世界遺産紀伊半島の霊場と参詣径の熊野三山 那智大社と青岸渡寺をめぐる | バイカルアザラシのnicoチャンネル

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 サイコロジストの日常と非日常を季節の移ろいを交えて描いています。バイカルアザラシのnicoちゃんの独り言です。聞き流してください。

 世界遺産紀伊半島の霊場と参詣径の熊野三山を巡る旅、今回は那智大社です。これは大門坂の一畳。右には九十九王子の最後の多富気王子があります。ここから登ると那智大社です。

 

 那智大社からホテル浦島へ。本館からのトワイライト。漁船が出航していきました。

 

 夜明けは狼煙山へ。展望台からは広々とした熊野灘を見渡せます。

 

 狼煙山展望台からの眺望。那智勝浦漁港が眼下に見えます。

 

 二日目は補陀洛山寺に来ました。境内は地上にはいでたばかりの蝉がいます。孵化したばかりでまだ飛べません。

 

 昼食はマグロ三昧で定食をいただきました。どれも美味です。

 

 

この画像をクリックすると動画になります。10分にまとめました。

 

 世界遺産紀伊半島の霊場と参詣径の熊野三山の那智大社に来ました。大門坂という長い石段を上っていきます。入り口には娚杉があります。底を過ぎると多富気王子があります。熊野には九十九王子という祠があり、那智大社までの最後の王子。夏の強い日差しの中、大樹に守られて木漏れ日が差して、日差しは優しい。途中にはベンチがあり、そこからは那智の大滝が見えます。
 大門坂の杉並木に助けられてほどなく那智大社の参道に着きました。それでも気温は三十五℃を超えています。首に巻いたタオルが汗でびっしょりです。朱塗りの社が美しいです。二礼二拍手一拝でお詣りをします。境内には樟があり、下には大きな祠があり、胎内巡りができます。祠をくぐり抜ければ、新しく生まれ変わることができるとか。


 那智大社の下には青岸渡寺があります。観音さんが祭られていて現世の願いを聞いてくださいます。本宮大社の釈迦如来が過去を、速玉大社は弥勒菩薩が未来を救済する仏。熊野三山を巡れば、過去・現在・未来を救ってくださるというありがたい神々です。


 境内からは那智の滝が見えます。落差133mで日本一の高さがあります。インドの僧裸形上人が熊野の地に着いて、滝でお祈りをしていると観音菩薩がお出ましになられました。それを彫ったのが小さな観音像。青岸渡寺の始まりです。滝が流れる轟音の中に熊野灘の海鳴りが聞こえることがあります。そんなことが実際にあるのでしょうか。西国三十三ヵ所御詠歌に、

 

 補陀落や 岸打つ波は 三熊野の 那智のお山に響く 滝津瀬

 

 観音菩薩がいまします浄土で、海浜に寄せては打ち寄る波のように多くの参拝者で那智・新宮・本宮が賑わっている。那智の大滝の轟く音と参拝者達の読経の声がお山に響き渡る。「蟻の熊野詣}と言われるように日本全国から多くの参拝者がここを訪れました。西国三十三ヵ所御詠歌の第一番に列せられてるのは大きな意味があるのでしょう。 


 この日の宿泊地はホテル浦島。夕食はバイキングで豪華でした。ここは本館、渚館、日昇館、山上館と四つの巨大ホテルの集合体。それぞれの館はトンネルで移動します。以前はスペースウォーカーという長いエスカレーターがありましたが、宿泊者の減少で今は止まっています。日本のエスカレーターマニアでは聖地と言われる長いエスカレーターです。


 夕食が終わるともうトワイライトの時刻。漁船が前を通っていきます。これから出港し夜通し漁をするのでしょう。夕食を飾った海鮮は勝浦の海の幸そのものです。ここは浦島なので宿泊客の送迎はカメの船で行います。と言っても私たちはマイクロバスで狼煙山のノンネルを抜けて裏玄関から入りました。本館から見える勝浦の夜景はそんなに豪華ではありません。その代わりに星がよく見えます。当日は星がいくつも流れていました。お月さんも出ていていい感じ。山上館なら眺望が開けているので満天の星だったでしょう。


 ホテル浦島の楽しみは何と言っても洞窟風呂です。玄武洞忘帰洞という巨大な源泉掛け流しの温泉で、玄武洞は炭酸泉で炭酸ガスをゴボゴボと盛んに吹き上げています。ここからは日の出が見えて、夏は5時からの営業開始とともにマストトツーシーです。


 お風呂から上がると狼煙山に登りました。東には山成島が見えます。平維盛は松の木を切り取り辞世の句を詠んでこの海に沈みました。維盛の一句と言えば、やはりこれでしょう。


 生れては つひに死ぬてふ 事のみぞ 定めなき世に 定めありける


 この世に生を受けたら最後は死ぬ。この世にあっては変わることのない物など一つもない。すべては移り変わってしまうのだ。ただこの世に生まれたら必ず死ぬ。この理だけがある。維盛が行き着いた悟りの境地でした。

 

 熊野三山には平家物語で登場する場面が数多くあります。源氏に敗れて平家がいきついた地、熊野。熊野は「隈野 くまの」この世の果て、最果ての地でした。その隣は黄泉の国に繋がっています。平氏でなければ人でないと言われた全盛の時代が過ぎ去り、落人にとってはふさわしい場所だったのかも知れません。そこには観音浄土に繋がる補陀洛山寺もあります。

 

 ホテル浦島のある狼煙山にはこの他、ノルマントン号事件の遭難碑があります。イギリス船が遭難し、船長は25名の日本人を見殺しにしました。舳先に手を着く指の一つひとつを離して海に放り込みました。裁判はイギリスの法律でさばかれ、船長は無罪。こんな理不尽な歴史がここに刻まれています。

 

 近くには西条八十の唱歌が刻まれています。

 

 歌を忘れたカナリアは、うしろの山に捨てましょか。・・・

 

 歌が売れずに極貧の中で暮らしていた八十。カナリアはまさしく彼そのものでした。歌の最後は、

 

 象牙の船に 銀の櫂 月夜の海に浮かべれば 忘れた唄を思い出す

 

と締めくくられています。この歌詞は八十の歌人としての再生あるいは新生を象徴したものなのでしょう。

 

 この狼煙山には展望台があり先端からの眺望は素晴らしいです。何と岬が同じ方向に並んでいます。太平洋プレートからの巨大な圧を受けて、岩盤が圧縮されて玄武岩が南東方向にせり出しているのです。朝食はバイキングです。どれも美味しい。朝起きたらすぐに玄武洞で一風呂浴びて狼煙山でお稲荷さんに参拝して、朝から大忙しでした。ホテル浦島と言えば、玄武洞や忘帰洞などの洞窟風呂で温泉三昧、夕食はマグロ三昧の楽しみがあるのですが、狼煙山に登れば、ちょっとしたツアーができると思います。


 朝食をとり、忘帰洞でもう一風呂浴びてチェックアウトを済ませました。次の行き先は、補陀洛山寺。この寺はサンスクリット語でポータラカ、観音浄土を表すお寺です。ご本尊は十一面観音菩薩です。年に三回御開帳されています。立像の随分お美しい仏様です。境内には四方鳥居で囲まれた渡海船が展示されています。ここの住職が還暦を迎えると三十日分の水と食と食料を積んで観音浄土に向けて帰らぬ旅に出ます。渡海した上人達に葛藤はなかったのでしょうか。補陀洛山寺に生まれたばかりに、六十で渡海しなければならない。生きたまま密閉された船に乗せられて死の旅路に出る。渡海船は戦乱でこの世が苦しみそのものであった時代精神を表した信仰なのでしょう。人は苦しければ苦しいほど、観音浄土に憧れを持ちました。作家井上靖は「補陀落渡海記」で渡海僧の葛藤を見事に描いています。

 

 境内の木に孵化したばかりの蝉がいます。まだ飛ぶこともできません。やがて鳴き出しました。蝉の声は境内に響き渡り、この世のすべてが移り変わり、何一つ不易な物がないことを気づかせてくれます。これほど蝉の声が無常を感じさせる瞬間はありません。


 昼食はマグロ三昧。お店の名前もマグロ三昧。見ての通り、厚切りのお刺身、味噌汁、マグロのカツ揚げ、煮物とマクロ三昧でした。勝浦はやはりマグロの街です。無人市場があり、300円でマグロの造りが売られています。街で買えば倍はするお値段。お味はもちろん絶品です。せっかく浦島にきたのに忙しい旅でした。また来るなら今度は浦島で温泉三昧だけでのんびりまったりと過ごしたいです。