今回の二泊三日の旅では、多くの博物館を訪問するスケジュールを立てています。そうした博物館で現地でしか分からない情報を拾い上げてみたい。本を読むことでも様々な知見を得ることは出来ますが、実際に目にするという行為は五感で感じることができます。僕の記憶に刷り込まれ、同じ情報でも理解度が増すような気がするのです。またそうした歴史的探究とは別に、折角なので観光も楽しむつもりです。豊岡市には有名スポットである玄武洞があります。行ってみました。

 

 日本列島は、マントルの対流によって地殻が沈み込んでいく日本海溝に沿うようにして存在しています。その日本海溝の深さは、なんと8000メートル。日本一高い富士山を二つ並べても届かない深さになります。そうした日本列島は火山大国でもあり、この地球に存在している活火山の一割がこの日本列島の周辺にあるそうです。僕が生まれてからも幾たびか火山の噴火がありました。今回訪れた玄武洞は、そうした火山のマグマが冷えて固まった火山岩で出来ています。

 

 玄武洞に訪れたことがある方ならご存じだと思いますが、ここではとても奇妙な岩の姿に出会うことが出来ます。イメージとしては、六角形のドデカイ鉛筆を大量に集めて大地に突き刺したような感じでしょうか。自然なものなのに誰かがデザインしたような規則性が、とても奇妙でした。また柱状の岩は、縦に伸びるだけではなく横にも伸びていて、更には全体的にグニュッと曲がっている個所もあります。ジーッと眺めていると、この地球の筋肉繊維が剥きだしになっているような錯覚をしてしまい、岩そのものが生きているようにも感じました。

 

 固い岩が柱状になっているのは、マグマが冷える時に結晶化したからだそうです。このような地質構造を柱状節理(ちゅうじょうせつり)といい、世界各地にこのような岩が存在しているそうです。日本においてはこの玄武洞があまりにも有名なことから、ここにある性質の火山岩のことを玄武岩と呼ぶようになりました。火山岩は他にも様々な種類があり、縄文時代に重宝されたガラス質の黒曜石やサヌカイトも火山岩になります。薄く剥がれるとナイフのような切れ味を見せるので、とても重宝されました。長野県で産出される黒曜石は特に有名で3万年前から利用されており、縄文時代には日本各地に流通されていたようです。

 

 この玄武洞公園には他にも青龍洞、白虎洞、南朱雀洞、北朱雀洞がありました。これらの名前は、中国の神話である四神が由来になっています。奈良県明日香村にある高松塚古墳の石室には、この四神の絵が描かれていました。それぞれが方角を示しており、青龍ー東、朱雀ー南、白虎ー西、玄武ー北となっております。高松塚古墳の石室の四神は正確に方角を示していました。ところが、玄武洞に関していうと、それぞれの洞はほぼ南北一直線に並んでおり、名前の由来と方角は関係がないようです。なぜそのように名付けられたのでしょうか……。

 

 ところでこの玄武洞は、国際連合教育科学文化機関――略称ユネスコから「山陰海岸ジオパーク」として認定されています。ジオパークとは、地球科学的な価値を持つ大地の遺産を保全する試みとして2000年頃に立ち上がったプロジェクトで、「大地の公園」という意味になります。旅の前半は、丹後半島を時計回りに走るのですが、グルっとジオパークになります。素晴らしい景勝地の数々を目にすることになるのですが、順を追ってご紹介していきたい。

 

 玄武洞を後にした僕は、次の目的地である「丹後古代の里資料館」に向かいました。玄武洞からは、およそ45km。途中には久美浜湾や琴引浜があります。琴引浜は、砂の上を歩くと音が鳴る「鳴き砂」が有名だそうで体験してみたかったのですが、今回はパス。なぜならスケジュール的な問題がありました。丹後古代の里資料館は、丹後半島の間人(たいざ)にあり、今回の旅の最大の目的地になります。なので、じっくりと見学するつもりでした。しかし、僻地にある博物館のせいか、閉館時間が夕方の4時なのです。もたもたしていると見学する時間が無くなります。寄り道をせず、真っすぐに走るつもりでした。つもりだったのですが、妙な看板を見つけました。

 

 ――地酒ソフト

 

 一旦は通過したのですが、かなり気になりました。橋の上でスーパーカブを停めます。ソフトクリームが食べたかったのではありません。地酒というワードに心が魅かれたのです。今晩の野宿飯で、丹後半島の魚の干物を食べることを僕は決めていました。干物には日本酒を合わせるしかありません。日本酒を呑むのなら丹後の地酒……が普通の判断かと思います。ところが、二つの理由で僕は地酒を買わないことにしていました。一つは呑んだ後の空瓶が荷物になること。次に地酒は単純に高いからです。今回の旅で、僕は白鶴の「まる」を用意していました。コイツは安いのに美味い。紙パックだから、呑んだ後は焚火の材料になります。でも……引き返しました。

 

 その酒蔵の名は、木下酒造になります。実は、事前にチェックしていました。天保13年の創業で実に180年の歴史がある酒蔵になります。この酒蔵の特徴の一つが、フィリップ・ハーパーさんという外国人杜氏の存在です。従来的な発想に縛られることなく、新しい日本酒の価値を提供していることで有名でした。酒蔵の外観は、黒い柱が特徴的な純日本家屋。古い建築なのに手入れが行き届いており、全体的に清潔感がありました。日本酒のブランドは「玉川」で統一されているようですが、様々な個性を持つ日本酒を用意しています。

 

 地面に届きそうな薄茶色の玉川と印字された暖簾を潜ると、暗いながらも間接照明やスポットライトを多用した販売コーナーが現れます。様々な日本酒がスタイリッシュに陳列されており、現代風な演出なのに日本的なわびさびを感じました。日本酒の種類は、純米酒や吟醸酒をはじめ、醸造方法にこだわった山廃や、日本酒本来の味を楽しむ無濾過など色々とあるのですが、特に変わった日本酒が「Ice Breaker」。アルコール度数が17度を超えていて、ロックで飲むことを推奨しています。僕と同じように店内に入ってきたお客様が、その「Ice Breaker」を求めていましたが、その時は在庫がありませんでした。

 

 陳列された様々な日本酒の中から、とても気になったのが「純米酒(山廃) "Vintage"」でした。普通の日本酒はフレッシュさを楽しみます。一度開栓してしまうと、日本酒は酸化が始まってしまい味が変わるからです。ところがこの"Vintage"は、日本酒なのに3年も寝かしていました。過去に友人から、和歌山産の日本酒で寝かしたものを頂いたことがあります。日本酒なのにカラメルの様な風味がしました。ただ、美味しいかというと好き嫌いが分かれる日本酒です。僕は特に印象に残りませんでした。そんな記憶があったので、スルーするつもりでしたが、キャチコピーで足を止めます。

 

 ――熱燗が美味しい。魚の干物と合わせて……。

 

 今晩は干物を食べるつもりです。この熟成日本酒を熱燗にしたら美味しいのか? 思わず想像してしまいました。僕は様々なお酒を好んで飲みます。日本酒、ビール、ウイスキー、ワイン、焼酎……。そうしたお酒を吞むときに大切にしたいのがアテになります。酒とアテの相性はとても大切です。木下酒造のお薦めに従って、この "Vintage"を熱燗で吞んでみることにしました。今晩がメチャクチャに楽しみです。