1983春
何か物音が聞こえる。数学Ⅱの授業中だというのに。
どうやら隣の席の男らしい。どことなく柔らかなワイシャツの着こなし。
いやワイシャツではない、よく見ると色が違う。僕らの着ているポリエス
テル素材ではなく綿の風合が覗える。その袖口から細いコード、その先
にイヤホンが。音楽を聴いているのか・・・、いや膝の上にはキーボード
が、よく見ると演奏しているではないか・・・!驚いた。授業中にシンセサ
イザーを使って作曲しているとは。男の名は沢木、今まであまり話した
ことはなかったが、あまりの驚愕で興奮していたのか、矢継ぎ早に質問
攻め、自己紹介、音楽の遍歴と、すっかり打ち解けてしまった。
平日夜10時からのFMサウンドストリートのファンであること。中でも火
曜の坂本龍一は欠かさずエアチェックしていた。水曜の渋谷陽一や月
曜の佐野元春で社会勉強して、火曜のシブリク(渋いリクエスト特集)
やデモテープ特集に胸を躍らせていた。いつしか彼特有の変拍子的
つっかえトークが癖になり、なんとも言えない愛着が生まれていった。
学校の成績は下落の一途を辿り、親には不条理そのものの反抗期ト
ークを浴びせていた。そんな14歳男子にとって唯一のユートピアが、
火曜の夜だったのだ。そして今日、音楽の話で盛り上がれる朋友を見
つけてしまった。このことをきっかけに、憂鬱な日々が輝ける日々に一
変してしまったのだ。ありがとう・・・ ・・・ ・・・

