奈良県の秘湯に洞川温泉があります。そこに川魚を焼く魚屋さんがあります。ここのご主人、ひたすら鮎やアマゴなどの川魚の塩焼きをしては、お客さんに出していました。
数十年前は、鮎・イワナ・あまごを500円で出していました。今は鮎が550円、イワナとあまごは600円になりました。私たちは二尾注文しました。ところが、海の魚の煮付けや内臓の焼き物、塩辛など小さな皿にてんこ盛りの小物が5種類程度出てきます。「これ注文してないんですけど。」ご主人、「これはサービス」飲み屋で注文したら一皿500円はするような小物です。
今日訪れたときは、十数人の行列ができており、てんわやんわの大忙しです。このお店には注目していました。やはりご主人の魚に対する心意気やおもてなしの気持ちは、今も一つも変わっていません。どんなに忙しくてもひたすら魚を焼いています。動きに無駄がありません。お魚の在庫はすぐに尽きてしまい、問屋から新しい食材を満載した車が到着。そして、おじさんはまた黙々と魚を焼きます。今は、忙しさのあまり、以前のようなサービスはできなくなりました。それでも、以前のようなおもてなしをしたいのでしょう。どれだけ繁盛しても、当時のおもてなしの精神はおじさんの背中に見てとれました。
待ちに待った子持ち鮎。体の三分の一が卵です。ふわふわです。焼き加減といい、骨までの柔らかさといい絶品。昨日の坂本小屋の静けさとは対象に、時間はめまぐるしく動き回ります。
お婆さんの鯖寿司。六個で850円です。ふわっと握ったご飯に鯖が載っているシンプルな物。無限に食べそうなので、。二人で六個と決めて食べました。
洞川温泉の街並み。数十年前と変わりません。日も暮れて提灯に灯が点ると、昼とは全く別世界になります。十数年前の平日、閑散としていましたが、今は観光客の多いこと。静かな風景を撮るのが一工夫でした。
洞川と言えば、やはり竜泉寺に向かわなければ。開祖役行者様が池の中央に鎮座。龍から水がしたたっています。かって冬に訪れたとき、龍の口が凍っていました。その中を水垢離をする行者さん達。人々を救うために修行をされているのでした。
本堂には弥勒菩薩が本尊として祭られています。この弥勒さん、シルクロードを通ってここまでお出ましになられた出で立ちをしています。微笑んでいらっゃるのは、アルカイックスマイル。砂漠を越え草原を越え、海を渡り、紀伊半島の大峰の山の中まで。人々の救済のため。
昨日から今日まで食べすぎたので陀羅尼助を買いました。前鬼と後鬼が薬を守っています。もともと行者さんは修行を通して験力を得て、人々を癒すことでした。そして、大峰では陀羅尼助が、御嶽では百草丸など、和漢薬が作られました。
昨日からのフードハントの仕上げは、洞川温泉です。令和6年に新装リニューアルされて、綺麗な温泉棟に生まれ変わりました。泉質は変わらずまろやかないいお湯です。ここは熊野から来ても、吉野から来ても中間地点でまさに秘湯です。
湯上がりにごろごろ水を飲みました。近くには鍾乳洞があり、ここから湧き出る日本の水百選です。まろやかなことこのうえなし。
追記
このお魚屋さんは亀清と言います。その対面したお店が名水豆腐。ゴロゴロ水で作った豆腐。口に含むと溶けます。豆腐なのか水なのか。水自体が超軟水なので水なのか豆腐なのか限界がありません。お味は豆腐そのままでいけます。あえて言うなら溜まりを垂らす程度。大豆のうま味の固まりです。
もともと洞川は前鬼に対して後鬼。洞川の集落からは山上ヶ岳が見えており、修験道の行者さんたちを受け入れてきました。山上には蔵王堂があります。役行者が乱れた世を救うために金剛蔵王大権現を祈りだした聖地です。
洞川には橋が架かっています。その下にはニジマスの大群が泳いでいます。中には50cmもあるような大物も。だれもそれを漁る人はいません。そんな人々の優しさが、この自然を守り孤高のお料理を産み出しているのでしょう。
修験の聖地はグルメの聖地でもありました。
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