夜が明けた。太陽が昇ると青かった田んぼが黄緑になった。穂が垂れている。白猪山には朝霧がかかって見えない。香肌の渓谷にはこのように朝霧が溜まって、低い山の頂が見える。この季節の風景だ。
昨日からの雨で稲穂にはいっぱい水滴がついて朝日に照らされて光っている。今しか見られない光景だ。
一匹の沢ガニがいる。動かない。どうやらここで命が尽きたようだ。浮き草が沢ガニに捧げられた花のように見える。やがて沢ガニは微生物が分解して、土に帰るだろう。沢ガニの体は有機肥料となり、土を肥やす。その土が来年の稲穂を豊かにする。一見残酷にも見える命の循環がここにもある。沢ガニの残骸はいつかどこかの命の材料になる。
一つの赤い巨大な星が最後の時を迎える。星は膨大なガスをまき散らし、超新星爆発を起こす。私たちの体を作ってる炭素や窒素や酸素や水素もみんなこの星の残骸が再び集まってできている。それと同じように一つの星の死は次の星の生に繋がっている。田んぼで行われている命の輪廻とよく似ている。
この季節、花は少ない。オシロイバナだけが緑の中に濃いピンク色で輝いている。夏の日差しのいたずらだ。