僕が乗るスーパーカブは、20年来の付き合いになる相棒になります。通勤の足としてだけでなく、聖徳太子の足跡を巡る旅においても大きな力になってくれました。50ccという将来的には製造されないことが決まってしまった低排気量、更には現代の排気ガス規制に適合していないキャブレター車、そうしたウィークポイントを持つ古いバイクですが、とても好きなのです。大型排気量のバイクに乗り換えたいとは微塵も考えていません。長年連れ添った非力なスーパーカブは、既に僕の身体の一部だとさえ思っています。

 

 ところが以前にもお伝えしたのですが、最近の相棒は元気がありませんでした。吹けが悪く、スピードが乗らない。20年も乗ってきたので所々にガタが来ているのです。オイル交換は勿論しているのですが、どうも原因はそれ以外にありそうなのです。発火プラグやエアークリーナーといった交換しやすい部品は直ぐに交換しました。あまり変わりません。

 

 先月、キャブレターのオーバーホールを行ってみました。子供の握りこぶしくらいの小さなパーツですが、細かい部品の集合体です。素人の僕が分解洗浄するのはかなり怖かったのですが、何とか組み直して取り付けることが出来ました。こわごわとアクセルを握ってみます。軽快な吹け上がり。バイクが軽くなったような調子のよさです。ただ、エンジンは快調なのですが、それでもスピードが出ません。エンジンのパワーが、スーパーカブの推進力に伝わっていないようなのです。

 

 思案したあげく、バイクに詳しい友人に相談しました。すると、彼からクラッチの調整をするように勧められます。説明通りに、ドライバーを回し調整してみました。簡単な整備です。様子を見るために、近所を走ってみました。

 

 ――あっ! 気持ちがいい。

 

 アクセルを回すと、回しただけ加速しました。文字だけでは伝わらないと思いますが、スーパーカブと一体になっている感覚があるのです。その時、気がつきました。今までクラッチは滑っていたのです。クラッチというのは、エンジンが生み出すエネルギーを効率的に推進力に変えるための重要な役割を担っています。僕のスーパーカブのように20年間で7万キロも走っていると、そのクラッチが摩耗してしまいます。その状態を「クラッチが滑っている」と表現するのですが、その事を体感的に理解することが出来ました。

 

 トップスピードが出ないことに気づき始めたのは昨年の暮れからです。そういえば昨年の秋に生駒山脈の暗峠を登ったことがありました。ご存じでしょうか、暗峠。「国道」なのに「酷道」とも称される日本屈指の急勾配になります。もっとも急な坂道になると、1速に落としてもエンジンの力だけでは登れません。足で地面を蹴りつつ登りました。登った後の下りも大変でして、エンジンブレーキを掛けたら、ブロロロロロ……と物凄い唸り声を上げるのです。更にはきな臭い焦げた匂いも漂いました。思い返せばあの一件が、スーパーカブに多大なダメージを与えたのだと気がつきました。

 

 クラッチの調整で、スーパーカブの状態は幾分戻りましたが、それでも全快ではありません。通勤に乗り回すだけならもう少し乗れると思いますが、計画ではこのGWに丹後半島に遠出をするつもりです。二泊三日で600kmは走ると思います。なので、キャブレターに続き、クラッチのオーバーホールを決行することにしました。楽しみです。相棒が元気になっていくのはとても気持ちが良いです。