Go to travelに行くなら、どこに行きますか? Ⅳ 中央アルプス木曽駒ヶ岳と宝剣岳 | バイカルアザラシのnicoチャンネル

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 サイコロジストの日常と非日常を季節の移ろいを交えて描いています。バイカルアザラシのnicoちゃんの独り言です。聞き流してください。

 

 もう長い間行っていません。中央アルプスの木曽駒ヶ岳。駒ヶ岳ロープウエイで山頂駅まで登ると標高2600mの千畳敷です。前日に出て、駒ヶ根の駐車場で車中泊をして、朝一でロープウエイに乗ります。

 

 山頂駅から見る景色はこんな感じ。千畳敷にはホテルがあります。ここに泊まるという方法もありますが、やはり駒ヶ岳のテントサイトを目指します。薄い一枚のテントウォールからはアルプスの自然をそのまま体に感じることができる。天候が悪化すれば、危険が直接襲うこともあります。死の淵の恐怖が体に入り込んできます。でも、この天候ならきっといいことずくめだと。その気持ちがこのあと厳しい状況に置かれることは、まだ分かっていませんでした。穏やかな美しい景色、油断すれば山の顔は激変することがあります。

 

 

 

 千畳敷カールは高山植物のお花畑です。薄紅の花びらが朝露を含んでしっとりぬれています。コマクサと名前の通り、馬の頭に似た花。花言葉は、高嶺の花です。

 

 チングルマは花の季節が終わっていました。れっきとした木です。どう見ても草に見えますが、これでも10年は経っています。この大きさなら大樹です。

 

 名前の通りクロユリ。バイケイ草などに隠れてひっそりと咲いています。山頂駅のお土産で球根が売られていますが、栽培に成功したことがありません。やはりここでしか育たないのか。花の大きさは1cm位です。

 

 稜線にまで出ました。ミヤマウスユキソウ、日本版のエーデルワイスです。空気中の湿気を集めて綿のような花びらから水を得ようとしています。やっと逢うことが出来ました。これに逢いにここまで来たのですから。高山植物の多くは氷河期を越えてきた者達です。ここでしか咲けない、ここでしか生きられない花々です。千畳敷カールの高山植物は何とも形容する言葉がありません。美しい、可憐、清楚、麗し、高貴、あらゆる言葉を陳腐にしてしまいます。だから無心にいつまでも眺めています。それは様々な気候変動に耐えて、ここで今、咲いていることへの敬意なのかも知れません。言葉にすればすべてがつまらなくなってしまいます。

 

 どんどん登山道を登って標高をかせぐと、どこかで見たシルエットがはるか彼方に覗いています。富士山です。どこから見ても端正な形をしています。深田久弥は「日本百名山」でこれを「大いなる通俗」と呼びました。江戸時代以前は女性を立ち入らせない女人禁制の山でした。最初に登った女性は芸妓さんでした。先駆者という者はいつの時代にもいらっしゃるものですね。

 

 この日は駒ヶ岳直下のテントサイトに泊まりました。テントなんかで寝る人は少ないだろうと高をくくっていたら、早くも満杯。雪渓の近くにしか場所がありません。夜は温度も一桁台。9℃です。三日月が出ていて満天の星です。強風が吹き荒れています。どこまでも透き通った空。面倒なのでシュラフを車に置いてきたのを後悔しました。夜が明けるまでテントの中でザックの上で体を丸めてぶるぶる震えていました。朝日が昇ると宝剣岳に旗雲が架かっています。なのに東の空は真っ赤です。真っ白な巨大な雲のカーテンが掛かりました。太陽が見え隠れします。純白の雲のカーテンに後光が見えます。グロッケン現象です。

 

 日が昇ると純白の雲のカーテンは消えました。宝剣岳山頂からの眼下の眺め。駒ヶ岳ロープウエイの山頂駅が小さく見えます。冬、ここからスノーボードで滑降する強者がいると聞きました。滑降すると言うよりもこれなら落下するイメージでしょう。怪我もしないと言います。きっと多分化け物でしょう。

 

 夏の千畳敷のお花畑もいいと思います。山頂駅ホテルも一度泊まってみたいものです。どんな夏空が見えるのでしようか。今度テント泊をするなら夏用シュラフは必須です。地上が35℃の猛暑日でも、山頂の夜の温度は一桁になります。結局、寒さで一睡も出来ず、透き通った満天の夜空とテントが揺れる風の音を聞いていました。ちょっと油断すれば自然は人間をお仕置きします。ここは2900mの高山なのです。

 

 この季節、どこか行きたくなります。今はひたすら籠もって感染症から身を守るしかないのでしょうか。多分行きたい気持ちは抑えない方がいいのではないでしようか。行きたい気持ちは大いに出して、言葉にすると、いや、ますます行きたくなります。困った物です。秋は紅葉がまた美しくなります。秋にテント泊でバリエーションルートから登ってしまうおうか。山頂は雪の季節が始まります。秋山のアルプスは、テント泊なら冬の装備が必要です。