以前「厚く握るとトップスピン その2」のなかで、グリップを「厚く」握ることの目的の1つとして、ラケット面をかぶせやすくなる、ということをお話ししたことがあります。
ただ、スウィングスピードの遅いアマチュアがやると失敗しますよ、というところで話をまとめたのです。
で今回、Yahoo!知恵袋で次のような質問が次々と立っています。
僕も、最初の質問にちょっとだけ答えました。
ナダルのラケット面を前傾させている画像を付けて。
「まあまあ、そんな、ケンカせんと、一つ一つ詰めていけば?」
っていうふうな意味合いで言ったつもりだったのですが、お気に召さなかったらしく(笑)。
「は?ケンカじゃないですけど?」
って、けんか腰に怒られました(笑)。
長州小力かと思いました(笑)。
1つ目の質問者である teni05oyaji さん、過去の回答を見てもらえると分かりますが、かなりクセがあります。
まあ、なんというか──うーん……めんどくさいヤなやつ?(笑)。
どんだけ打てる人なのか分からないので、何とも言えませんが、これまでの回答を読むと、少なくとも文章力は無い(笑)。
今回の質問も、分からないので質問、と言いながら、自分の意見と違うものには噛みつきまくるという……(笑)。
間違いを指摘する義理もないので、このブログを読んでくださっている方々には、ちゃんと説明をしましょう。
まず結論をいうと、ラケット面を前傾させることでスピン量が上がることは、あり得ます。
難しいのは「あり得る」という言い回ししかできないことですが(笑)。
まず、ボールとラケット面がまっすぐ当たったら、回転がないのは分かりますよね?
で、普段、スピンはどういうふうにかけているかというと、ラケット面を振り上げたり、振り下げたりすることによって、ラケット面の移動方向にボールを回転させる、ということになります。
飛んでくるボールにラケット面を合わせて実験するのはなかなか難しいので、次のようにやってみてください。
1.ボールを真上に放り投げます。
2.ラケット面を下に構えて、ボールをバウンドさせる。
これだけです(笑)。
このとき、ボールの落下ベクトルとラケット面が直角の場合、回転もせずただただはねるだけ。
で、今度は、ラケット面をちょっとだけ傾けて、同じようにしてみてください。
と、次のようになるはずです。
そう、ボールは勝手に回転するのです。
これは、これだけを見れば、ラケット面を傾けるだけでトップスピンが増す、というのは間違いではない、ということになりますね。
ただ、もちろん、この図を左に90°回転させて、実際に水平にラケットを振って打つような形にしたら、ダメですよ(笑)。
打ったボールが地面に突きささるように飛んでしまうことになりますから。
ネット近くでしか使えない。
そこで次の図。
ラケットを右斜め上に素早く移動させながら同じような角度で当てると、ボールはまっすぐ上、もしくはラケット面に引っ張られて、右に飛びます。
これを90°左に回転させれば、ボールが上方向に向かって飛んでいく形になることが分かりますね。
前傾にしたことによる回転+ラケットを移動させながらボールをこすることによる回転によって、回転数は上がるのです。
これは、参考文献で紹介した「テクニカルテニス」にも書かれている内容で、結構有名な理論です。
まあ某回答者さんの「この論文を読んでないと素人」というほど有名ではないので(笑)、知らなくても普通でしょう。
tqhdh_363さん(tqhdh363さんというカテゴリーマスターとは別人みたい)がおっしゃっている話も、僕が知っているのは、フェデラーのスウィングを125コマ/秒の連続写真で解析すると、8°前方に傾けて30°で振り上げていた、というやつと、後述する実験のやつです。
まあ、これも知らなくて当たり前だと思いますが。
で、その「テクニカルテニス」にも、この「ラケット面の傾き」について記載されており、実際の数値についても書かれています。
細かいのは省略するとして、ボールは3820回転/分で順回転しながら33マイル/h(約53km/h)飛んできていて、軌道が水平になった瞬間にラケットにぶつかるとします。
このとき、ラケット面が垂直のまま、45マイル/h(72.4km/h)で上方30°に振り上げながらボールと衝突したとき、ボールは71マイル/h(114.3km/h)で、上方13.6°に、159回転/分で回転しながら飛び出していきます。
一方、ラケット面を5°傾け、同じく45マイル/hで上方30°に振り上げながらボールと衝突させたとき、ボールは68マイル/h(109.4km/h)で、上方8.6°に、628回転/分で飛んでいくことになるのです。
ね?ラケット面を傾けることで、回転数上がってるでしょ?
ある回答者の方がおっしゃっているような「都市伝説」では決してないのです。
ただ、仰角8.9°で飛んでいくボールがネットを越えるかどうかは別問題です(笑)。
かといって、よりボールを持ち上げるためにラケットをより大きな仰角で振り上げると、今度はラケット面とボールとの相対角度が浅くなりすぎます。
摩擦は物体と面との垂直抗力に比例しますから、あまり薄く当たりすぎると強い摩擦が生じず、かすったような感じなって、かえってスピンがかからないのです。
同じ理由で、ラケットを傾けすぎてもダメ。
だから僕も「厚く握るとトップスピン? その2」で、一般プレイヤーが真似をすると危険だ、というお話をさせてもらったわけですね。
原理としては、ラケットを前方に傾けることで、ラケットの前方への振り出し速度を、回転速度に転化できるようになることが大きいのだと思います。
理論上、最も強いトップスピンをかけるのならば、ラケット面を垂直にして、ボールが当たる瞬間に真上に振り上げるしかない。
でも、そんなことしたら、ボールは全く飛ばない。
だから、ラケットを斜め上前方に振り出すことで、ボールの前進力とスピンを両立させ、狙ったところに入れていくことになるわけですね。
ボールを強くはじくために前方にラケットを振り「出す」ことと、強いスピンをかけるためにラケットを振り「上げる」ことのバランスを取ったとき、ラケット面が数度でも前に傾いていると、一番効率が良いときがある、ということだと思います。
そして、もしも前傾させるとしても10°もいかないぐらいの小さな角度。
分度器見てみてくださいね。
10°って、めっちゃ小さい角度ですから(笑)。
また、ラケットを前傾させるべきかどうかは、スウィングスピードや打点の高さにもよります。
実験ではボールが水平になった瞬間にラケットと衝突していますので、ライジングで打つときと、落ちてくるボールを打つときではまた違うでしょう。
ですから、今回の質問については、みんな間違っているところもあるし、みんな合っているところもある、という複雑なものなのです。
teni05oyaji さんが、過去の回答で、
「回答者全てが不正解」
とか
「先に回答した人達は実践不足、まるでダメ又は足りない回答です」
って書いてたときがありましたが、まさにそれですな(笑)。
まとめると、次のようになります。
・同じスウィングのときに、ラケット面を前傾させることで、スピン量が増加する、ということはあり得る。
・しかし、ボールの射出角度が低くなるため、ネットを越えない可能性があるなどのデメリットもある。
・それをさけるためには、結局ラケットの振り上げ角度を上げなければならず、当たりが薄くなりすぎる危険があるため、一般プレイヤーのスウィングスピードではなかなか難しい。
・ただしそのデメリットを、上からたたき込みやすくなる、ライジングショットでボールを抑えながらスピンをかけやすくなる、などのメリットに転化することは可能で、状況によって使い分けることはあり得る。
といったところでしょうか。
まあ、Yahoo!知恵袋の質問のほうは、傍観しておきましょう(笑)。
もう最近、うちの選手たちやこのブログを見てくださっている人にだけ、自分の理論や知識を知っていただければ良くなってきました(笑)。
また、みなさんがご存じの論文などがありましたが、お教えください。