「バチン!!」
ジムに鈍い音が響いた
その後も色々な音が聞こえた
そして
「それはただの逃げだろう!!」
会長の怒号がジム内に響いた
誠は怖くて更衣室からジム内を見た
会長に殴られ、蹴られて顔面が変形して、正座して叱責を受けている進之介の姿が見えた
今の時代、このまま家に帰ったら親も心配するであろう
しかし、男子はあまり母親に自分の弱いところを見せたくはない
いや、母親だけでなく家族には心配かけたくない、情けないところは見せようとしない
進之介も誠たちもまだまだ視野が狭く、小さい世界の中で生きていた
この後、進之介は家に帰っても、
「今日のスパーリングは激しかった」
としか言わないだろう
音楽系の習い事で顔がボコボコになることはないが、ボクシングジムでは、顔がボコボコになっても、不思議がられることはない
全国、全世界の保護者に伝えたい
自分の子どものわずかな変化を見逃さないでほしい
子どもはみんな、弱音を吐いたり、悩みを話したりしないことを
でも親が
「何があったの?」
と聞いても答えないと思う
そんな時は、
「何かあったか知らないが、いつでも助ける準備はできてる
私はあなたを守るために全力を尽くす
だから、話せるときになったら話して」
そう言うだけでいい
あとは見守っていくことに徹する
親の言葉を表面上はうっとおしがるかもしれないが、子どもはそう言われたことはいつまでも心に残っているものである
また子どもの絶望な孤独感も薄らいでいくであろう
自ら命を絶つ直前でそれを思い出すはず
進之介の姿を見て、誠は自分もこの大会が終わったらジムを辞めたいと言えなくなった
進之介は、準決勝で負けてその日を最後にジムに来なくなった
勘吉は準決勝を勝ち、決勝に駒を進めた
ここまでで中条ジムの選手で残っているのは、勘吉と誠、そして誠と戦う田所の3人であった