも関わらずタイムが向上することこそ『刺激』の効果なのですが、ここではレースではないのでやや趣旨は違います。
明日、日曜日はXCR round5 10kmeventが行われます。
ゆとりをもって30’00くらいで走れるといいのですが。

明日から来週の日曜日までお休みをいただき、Melbourneの各地で練習します。
新しい練習方法や理論について興味深いところがありましたら随時更新していきます。


先月のマラソンの結果がAthletics Victoriaの記事になっていました。
ヴィクトリアだけでなくオーストラリアを代表するバーミンガム選手と記事と共にしていただけるとは光栄なことです。ありがとうございます。