2024年6月19日、参議院本会議において、自民、公明両党の賛成多数で改正政治資金規正法が可決されました。この政治資金規正法とは、政治腐敗を防止する目的で1948年に議員立法として成立したものです。しかし、この法律は「抜け穴」が存在しており、不祥事が起こるたびに改正を迫られてきました。これまでに実際に起こった不祥事について少し振り返ります。

 

1974年 金脈問題で、田中角栄首相が退陣

1989年 リクルート事件で、竹下登首相が退陣

1992年 東京佐川急便事件で、金丸副総裁が議員を辞職

2004年 日本歯科医師連盟による闇献金で、橋本元首相は不起訴、会計責任者が逮捕

 

 今回、政治資金規正法が改正された直接の切っ掛けは、自民党の派閥における政治資金パーティーでした。この問題について、簡単に振り返ってみたいと思います。2022年11月、しんぶん赤旗のスクープ記事により、政治資金パーティーで裏金が作られている問題が表面化しました。政治資金規正法では、政治団体による政治資金パーティーの開催を認めております。参加者は一口2万円程度のパーティー券を購入するのですが、何口購入しても構いません。大きなパーティーになると数千人が集まることもあり、数億円のお金が集まります。このお金は収支報告書に記載され政治資金として運用されてきました。

 

 パーティーを開く政治団体とは、今回の問題であれば阿倍派による清和政策研究会、二階派による志帥会、岸田派による宏池会になります。パーティー券を販売するのは、それぞれの派閥に属する議員たちでした。議員には、パーティー券の販売についてノルマが課せられています。このノルマを超えてパーティー券を販売した場合、その差額分は議員に返ってくるという暗黙の了解がありました。この差額分がキックバックと呼ばれています。このお金が裏金であり、政治資金として収支報告書には記載されませんでした。

 

 2018年から2022年の5年間で集めた裏金の総額は、安倍派が6億円、二階派が2億円、岸田派は3年間で3000万円とされています。この問題に関係する安倍派と二階派の議員は63人にものぼり、多くの議員がこの裏金作りに関わっていました。このことにより、2023年の12月には、松野官房長官を初めてとして安倍派の4人の閣僚と5人の副大臣が更迭になり、萩生田政調会長、高木国対委員長、世耕参院幹事長が党の要職を辞任します。また2024年1月には、安倍派の池田佳隆衆議院議員が政治資金規正法違反の容疑で逮捕されました。キックバックが5年間で4800万円余りと突出していたからです。

 

 このような自民党の派閥による裏金問題を重く見た岸田首相は、1月18日に岸田派の解散を表明しました。続くように安倍派、二階派、森山派も解散を決め、残る派閥は麻生派と茂木派だけになります。自民党の派閥から始まった金と政治団体の問題を規正するために、政治資金規正法の改正が望まれました。

 

 公明党は、1月18日にこの問題の再発防止策として「政治改革ビジョン」を発表します。どの政党よりも早くに、この問題の解決に向けて動き出しました。6月19日に成立した改正政治資金規正法は、概ねこのビジョンが反映されています。今回の改正についてポイントをご紹介します。改革の大きな柱は、「責任と罰則の強化」と「透明性の向上」になります。

 

 まず「責任と罰則の強化」についてですが、「連座制」を強化しました。このような問題が発覚した時、今までは議員は監督責任を問われませんでした。政治団体の会計責任者だけが責任を負っていたのです。今後は、政治団体の収支報告書に対して、議員は確認したことを示す「確認書」の提出が義務づけられました。仮に、収支報告書に不記載や虚偽記載が認められた場合、議員は罰金刑を科せられ、公民権の停止に追い込まれることになります。これまでのように「知らなかった」と逃げることができません。

 

 「透明性の向上」については、パーティー券購入者の公開基準額が大きな争点になりました。これまでは20万円を超えた購入者のみ名前を公開すれば良かった。ところが、これでは甘すぎるのです。透明性の向上とは、企業献金、団体献金による議員の利益誘導を無くすことが目的になります。しかし、何かしらの団体が20万円を超えないパーティー券を複数購入すれば、隠された団体献金が成立してしまいます。この公開基準額が5万円に引き下げられました。また、パーティー券の購入は現金ではなく口座振り込みに限定することによって、透明性を更に向上させます。

 

 また、政党から各議員に対して「政策活動費」が支払われることが認められています。これまでは、その使途について明記する必要がなくブラックボックス化していました。この使途について、これからは「第三者機関」が調査することになります。一部報道で、領収書の公開が10年後ということで問題になりました。しかし、今回の政治資金規正法では、政策活動費の使途について、「項目別の金額」と支出した「年月」を収支報告書に記載することを義務づけ、毎年「第三者機関」が調査を行います。ここには政治的な駆け引きがあったと思いますが、より透明性が向上したことは確かになります。

 

 因みに、2022年度の各政党の政策活動費を参照します。自民党が14億円、立憲民主党が1億円、国民民主党が6800万円、日本維新の会は5000万円、社民党が700万円になるそうです。公明党、共産党、れいわ新選組等は、政策活動費の支給がありません。自民党の支給額が突出していることが分かりますが、自民党を攻めている立件民主党や日本維新の会もこの政策活動費を利用していました。ここは公正な目で見ていく必要があります。

 

 他にも、改正政治資金規正法の改正点はありますが、今回は大きな柱だけご紹介させて頂きました。この問題を俯瞰してみて、政治とお金の問題は実に根深いものだと感じさせられました。政治を金儲けとしか考えていない議員は政治の場から即刻退場して欲しいですが、政治という世界が構造的にお金が掛かってしまうのも事実だと思います。ひとたび選挙が始まれば、多くの人が借り出され、お金が動きます。議員の政治信条を人々に理解させていくという行為は並大抵の事ではないでしょう。

 

 元外交官の佐藤優氏が、この日本の政治スタイルに対して「宴会政治」と揶揄していました。考えてみれば、日本は古来から「宴会政治」を行ってきました。大和王権の政治は、神人供食による直会になります。大和王権に従う各豪族は自国の貢物を大和王権に貢ぎました。そうした貢物は、神饌として神に捧げられた後、皆に振舞われ宴会が始まります。このように大王から配下に下賜する関係性によって、強固な豪族連合を築いてきました。正に宴会政治になります。

 

 現代の日本は、表向きは議会制民主主義になります。主権は私たち国民にあります。しかしながら、実態は古代の日本とあまり変わらない。世界に目を向けると大半の国が封建的な国家運営を行っています。国家運営が上手くいっているのなら、親分子分の宴会政治でも僕は構わないと思います。ただ今回の問題で悪質なのは「闇金を作るという隠ぺい体質」でした。議員とは、国の利益のために選ばれた人になります。それなのに国のためではなく、自分の懐を肥やすことに一生懸命な議員が焙りだされたのが今回の問題でした。そんな議員はいりません。僕たちにできるのは、議員を見抜く目を磨くことです。一人一人が日本の未来を考え、政治に参加していく……そうした気風が育たない事には、政治腐敗の一掃はかなり難しそうです。