1980年に東映が公開した「二百三高地」が年2月19日(日)まで YouTubeで無料で見えるらしい。東映シアターの登録者が二十万人を超えた記念版。
明治政府は南下政策を採っていたロシアと対峙することになる。このまま放置しておけば、朝鮮半島や北海道まで版図が広げられようとしていた。開戦か外交が、独立して間もない日本は、決断を迫られていた。しかし、明治天皇はロシア皇帝と外交での決着を望まれたが、もはや戦況は切迫を極めていた。政府が下した決断は早期決戦。日露戦争が始まる。地上戦では乃木希典が指揮する二百三高地が、海戦ではバルチック艦隊を打ち破った東郷平八郎が指揮する日本海海戦が勝敗を決した。
仲代達矢、森繁久弥、三船敏郎、あおい輝彦など、往年の名優が伊藤博文や乃木希典を演じる。仲代達矢が演じた乃木希典は映画史上の金字塔になった。乃木大将は息子を戦地で亡くしている。大将は明治天皇が崩御され御大葬の日に、静子夫人とともに自刀された。後に、乃木は軍神として今は、乃木神社に祭られている。神道では神は人なのだろう。ちなみに港区赤坂のある幽霊坂という地名は乃木坂に改名された。
この映画は戦争を美化したと批判され、公開することもはばかられた時代があった。「防人の詩」を作曲したさだまさしは右翼だと言われたこともある。しかし、全編をよく見れば、決して美化している作品でないことは明白。最前線の中で生きるか死ぬしかない。国家がどんな大義名分を持とうとも、戦場では死して逝くか、生きて返るか。
今ロシアは、ウクライナを兄弟だとして一つの国にするため侵攻している。しかし、現地でやっていることは大量虐殺と拷問。ウラジオストクとは、東を支配せよという意味の地名。ウクライナが負けるようなことがあれば、次は東アジアが危ない。ロシアの南下政策は静かに進んでいるとも言える。この戦争でロシアが勝つようなことがあれば、二十一世紀という百年間は、武力による拡張主義と専制政治の時代に逆戻りする。私たちは、何を決断し、どう実行するのか。それは、私たちの生命や財産、そして、生活に直接降りかかってくることなのだ。
戦争がいかに人を傷つけ破壊するのか。その悲惨さと平和に暮らすことの大切さがこの作品からは余すことなく伝わってくる。この作品を見て反対したり批判したくなるのは人それぞれ。しかし、一つのシーンごとに見ていけば、監督や脚本家が描き伝えたかったことが、まだ見たことのない地平が見えてくる気がした。映像から言えば、今の技術の方が遙かに勝っているのに、伝わってくる迫力は、演技力ではるかに凌駕している。ワンシーン毎に映画の醍醐味が味わえる作品。
