切る | 酒井根走遊会のページ
酒井根走遊会、日本からの更新です。

日本での生活でおよそ1週間が過ぎ、
この間に高校生・大学生・実業団選手・指導者などなど
おおくの方々と『走り』について意見を交換することが出来ました。

それぞれの立場で、それぞれの現状と向き合っているようです。

今回は『はまる』ということに関して最近の意見をまとめていきます。

まずは、『はまる』という状態について

『はまる』とはレースや練習中にいい動きが固定化し、簡単に速く走れる状態のことを指します。
自分自身で力を無理に加えることなく、ハイペースを維持できる状態です。
これとは逆の状態が、努力感が最大に高まって走っている状態と言って良いでしょう。
努力感が最大に高まる状態とは、常に筋力や足運びの速さなどを自分の行える限界を使っている状態です。

陸上競技の基本として何を目指すのか。

より速く・より高く・より遠く

ということが挙げられると思います。
見えない強さをかたちにしたものが数値となって現れます。

レースや大会はそれを競う状況として間違いはないでしょう。
しかし、現在の日本の多くの選手が感じていることは、『練習』や『体力』のなかでもそれらを競わされている現状があります。

筋力を増やす・距離を伸ばす・回数を増やす・休憩を短く

これらを練習で競うことと大会で結果を残すこと

この2点を比較する直接的な要因にはならないのですが、多くの人はこの点を比べたがります。

しかし最も大切なことは、

自分の目標→目的意識→自己管理→結果

自分の狙いを中心とした競技生活です。

そのため『練習』に関しては人と比べる(同じ練習の出来を比較する)ということは結果を出す点においてほとんど意味を持たないということです。

ここで最初に述べた『はまる』を思い出してもらえるとわかると思いますが、練習の比較で自己の狙いと走りを失っている選手には『はまる』感覚を意識することは難しいでしょう。

『はまる』という感覚は自身の走りと向き合った時に初めて発見できるものだからだと思います。


『はまる』感覚

この感覚ですが、走りを始めた時には誰もが持っている感覚だと思います。
初めて200m・400m・800mなどの距離をレースで走ると、とても軽く体が動き、力を使わなくても体が前に進んでいくことがあると思います。
これは精神状態にも左右されますが、このゆとりを持った状態こそ『はまる』状態です。
この『はまる』状態を以下に持続するか、短中長距離のレース中に発揮できるかが結果を決める要因となります。
しかし、環境の変化によってこれが失われることが多くあります。
なくなる要因に関しては『オーバートレーニング』が主な原因です。
なぜそう言えるのか。
陸上競技に関しては『努力(?)』をすれば結果(数値)が上がるという事実があります。
そのため始めたばかりの選手、環境が変わった選手は
練習量の増加=数値の向上
を体験してしまうので、
『もっと練習したら、もっと強くなる』
と考えてしまいがちです。
ここから最初に感じた『はまる』感覚はなくなってしまいます。
中高生・大学生・社会人、常に『はまる』を持っていることが記録向上のポイントになります。


『努力』と『練習』

努力する、ということは練習量を増やす。と考えてしまう人が多いように感じます。
努力とは、記録向上のために何を選択し・何を捨てるか・何を実行するか、これらの計画と実行力・継続する力が努力することだと考えられます。
しかし、前者のように人間の体の機能を高めることだけが『努力』そして『練習』と多くの場面で考えられています。
いかに『練習』で獲得できる要素を引き出せるかが『努力』であり『結果』につながる行動こそ本当の『努力』であると思います。
この点を踏まえて、『練習』の内容を考えてみてください。きっと多くの不要な要素があると思います。『結果』を出すために多くのいらないことを排除する。とても難しいことですが、こうした考える力と実行力そして結果を目指せる日からこそ本当の『練習』であり『努力』です。


スポットの再発見

前述したように多くの人は、押し付けによる『努力』により『はまる』感覚を失っています。
そして『はまらない』状態で、ギリギリの練習をして自分の限界を感じ、引退します。
諦めるのはまだ早く、まずは原点に戻ることが大切です。
どうしたら戻れるのでしょうか。

一番いい方法はその競技から離れることです。体をある一定期間リフレッシュさせることにより、脳も同時にリフレッシュできます。そこから走り始めると同じように継続してきた練習の中では体験できなかった感覚があると思います。そのフレッシュな感覚を向上させられる練習方法・量・質を判断していくことによって新たな走りを体現できるようになると思います。

競技から離れられない場合、体重管理等に不安がある場合、このような状況では練習を中断できないので、練習の量を落としていくことをおすすめします。次のレースのことは考えずに、気持ちよく走ることだけを考えて練習を継続します。気持ちのいい日はたくさん走り、うまく走れない日はすぐにやめる。このような一見気まぐれのような練習計画でも、心と体が反応する日が有り、思いのほか速く走れる日があります。ここで得たいい感覚を少しずつレースに近い練習に体現できるように練習計画を設定していけるといいと思います。

練習量・質を変えられない場合、この状況は再発見が難しいと思います。というのも『はまる』感覚というのは疲労状態から発見することは極めて困難であるためです。なぜ難しいのかというと、体が疲れている場合、私たちは筋パワーに頼ります。そしてまた疲れます。この悪循環では自然にスピードが得られる感覚はほぼ発見できないでしょう。自然にスピードを得るためには、極力筋パワーを使わずに楽に走れるハイペースを設定するかにあります。
ここでは設定ペースでの話を中心にしていますが、ペースで言うと遅いペースでも気持ちいいポイントを発見することをまず第一に考えるといいと思います。というのも速いペース設定とそれに動きを合わせていくのでは、動きを修正することはできません。
まずはペースを落とす、楽に走ることを反復していきましょう。レースペースは考えずに、今気持ちよく走れるペースで繰り返していくことで、自然に体が発揮できるようになり、いつの間にかレースペース以上のインターバルやレぺにつながっていることでしょう。
低速からのビルドアップも効果的だと思います。楽なペースから苦しいペースへ、そのなかでのゆとりがスポットに繋がることもあります。坂ダッシュ(上り・下り)で体が浮く感覚をつかみ、速さとゆとりを得られるものを環境から得るのもひとつの手段です。
細かい動きの改善で、全てがハマるようになることもあります。客観的に自分の走りを見てくれる人の意見に耳を傾けるのも良いでしょう。
練習の中の一分一秒一瞬の再発見こそ、いい走りを体現するための第一歩です。
その瞬間を感じられるように、日々の繰り返しの中で意識していきましょう。


付け焼刃のスピード?

日本の練習スタイルに関しては、スピードに理解を示されないことがほとんどです。
『付け焼刃のスピード』とよく言われるように、スピードランナーが出した記録は安定性がないから信用性がないというものです。
果たしてそうでしょうか。
スタミナランナーは走り込んで作られたように考えられます。そして一定のタイムをコンスタントに出していきます。しかし同じ量から同じタイムという選手がほとんどです。ある一定の伸びを示している選手が注目を浴び、こなしている練習量に目が行き、多くの選手がそこに挑まされます。そして日本の長距離選手というのは駅伝文化から掃いて捨てるほどいるので、多くの失敗した選手に目が向けられることはありません。
スピードランナーの方が養成が難しく、多くの選手を作れないのですが、それを『才能』という言葉で片付けている現状があるからでしょう。確かにスプリントに関して『才能』大きな要素です。しかしそれは同時に長距離・中距離に関しても同じように言えることです。『才能』がないで片付けてしまうのは間違っています。そしてスピードがないからスタミナ(距離走)の練習を行うことが最善ということはさらに間違った考え方です。
スピードからのアプローチが難しいことは、設定する距離・タイム・場所・休息・期間その他多くのことを個人に合わせて行わなければならないからです。チームや教育で動く日本のスタイルでは個々に合わせるということは難しいでしょう。しかしそれを行わなければいつまでたっても現状から抜け出すことはできません。
従来通り距離を積み重ね、怪我をし、それを我慢して生き残ったものがチャンピオンになれる…武道の世界の考え方では走りで世界に通用する選手は排出できないということです。
個の力を最大限に生かす方法論、これはスプリント界における一つ一つの動きの課題を個人で解決していく方法に学ぶべきであり、そうしたスピードトレーニングで強い選手を排出すべき時代になっていると思います。

付け焼刃のスピード(不安定な力)を鋼のスピード(強くぶれない力)にするには、低速の走り込みではなく、動作の定着と走りのリズムそして速さを反復して固定化する練習こそ本物ではないかと考えます。


コーチ・選手・トレーナー

指導者は個々にあった練習に関して、細かく分析できる力と選手の声に耳を傾けられる度量が求められます。
選手に関しては、自分の感覚をより正確に把握し修正できる感性を持つこと、そして現在の感覚を自信を持って発言できる心の強さを持つことが求められると思います。
そして選手とコーチをつなぐトレーナーに関しては、練習における選手の変化を敏感に感じ取りその意見を練習にまで反映させる信頼を掴むことで多くの不明確な部分をクリアに出来るのではないかと考えます。



オーバートレーニングの中でのスポット(はまる)の発見

多くの選手が力(筋力・循環器系)を最大限に使って走り込みをこなしたことが多々あると思います。またその状態を年中続けていることも珍しくないと思います。
こうした状態の中で、『はまる』感覚(体が楽に自然に速く進む感覚)を得ることができればどのような環境でも対応できるのではないかと考えました。
またその状態で『はまる』をコントロールできることは長い距離のレース中に自分の動きを修正する能力につながると思います。

この点に関してこれから研究していきます。
海外式の練習方法をそのまま私たちの練習に持ち込むことは環境・文化・メンタル等の側面から難しいと思います。新しい練習方法の発見に繋がるように調査・研究していきます。