紀伊半島の中央には東西にまっすぐに流れる二つの川があります。台高山脈の分水嶺を境に西は紀ノ川が大阪湾に、東は櫛田川が伊勢湾に流れています。櫛田川には正月に左義長を焼くどんど火の行事があります。
深野のどんど火は高さが8mあり、この地方では最大の物です。今から70年ほど前、中学生が山からホタを運び出して河川敷に積み上げどんどを作りました。完成したどんどは他の地区のどんどを壊しに行きます。壊しに行く役目をする者と、どんどを守る者。どんど火前日はその激しい攻防が繰り広げられました。どんどを壊されたもののしょげた表情。無事守り抜いた者の精悍な顔。中学生は河原に穴を掘り、火をたいてトタンで屋根を造り寝ずの番をします。中学生達の顔は焼けた炭で真っ黒けです。70年経ち、中学生達は古老となり、もうそのお顔を見ることはできなくなった方もいらつしゃします。他の地区のどんどを壊しに行くような強者もいなくなりました。
午前六時に火がつけられると乾いた笹の葉が爆発的に燃えます。先端につけられた幣が一気に燃え尽きると豊作になると言います。表面が燃え尽きるとやがてホタに火がつき、焼けた竹がビューンパンと大砲を撃ったように爆発し、香肌の幾筋に刻まれた渓谷にこだまします。焼けた石で餅を焼くとその年は健康に暮らせるとか。遠赤外線で焼いた餅は甘くなります。家に帰ると焼け焦げた笹の葉が庭にいっぱい落ちていました。これが落ちるといいことがありそうです。このどんど火を見た方々にも今年、いっぱいいいことがありますように。
今朝焚かれたどんど火の動画です。約3分にまとめました。見てね!