わりにはなかなかやる | 大嫂のブログ

大嫂のブログ

ブログの説明を入力します。


「どうしたっ! 武田の兵など大したことねえじゃねえか!」
「こしゃばってんじゃねえ!」
 と、一騎、内蔵助の悪たれ口に憤怒しながら突っ込んできて、槍を叩き落としてきた。内蔵助は身を傾けて怒涛の槍を受け流すと、自らの槍を横に一閃し、甲州武者の頭部を狙い打った。が、相手はさすが武田の馬上の男で、交わされた槍をすぐさま振り上げてきて、内蔵助の槍を払い退けた。
 内蔵助は手にしびれを覚えながらも、ぐっと握り返し、瞳孔をぎらつかせて殺気だっている男に構えを直しながら、にたりと笑みを浮かべる。
「山猿のわりにはなかなかやるじゃねえか。名を名乗ってみろ。いくさ土産にしてやる」
「調子ずくんじゃねえっ!」
 怒りの甲州武者は槍を無数に突き立ててき、さらに周りの武田足軽たちも狩りたてるように襲いかかってきて、内蔵助は槍先を防ぐのが精一杯となった。がなり声をあげながら迫ってくる武田連中の攻撃をこらえているうち、内蔵助も鬱憤が溜まってきて、最初は自分から挑発したくせに激怒した。
「鬱陶しいんじゃあっ! コラあっつ!」
 滅多やたらに槍を振り回し、見境もうしなって、野獣の雄叫びを上げていく内蔵助。槍の打ち合いというよりも、人馬と兵卒たちが揉み合うような状態となり、内蔵助の援護にあとから突入してきた簗田隊が足軽たちを蹴散らしていき、
「撃てえっ!」http://www.watchsrapid.com
時計 人気 メンズ
腕時計 ランキング メンズ
 いつまでも苦闘している内蔵助に成り代わって、左衛門太郎の激が武田武者を銃弾の的にした。
 絶命し、鞍から落ちていった甲州武者を、内蔵助はしばらく肩で息を切らしながら見つめていたが、邪魔に入ってきた者が太郎だと知ると、細切りの瞼を吊り上げて睨みつけた。
「しゃしゃり出てくるんじゃねえ、小僧」
 太郎は内蔵助に向ける眼差しに怒気をはらませる。
「恐れながら、馬鹿の一つ覚えのように突っ込んでいって勝利が得られましょうか。命を無駄に投げ打つ場面ではありませんぞ」
「馬鹿で結構! 死んだら死んだでそれまでよ!」
 内蔵助は大槍を握り直すと、手綱を引いて馬を奮い立たせた。
「俺の背中でも眺めて能書き垂れていろ!」
 黒母衣を流しながら、再度、斬りかかっていった内蔵助の後ろ姿に、太郎は呆れたような笑みを浮かべると、槍を振り上げ、
「我らも遅れを取るなっ! 本陣はすぐ目の前だぞっ!」
 兵卒たちから上がった喚声とともに、黒連雀の腹を蹴り込んだ。

お前らは夢を見ているか(3)

 夜明けより始まった決戦は、稀に見る長時間の死闘であった。
 そして、雌雄は決した。柵外に全軍躍り出てきた連合軍の勢いに、武田軍は防戦一方であり、かすかな勝利の道筋さえ見当たらない絶望のときが歩み寄ってきていた。
 押し寄せてくる連合軍の大兵力を間近にして、才ノ神本陣は将校あわてふためく騒乱の渦と化し、当初は何ら進言をすることのなかった連中も、このときばかりは大膳に次々と詰め寄り、全軍退却の指示を放つよう訴えた。
 床几に腰を据える大膳は、目を閉じている。佐久間右衛門尉の寝返りなど、この状況ではもっての他、上総介にまんまとしてやられた挙句に、大勢の死者を出してしまったことに後悔の念しか湧かず、かといってどんな言葉を発しても、惨めな己をよりいっそう惨めにしていくように思われ、無表情でいることがせめてもの抵抗であった。
「おやかた様」
 長坂釣閑斎が言った。
「このままでは本陣を急襲されてしまいまする。後詰の穴山隊を当て、その間、我々は退きましょう」
 大膳は目をつむったまま、何もこたえない。
「おやかた様っ! おやかた様が討たれては武田は終わりです!」
 このときほど武田の二文字が重く感じたことはなかった。ま