ウクライナからのカード 今と昔 | バイカルアザラシのnicoチャンネル

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 サイコロジストの日常と非日常を季節の移ろいを交えて描いています。バイカルアザラシのnicoちゃんの独り言です。聞き流してください。

 ウクライナがまだソビエト連邦だった頃、アマチュア無線ハルキウの人と話をしました。日本からは最も近いヨーロッパなので電波がよく届きます。QSLカードという交信をしたという証明のカードもいただきました。久しぶりに電波に出ると「どうしていたのか?」と心配してくれる局もいました。

 

 ハルキウはウクライナの北東部にあり、ソ連の時代には第三の工業都市でした。戦車や航空機、トラクターなどウクライナの基幹産業を支える街です。ウクライナは、ヨーロッパの穀倉と言われ、小麦をはじめトウモロコシを産出する豊かな土地です。もし、ここの穀物が輸出できないとなると多くの国々が飢饉になります。

 

 ウクライナの画像を見ると人々は幸せに暮らしているように見えます。しかし、去年の2月24日、ロシアが軍事侵攻をしてからハルキウの街は廃墟となってしまいました。カードを送ってくれた彼は、今どんな暮らしをしているのでしょう。

 

 あれから彼の声を聞くこともありません。もっとも今は太陽活動が低調で、ヨーロッパ方面は短波帯で繋がることが難しいこともあります。アンテナを北西方向に向けても極東ロシアの局が聞こえているだけで、電波がウラル山脈を越えることはありません。今は、ハルキウの街が停電もしていることと、電波を出すことは格好の攻撃目標になるからなのでしょう。

 

 戦争は世界を変えてしまいます。ソ連から独立しようとしていた国の一つにアゼルバイジャンがいました。独立前にはどうしてか多くのアマチュア無線局が出ていました。カードもいっぱい送ってくれました。特にバクーの街からは油田があることもあって経済的に豊かな人が多く、アマチュア無線が盛んでした。

 

 そのアゼルバイジャンがアルメニアに軍事行動を起こしたことがあります。ロシアは今、ウクライナ戦争で手一杯で他の同盟国に対して抑止力を行使する余裕はないのでしょう。このように考えてくると、イラクやイラン、シリアなどの中東諸国の動向やタリバンが支配するアフガニスタンの動向が気になります。メディアはウクライナ戦争のことは報道しますが、中東やミャンマーの軍事政権の動向を報道することが少なくなってきました。

 

 今は、ウクライナ戦争が注目されていますが、その同盟国やイスラム勢力圏の国々がどんな動きを見せるのか。ロシアやアメリカなどの大国の影響力が薄まる中で、抑止されていた小国が軍事力によって版図を変えようとする動きが起こってきます。世界はより混沌とした様相を呈してきました。

 

 社会主義のソビエト連邦、自由主義のアメリカ合衆国が激しく対立した冷戦時代でもアマチュア無線は盛んに行われていました。私たちも極東のウラジオストクの人たちと毎日のように交信し、アメリカ西海岸の人たちとも話をしていました。立場を越えてアマチュア無線家たちは、言葉を交わし合っていたことが今では不思議です。

 

 冷戦時代と違うのは、そのような民間レベルの交流が遮断されていることです。インターネットが普及して、短波通信のように太陽活動に影響がなくても安定的に電話が繋がり、テレビ会話もできる時代に、とことん人々の交流は遮断されています。冷戦時代の対立の激しさと、アマチュア無線による交流の盛んだっと時代を知る人間にとっては、今の状況は奇異としか言い様がありません。ウクライナからの一枚のカードを見つけて、こんなことを思いました。