ジムでは、同じ高校で1つ上の学年の少しクールな小塚先輩、別の高校で1つ上の森影先輩という手本となる尊敬する先輩がいた。



誠や勘吉と同い年だが、誠と違って高校1年からジムに入っている田所という選手もいた。その田所は、誠や勘吉よりも1年早くジムに入門していたので、ボクシングの技術やレベルは格段に上だった。

ちなみに田所は、森影先輩と同じ天風(てんぷう)高校だった。



そして、誠と勘吉の入門と同時期にジムに入った進之介がいた。誠と勘吉と進之介は同い年ということもあり、一緒に練習をして仲良くなっていった。



小塚先輩や森影先輩、田所は、誠と勘吉、進之介にとっては手の届かない存在であった。



誠がジムに入門して、半年が経った位に会長から今度スパーリング大会があるから、そこで初めてのスパーリングをしてみるかと言われた。



スパーリングとは実践形式の練習試合である。



試合よりも分厚いヘッドギアと分厚いグローブをつけて、対戦相手と戦う実践になるので、ボクシングの練習にとっては欠かせない練習だ。



そのスパーリング大会まで誠と勘吉は、進之介とともに練習に励んだ。


実際、人と殴り合うのってどんな感じなのだろう?


誠は想像がつかなかった。


子供の頃に友達と殴り合いはしたことはあったが、あんな感じなのだろうか。




そしてある日、ジム内でスパーリング大会が行われた。



そのスパーリング大会では、誠のジム以外からの参加者もいた。


いろいろなジムが若手選手の育成のために選手を連れて集ってきた。



第一試合目は勘吉の試合だった。勘吉の相手は中学3年生の子だった。


しかし、小さな頃からボクシングをしていて手数が多くとても強い子だった。


勘吉はその中学生と3分2ラウンドのスパーリングをした。中学生も上手だったが、勘吉もボクシング経験者であったので、互角で良い試合であった。


勘吉は何よりもこの日を目指して練習を積んできた。



第二試合は誠の試合であった。


誠の相手は、隣の県のジムからの参加であった。


3分2ラウンド、たかが6分の戦いである。


しかし誠は1ラウンドの半分位で体力を消耗しきってしまった。


まるで水の中で溺れるような感覚だった。


息苦しく手も上がらない。パンチも出せない。足も動かない。



誠は対戦相手にめった打ちにされた。


試合は、結局3分2ラウンドではなくて、途中でストップがかかった。リングから降りた時はその場に倒れこみそうになった。


しかしそこで倒れると会長に殴られるかもしれないと思い、踏みとどまったが誠はフラフラであった。


人を殴ること、そして人から殴られること。


これがこんなにも疲れるとは夢にも思わなかった。


今、思うと昔していた友達との殴り合いのケンカは数秒間だったと思い知らされた。


よく漫画で戦いのシーンが出てくるが、あれは本当に漫画であって、現実ではない。


手を出して戦うとことの大変さを誠は痛感した。



よくテレビ番組で素人の喧嘩自慢がプロの格闘家に挑んで一方的にボコボコにされるのを見かけることがある。


誠はボクシング を経験するまでそれがわからなかった。


毎日練習しているものと、ただの喧嘩自慢では全く次元が違う事をしった。



そして、勘吉は戦い切ったのに、自分は途中で止められてしまった情けなさが残った。