今夜は仲秋の名月でしかも満月です。仲秋の名月というと満月なのかと思いきや必ずしもそうではありません。次の機会は七年後なので、今夜は満月の名月を惜しみなく愛でましょう。今、山の端から出たばかりです。檜の林が写っています。
月は山の端からどんどん高くなっていきます。動画で撮ると何と早く動いていくことでしょう。昔は、お団子や秋に撮れるサツマイモなどの収穫物にススキを添えて名月に備えました。小さい頃、お備えをしているとお月様がすごく大きくなってきて、ここまで降りてきそうに見えたことがありました。
松尾芭蕉の俳句にこんな一句があります。
名月や 池をめぐりて 夜もすがら
この日、芭蕉庵では門人達と句会が催されました。「古池や 蛙飛び込む 池の音」で詠まれたあの池です。お月様が池に映り、まことに綺麗です。芭蕉はその美しさに無我夢中で池を一晩中巡っていたら夜が明けてしまった。そんな一句です。江戸時代、街灯はありません。漆黒の闇です。空気も澄んでいます。秋なので大気も成層圏まで登ってくるので空自体が高く見え、お月様もひときわ美しく見えます。今夜は風もなく池の水面も凪いで鏡のようだったのでしょう。もう芭蕉は、うきうきわくわくで我を忘れてお月様に魅入ってしまったのでしょう。
それにしてもご近所もどの家を見てもお月様を見ている方はいないようです。家の中ではテレビなのか、ゲームなのか楽しいことは部屋の中でいっぱいあります。でも、一歩外に出たらこんなに美しい名月が見えるのに。
この芭蕉ですが、奥の細道の旅に出るまでは、三重県の藤堂藩の家臣で、江戸に出て普請番をしていました。今で言えば、公共工事の総元締めのような役割です。根っからのお役人様。江戸の神田上水など、大正時代まで使われていた水道施設を整備した人です。俳聖と言われた芭蕉さん。役目を終えて自分の好きな侘び寂びの世界に浸って、風流三昧。よく考えれば、芭蕉という人物はあるときはお役人、あるときは幕府の隠密、またあるときは俳人と様々な顔をお持ちです。それはそれとして、今夜はこの一句にお月様をゆっくり見たいものです。
1分間の動画にしてみました。前半に何やら右から左に飛んでいきます。鳥なのかコウモリなのか。