川の沿道は一面の菜の花です。いつもは川に泳いでいる大きな鯉も姿がありません。いったいどこに行ったのでしょう。菜の花が咲いているから春と言いたいのですが、とても言えません。春の日差しは厚い雪雲に遮られて、なぜか悲しそうにお日様が西の空に沈もうとしています。こんなに小径は黄色いのに、こんなに小径は青い香りで満たされているのに、春はここに来ていません。
二月の後半なら冬と春の季節のせめぎ合いが見えるのに、春の兆しが見えるのに、どこにも春が見つかりません。気の早いツクシンボがにょきって顔を出していたり、薄青のイヌフグリが咲いていたり、ホトケノザがあるはずなのに。春の野草が地上に芽を出すのをこの寒さが許さないのです。
嘘でもいいから、ここだけ春が来ていると言ってください。ウソでもいいから小さなミツバチが蜜を集めていると言ってください。黄色い菜の花を通り抜けていくのは、冷たい木枯らしだけです。その木枯らしが青い香りを川辺の小径に満たします。
一本の桜の木があります。細枝に花の芽を見つけました。春の兆しはなくても桜は萌えいづる春のためにパワーをため込んでいるのでしょう。春の神が引き金を引くとそのパワーは一気に爆発して、花の季節になるのでしょう。凍てつく大地に秘められたパワー。そこに少しだけ春を見つけました。
画面をクリックすると動画になります。