agriment さんから、コメントをいただきました。
全部ではないですが、読ませていただきました。
ボールをつぶす?が実に理論的で好きでした。笑
私も大学は理系なので、数字的な話がないと納得できない口です。笑。
そこでスピンに関して「厚い当り」のお話があったと思うのですが、
「薄いグリップ」と「厚いグリップ」でスピンのかけやすさに差は出るでしょうか?
個人個人でなにもかもが違うテニスなので一概には言えないと思うのですが、グリップの薄さ、厚さで、「当り」の厚さに影響するか?どちらがしやすいのか?と思いました。
スピンと言えばナダル?(グリップ厚め?)ですが、薄めの代表格?フェデラー?などが決してスピン量で劣っているとは思いません。
数字ではナダルですが。
そこで、薄いグリップでも厚く当てるコツがあればご教授いただきたいです。
たしかに、トップスピンのかかったショットを打つためには、ウェスタン・グリップなどの「厚い握り」である方が良い、ということはよく言われていることですし、実際の体感としても理解できます。
しかし、agriment さんがおっしゃるように、フェデラーのグリップは極端に厚くないにも関わらず、しっかりとしたトップスピンがかかっています。
ラケットを「厚く」握ることと「薄く」握ることの違いはなんでしょうか?
グリップの握りそのものについてはグリップの握り方」シリーズでご説明しているので、そちらをご覧ください。
まず、ボールに順回転を与えるのは、ラケットでありストリングスです。
ボールはストリングスとの摩擦によってストリングス上で一瞬、相対的に静止し、そこから、ストリングスが順回転方向に移動するのに合わせてボールに回転が加わっていく、ということになります。
つまり、トップスピンの量は「いかにストリングス、つまりラケットを順回転方向に素早く移動できるか」によるわけです。
「厚い握り」と「薄い握り」によって生じるスウィングにおける最大の違いは打点の違いです。
そしてこれが、ボールに順回転を与えていくことに大きく影響します。
ボールに順回転をかける方法は2つ。
1つは、よく技術本などにも書かれていることですが、ボールに順回転をかけるとき、ラケットはボールの真後ろをこすり上げるように打つこと。
つまりラケットヘッドを高速で振り上げれば振り上げるほど、トップスピンはかかりやすいということです。
そして、そのラケットヘッドの振り上げが「厚い握り」だとしやすい、ということになります。
ラケットの握りを見てみましょう。
これは「グリップの握り方」シリーズに載せたものですが、先ほども言ったように、厚いグリップと薄いグリップでは、打点が全く違います。
そして打点が違うと言うことは、ラケット面に対する、腕の角度も違う、ということです。
厚いグリップの場合、ラケット面と腕(腕の回転軸)の角度がほぼ直角に近くなるため、「回内+内旋」を利用して腕を回転させると、ラケットヘッドを容易に振り上げることが可能なのです。
腕全体の振り上げに、この「回内+内旋」を連動させることで、ラケットヘッドを急速に振り上げることが可能なのです。
それに対して、薄いグリップの場合は、ラケット面と腕の角度が近く、ラケットヘッドを振り上げるには腕全体を上方に持ち上げるしかありません。
薄いグリップでも、手首を大きく背屈させ、打点を前にすれば可能ですが、そのためには手首の柔らかさと強さが同時に必要で、それこそ、フェデラーのように、一部のプレイヤーにしか不可能なのです。
的確な伸張反射を生むためには、一定の脱力が必要なのですが、薄い握りの場合、手首に無理な力を入れずに打点を前にすると、どうしてもラケット面が上を向きやすくなります。
せっかくラケットを振り上げてもボールをこすり上げることにはならない、ということにもなるわけです。
ナダルの場合、比較的厚めのグリップで、頭上にまで腕を振り上げ、それに加えて回内(前腕)+内旋(上腕)を全てフルに活用することで、強力なトップスピンになるのだと思います。
よく知恵袋などで、
「ストロークに、プロネーション(回内)やパームアウトが必要か否か」
という論争になるのですが、これはケースバイケースです。
以前にもお話ししたとおり、回内という運動の可動域は、ヒジを伸ばした状態では100°程度の小さなものでしかありません。
実際にラケットヘッドを大きく振り上げるほどの動きを再現するには、上腕の「内旋」を含めた腕全体の運動であることを意識しなければ、論点そのものがズレてしまいます。
フェデラーやナダルのような「ストレート・アーム」というヒジを伸ばした状態でインパクトを迎える打ち方の場合、回内(前腕)と内旋(上腕)の回転軸の可動域は、合計で270°にもなるのです。
回内の可動域は100°程度にもかかわらず、内旋を加えると270°ほどのねじれが生まれると言うことは、つまり、ヒジを伸ばした「ストレート・アーム」で打つ場合には、「回内」よりも「内旋」が寄与する割合が高いのです。
ですから、
「ストロークでプロネーションをすると、手首をこねる形になって、手首を痛める」
というのは、半分合っていて、半分間違い、ということになります。
正確に言うならば、
「上腕の内旋を全く使わずに、プロのラケットの動きを前腕のプロネーション(回内)だけで再現しようとすると失敗する」
という感じになるでしょうか。
それに対して、ジョコビッチや錦織、シャラポワのような、ヒジを曲げる「ダブル・ベンド」という打ち方の場合、上腕の「内旋」をラケットの振り上げに最大限活用する、ということができません。
ラケット面の向きと上腕の内旋軸が違うからです。
ダブル・ベンドは、その「内旋」の動きを、ラケットの前方への推進力に転換する打ち方ですから、それはそれでよいのです。
余談ですが、ストレート・アームでのストローク・スウィングの場合、ラケットの推進力は、肩と大胸筋の伸張反射です。
つまり肩や大胸筋に一定以上の筋力がなければ、ストレート・アームは無理なのです。
それを、
「フェデラーやナダルがやってるんだから、いいことのはずだ」
という安直な発想で真似をするととんでもないことになります。
腕を伸ばし、回転軸からラケットが離れれば離れるほど慣性モーメントは大きくなります。
つまり「回しにくくなる」のです。
腕を伸ばせば遠心力が上がる、などというこれまた安直な物理学を持ち出してしまうと、誰かさんのような、横に流れるスウィングになってしまいますので、皆さんは気をつけてくださいね。
話は戻りますが、ダブル・ベンドの場合、上腕の内旋がラケットヘッドの振り上げに寄与しにくい反面、ヒジを曲げることで前腕の「回内」の可動域は一気に180度近くまで広がります。
ダブルベンドの場合、回内での可動域が広がっていますので、よほど強引な回内運動をしない限りは、手首を痛めることはありません。
また、ヒジを曲げることで慣性モーメントが小さくなり、腕全体によるラケットの振り上げ速度が上がることで、トップスピンをかけやすくなっている、ということになります。
これも「ストロークでプロネーションをすると手首を痛める」という、単純な方程式は成り立たない、ということになるわけです。
一番ダメなのは、薄めのグリップで強いトップスピンをかけるために、手首を大きく背屈させ、なんの科学的な根拠もなくストレート・アームにすることで遅いスウィングにしてしまい、それを補おうと強引な回内(前腕)によって推進力もトップスピンも得ようとすることです。
そうなると確実に手首かヒジを痛めますので注意しましょう。
【次回へ続く】