桜坂を登っていくと | バイカルアザラシのnicoチャンネル

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 サイコロジストの日常と非日常を季節の移ろいを交えて描いています。バイカルアザラシのnicoちゃんの独り言です。聞き流してください。

 台風で路線が流されて6年ぶりに再会した名松線に乗ってみました。どこを見ても緑ばかり。森の中をひたすらのんびり汽車が通り抜けていきます。

 

 終着駅はどの路線にもあるものです。名松線は松阪から名張までの路線です。ところが、名古屋と松阪と間違えて乗ったお客が大量に途中下車していきました。ひなびた伊勢奥津が終着駅。

 

 おばさんに呼び止められて今日はアマゴを焼いているとのこと。テントに入れば、400円でアマゴが食べられます。肉厚でお味は最高でした。

 

 伊勢奥津駅から電動自転車を借りて、三多気の桜を見に行きました。桜の季節なら、薄紅色に覆われて、多くの人が桜坂を登っていきます。今は、緑の季節、こんなところ誰も来やしません。

 

 茅葺き屋根も緑に包まれてあたりはひっそり閑としています。この電動自転車、上り坂もすいすい上がってこれます。地元の人たちが無料で貸し出しをしています。これなら伊勢奥津駅を中心に10km圏内はサイクリングできそうです。

 

 桜坂には蔵王権現が祭られています。修験道の開祖役行者が祈り出した仏様です。それを桜の木に刻んだので、今でも桜の木は蔵王権現の神木になっています。桜坂の桜はすべて蔵王権現様に捧げられた物です。樹齢数百年のケヤキが楼門を囲むように左右に生えています。

 

 桜坂にある一本の山桜。幹がありません。皮だけで立っています。なのに枝からは桜の葉っぱが元気に出て、桜の季節には花びらを満開につけていたのでしょう。幹は完全に腐ってなくなり空洞になっています。なぜ倒れないのか不思議なくらい微妙なバランスの上に立っています。その空洞の中にさえ生気がみなぎり桜の強い意志が見る者に迫力感を持って迫ってきます。

 

 廃線の危機を何度もくぐり抜けて、奇跡の復活をした名松線。映画ウッドジョブの舞台です。ここには日本のふるさとがあります。何にもないと言えば何にもありません。でも、何にもないところで何かを見つけて発見するという面白さがあるような気がしました。何にもないと思うのは、実は自分に見つける力がなかったのだと気づきました。そこに行けば、あるはあるはで豊かさをどんどん見つけられます。美しい風景も、美味しい食材も、人々の優しさも。一日、真新しい電動自転車を無料で貸してくださる所って日本全国ここしかないでしょう。ここは時間が優しく静かに流れます。そんな時間の流れに一日浸っていたら、新しい自分を発見できたような気がした旅でした。